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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第六章 血縁という名の呪縛
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第二話 宿命

「佐久間、炸亜と結婚したらどう?」


「え……確かにお綺麗だとは思いますが、そんなつもりは……」


「もっと人生を楽しんでいいのよ。あなたたちは、その時代に生まれた」



――ある家族の会話



 「おいおい、おしゃべりが過ぎるぜ。お客さんだ」


 断りもなく《第三の世界》に侵入してきた人物。ボクは自分の眼を疑った。


「お、お前は――!」


「時の魔王――咲夜」


 いつからか、檻の中から見ていたのだろう。神寺宮美海が口を開いた。神寺宮炸人は、バカみたいに眠っている。


「おばあちゃん。久しぶり」


神寺宮咲夜が、にこやかに笑った。その顔に疲労が見え隠れする。


「ええ。元気だった?」


 「挨拶なんていいでしょう? この娘はもうすぐ死ぬのよ、神寺宮美海」


 優し気な家族の会話。それを破ったのは、


「はじめまして。時の、魔王」


「この私にも物怖じしないの? まったく、憎らしいわね。その傲慢さが、かわいい孫を石にするのよ」


 眼で追いきれないスピードで、何かが咲夜の方に飛んで行った。石化魔法――そう気づいたとき、ある男が割って入る。


「危ないっ!」


短剣からキン、と鋭利な音が鳴り、光線は方向を変え、この世界のシンボルである赤い月を固まらせた。


「邪魔をしたのは、誰」


有無を言わせない邪気。それに対峙したのは、神寺宮家の男。


「パパ――」


「佐久間!」


「お久しぶりです、お義母さん、咲夜」


それを見た魔王が、眉を吊り上がらせる。


 「そう――そういうこと。私たちを不幸にしておきながら、あなたたちはのんきに家族ごっこってわけ。許せない――許せないわ」


「それは、逆恨みってものじゃないかしら?」


「分かっていないようね、神寺宮美海。私たちを不幸にし、私を魔王たらしめたのは、神寺宮炸人、そして安藤美海、あなたたちなのよ。長い時を経て――そうね、これは宿命なのかも」


 旧姓――?


