第三話 運命
「君もオリジナルのアバターを作成して、ネットワールドへリンクしよう! もう1人の君も、新たな世界の幕開けを待っている!」
――あるネトゲ
「おばあちゃん、パパ! 大丈夫!?」
攻撃を受けてしまった2人を見て、私は思わず駆け出した。瞬間、魔王が立ちふさがる。
「あなたたちはもう終わりよ」
「くっ!」
一瞬で氷の剣を生成し斬りかかったけれど、また光のバリアで防がれた。
「無駄よ」
魔王が《力》を込めると、剣はもろくも崩れ去った。
「さよなら、おてんば娘」
石化魔法が私を襲う。その時、眼前に氷のバリアが生成され、魔法をはじいた。
「パパ――」
パパの姿は見えない。でも――。
「もうかくれんぼは終わりよ」
光の剣――! 虚空に振り下ろすと、パパの姿が見え、絶叫が響いた。
「ぐあああああああああ!!」
「パ――パ」
パパが膝から崩れ落ちた。太ももから、肩から、生々しい血がしたたり落ちる。
パパが――死ぬ?
「なるほどね、自分の周囲に氷の膜を張り、それを自身の《力》で消すことで姿を隠していたの」
「ぐ、ぐほっ――咲夜、逃げろ」
パパの血反吐が、目に焼き付いた。私はずっと、何もできないでいた――。
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「母さん……俺、行かなきゃ」
「あの人の話を聞いていなかったの? お兄ちゃんはちゃんと、最後まで修行しなよ」
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お母さんが敵を引き付けた時、あの時私は知ったような口をきいたけれど、助けに行くべきだった? そうすれば、未来は変わった?
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「銀太殿を、お頼み申す」
「わかった。すぐ戻ってきてよ」
「行って参る。銀太殿と朔殿に、よろしくお伝えくだされ」
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倒したはずのディアナは、生きていた。抜け目のないラギンはそれに気が付いていて、私を逃がしてくれた。私は――自分のことで精いっぱいで、何も気がつかなかったのに。
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「咲夜!」
「ぎ、銀太先輩――」
「間に合ってよかった――し、死ぬなよ、咲夜――」
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油断した私を石化から救ってくれたのは、能力を持たない銀太先輩だった。ううん、能力なんて関係ない。銀太先輩はいつだって、私のわがままを聞いてくれた、私の大切な仲間だった。
みんながいなきゃ、この熱い心臓は動いていない。今度は私が、みんなを守る番だ。
「銀太君を無駄死になんかさせたら、私があなたを石にする」
私の中から声が聞こえた。
おばあちゃんが立ち上がり、《力》を集中させた。そうだよ、まだ勝機はある。私たちが、力を合わせれば――あの時みたいに!
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「うん。私、結構自分に自信あるんです」
「自信家なんだね」
「美海さんのおかげ」
「……あなたたちって、不思議な人。全然意味わかんないよ」
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おばあちゃん、あの時の言葉、嘘じゃないよ。
運命が、もう一度私たちを引き合わせてくれたんだ。時を越えて――。
時に、負けるなって!
「お好きにどうぞ、もう1人の私!」
駆け出して、パパの前に立ちふさがった。《力》がみなぎっている。
「咲夜! 逃げろと言ったはずだ!」
「お母さんのパワーを感じない……パパだって気が付いてるんでしょう? ラギンも、銀太先輩も――私のせいで石になったの。ここで逃げたら、こいつを倒した時、みんなを抱きしめられない」
「咲夜……」
おばあちゃんはあれをする気だ。私が少しでも時間を稼ぐ!
「はあっ!」
「あの時も、《冷徹》が一番生意気だったの、私知ってるわ」
「え――?」
私と魔王の拳が、正面からぶつかった。ビリビリと振動が伝う。
「ボディーがガラ空きだよ!」
ハーティアの声。私にしか聞こえていないのだろうか。
「私が指示を出す! 早く勝負を決めよう!」
「私に味方していいの?」
「さぁね。私はこの身体で暴れたいだけ!」
「……この、おてんば娘!」
魔王のみぞおちに拳を撃ち込む。魔王はお腹を押さえながらこらえ、踏みとどまった。
「ぐ……動きが変わった?」
「まだまだ!」
手を緩めずに、ガンガン向かっていく。
「右! 左! 上! かわして! そこ!」
ハーティアの指示で、確実に魔王と渡り合っていく。いける!
「なるほど……そういうこと」
ハーティアの存在に感づかれた!? だとしても、このまま突き進むだけ!
「せいっ!」
私の右脚と魔王の右脚がクロスする。振動が伝う。けど。
「はっ!」
沿った胸に、気功波を放つ。奥のおばあちゃんに目をやると、着実に生成が進んでいる。
「ぐっ。これが、あなたたちの言う仲間の力なの……?」
「はあああああああああ!」
小さな気弾を連射する。奴が上に逃げたところで、《力》を込める。
「相手が上空にいるなら、気兼ねなく撃てる!」
「真っ向勝負ってわけね……悪くないわ」
「闇の気功波よ! 気を付けて!」
2つの気功波がぶつかる。押し切ろうと両手を使うけれど、魔王の気功波はビクともしない。
「ぐ……ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
「青二才が図に乗ってはダメよ。私はまだまだ、2割も力を出していない」
魔王の不敵な笑み。闇のオーラが奴を包んだ瞬間、均衡が破られた。
「きゃあああああああああ!!」
直撃――私はその場に倒れこんだ。
「寝てる暇なんてないわ。早く起きて」
ハーティアが急かす。手を伸ばすけれど、手の感覚がなかった。
「魔王様の術にかかってしまったみたい。落ち着いて、とりあえず立つのよ」
「あれこれ口うるさいなぁ」
立ち上がって汚れてしまった衣服をはたく。目の前に広がるのは、永遠に続く闇だった。
「まっくら――何も見えない」
「幻術――かしら? 落ち着いて、魔王の位置を補足して」
「言わなくてもわかってる!」
眼を閉じ、位置を割り出す。――見つけた。何かに向かって移動している。普通に考えれば、私かパパかおばあちゃん――誰? 誰が狙われているの?
「……わかんないな」
「だったら正面突破でしょ!」
つぶされる前につぶす。家族がノーガードになるけれど、早く勝負をつければ問題ない!
「はあああああああああ!」
氷剣を携え、魔王の《力》へ向かう。これで――決める!
闇が消え、魔王の背中が見えた。魔王の、背中――?
「違う、これはパパだよ!」
誤認させられた!? 振り上げた剣はもう止まらない!
「さ、咲夜!?」
驚きの表情とともに、パパが振り返る。お願いパパ、防いで――!
高い金属音が響いた。剣が、止まった――。
「こうしていると、昔を思い出すね、サキちゃん?」
目の前ではにかむように笑う女性。ああ、私ってばまだまだだなぁ。
「準備、できたよ」
「おばあちゃん――次で決めよう!」
読んでいただきありがとうございました。次回、咲夜vs魔王、完結です! 勝つのはどっちだ!?
次回、第四話「薄命」。お楽しみに!