「あなたたちが結ばれるべき人と結ばれていれば、世界は壊されずに済んだのにね。全部、全部あなたたちのせいなのよ」


「……人の恋愛に、口を出さないでくれる?」


「檻に守られて、いつまでもお姫様のつもり? いいわ。そんな盾――壊してあげる」


「無駄だ! ボクの最大限の魔法が込められた檻、いくら魔王でも――」


 魔王が気功波を放つ。爆音とともに、檻はあっさりと破壊された。


「え――?」


神寺宮美海には直撃だったはずだ。


 「おばあちゃん!」


「よう、久しぶりだなぁ、咲夜」


炎の盾――爆音で目覚めた神寺宮炸人が、美海の肩を抱き守っていた。


 「んで、どういう状況?」


「私たちに任せてくれない?」


「でもあれ、魔王だろ?」


「大丈夫、佐久間も咲夜もいるから。《冷徹》の《力》――みせてあげましょう」


 神寺宮美海の右手に、氷の刀が生成される。まともに闘うのは40年以上ぶりなはずなのに、この冷たさ――衰えていないというのか。


「お義母さん――」


「おばあちゃん――それ賛成」


 呼応するかのように、2人からも冷気が発せられる。これが、神寺宮家の《力》――。


「ふざけないで。全力で来なさい、神寺宮炸人!」


珍しく怒りをあらわにする魔王。平然と答える神寺宮美海は、すでに臨戦態勢だ。


「炸人を引きずり出したいなら――私たちを倒してからにしなさい」


「ふ、ふふ……あははははははははは!!!」


突然高笑いを始めた魔王。これは――なんだ? 《希望》をベースに、あらゆる《力》が放出されている。


 「ヒーローはどこまでも自分勝手なのね。いいわ。――みんな石にしてあげる」


「親愛なる私の家族たち――準備はいい?」


「援護します!」


「思いっきり行こう!」


 神寺宮美海が笑った。恐怖と好奇心がないまぜになったあいまいな笑い方。


「――行くわよ」


 神寺宮美海の氷刀から、冷気が一気に放出される。


 始まる。


「はぁっ!」


 凛とした踏み込み、からの一寸の迷いも狂いもない一太刀が、魔王の頭に向かって振り下ろされる。魔王は光の盾で防御している。


「……効かないわねぇ」


「まだまだ」


 連続して太刀を打ち込む。高い金属音が、この狭い世界に響き渡る。1分ほど2人ともその場を動かなかった。


 「……もう終わり?」


「これから始まるのに」


不敵な笑み。2人とも、まだ序の序の口ってことか。


 「何だァ? 2人とも動かねえでつまんねえ」


「いや……やっぱ美海は相当の能力者だ。あれだけ刀を振り続けて、息も乱れてねえし、汗もかいてねえ」


「それ、お前が夫だからひいきしてんじゃねぇか?」


「この1分間に128回の太刀――それをくらってあいつの盾は傷ひとつなし、だ」


 神寺宮炸人――この男、数えていたのか。


「ここは危ないわ、炸人、《悪魔》」


「大丈夫、何かあったら守ってやる。おーい小夜嵐、お前もこっちに来いよ!」


 ボクは神寺宮炸人を一瞥し、無視した。


「え? なんだあいつ……」


 キミが魔王の攻撃を防げるなんて保証は、どこにもない。それを自分自身だってわかっているはずなのに――ペテン師め。


 「あなたの弱点、見つけたわ。攻撃してきなさい」


「それはぜひ――教えてほしいものね!」


 129回目の攻撃がヒットする寸前、魔王が盾の内部から水の光線を発射した。


「その攻撃スタイルじゃ、防御が手薄よ」


神寺宮美海は、笑顔を緩めない。瞬間、やつの水が凍っていく。


 「あの《力》――美海のものじゃない」


「佐久間だ」


「神寺宮佐久間――姿が見えないだけじゃない。気配も――《力》ごと消えている。悟られずに《力》を操れるなんて、優秀な策士ね」


「私は1人じゃない――家族がいる」


「家族……私が一番嫌いな言葉よ」


 「スキありっ!」


魔王の背中に飛び蹴りを試みたのは、神寺宮咲夜。魔王の盾がバリアに切り替わる。


「ぐ、ぐぎぎぎぎ――」


「たった1つの《感情》だけで、私を突破できると思って?」


「そういうあなたも、まだ手加減しているんでしょう? さっきの攻撃、私に有利な《冷静》だった」


「馬鹿な女ね。言わなければ少しは楽しい勝負になったのに」


「――お互い本気でやった方が楽しいわ」


「減らず口を!」


 魔王が右手から、《情熱》を放射する。美海は上に飛んで避け、そのまま空中を旋回する。炎が美海を通り過ぎても、翻って追い回してくる。


「追尾型――!」


「おばあちゃん!」


神寺宮咲夜が冷気を命中させても、炎に変化はない。そのまま向かい合った美海の身体めがけて突っ込んでくる。


「くっ」


 携えた氷刀を投げると、刀が炎を割いた。


「ずいぶん乱暴な使い方ね。でも」


と思ったら、今度は小さな炎が2つになっただけだった。


「これでもダメか――」


「もう1つ」


 床から光の閃光が美海を襲う。さすがの美海も反応しきれないようだ。


「お義母さんっ!」


 音もなく現れた神寺宮佐久間。氷のバリアを張るけれど、閃光はそれを貫通する。


「ぐああ!」


「佐久間――きゃあっ!」


 美海には、小さな炎の一方が命中する。もう一方が佐久間の体内に隠れたのに気が付いたのは、きっとボクと――。


 神寺宮、炸人。


 「みぃつけた。楽しい勝負を、しましょう?」


下品に舌なめずりをする魔王とは裏腹に、氷の三人衆は苦い顔。


 「神寺宮炸人、助けに入らないの?」


「美海が嫌がる。咲夜もだ。――佐久間は、義母と娘を失いたくないだろうが」


 この男――解せない。


「分かっているんじゃないか。このままでは負けると」


「厳しい言い方だなぁ。――正直言って、お前の考える通りだよ。俺が割って入っても、勝てる保証なんてねえ。だがあいつの闘い方――見て損はない」


「自分の家族を実験台にする、と?」


 神寺宮炸人は質問に答えず、美海の方を見据えて言った。


「それによ、お前の言い分には穴がある。確かにこのままじゃ負けちまうが、このままじゃ終わらねえさ。あの恐ろしく冷たい奴らが、こんな生ぬるいので許してくれっかよ」


 神寺宮炸人。彼もまた、笑っている。


読んでいただきありがとうございました。次回、白熱する闘いが続きます!

次回、第三話「運命」。お楽しみに!

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