第二話 宿命
「佐久間、炸亜と結婚したらどう?」
「え……確かにお綺麗だとは思いますが、そんなつもりは……」
「もっと人生を楽しんでいいのよ。あなたたちは、その時代に生まれた」
――ある家族の会話
「おいおい、おしゃべりが過ぎるぜ。お客さんだ」
断りもなく《第三の世界》に侵入してきた人物。ボクは自分の眼を疑った。
「お、お前は――!」
「時の魔王――咲夜」
いつからか、檻の中から見ていたのだろう。神寺宮美海が口を開いた。神寺宮炸人は、バカみたいに眠っている。
「おばあちゃん。久しぶり」
神寺宮咲夜が、にこやかに笑った。その顔に疲労が見え隠れする。
「ええ。元気だった?」
「挨拶なんていいでしょう? この娘はもうすぐ死ぬのよ、神寺宮美海」
優し気な家族の会話。それを破ったのは、
「はじめまして。時の、魔王」
「この私にも物怖じしないの? まったく、憎らしいわね。その傲慢さが、かわいい孫を石にするのよ」
眼で追いきれないスピードで、何かが咲夜の方に飛んで行った。石化魔法――そう気づいたとき、ある男が割って入る。
「危ないっ!」
短剣からキン、と鋭利な音が鳴り、光線は方向を変え、この世界のシンボルである赤い月を固まらせた。
「邪魔をしたのは、誰」
有無を言わせない邪気。それに対峙したのは、神寺宮家の男。
「パパ――」
「佐久間!」
「お久しぶりです、お義母さん、咲夜」
それを見た魔王が、眉を吊り上がらせる。
「そう――そういうこと。私たちを不幸にしておきながら、あなたたちはのんきに家族ごっこってわけ。許せない――許せないわ」
「それは、逆恨みってものじゃないかしら?」
「分かっていないようね、神寺宮美海。私たちを不幸にし、私を魔王たらしめたのは、神寺宮炸人、そして安藤美海、あなたたちなのよ。長い時を経て――そうね、これは宿命なのかも」
旧姓――?
「あなたたちが結ばれるべき人と結ばれていれば、世界は壊されずに済んだのにね。全部、全部あなたたちのせいなのよ」
「……人の恋愛に、口を出さないでくれる?」
「檻に守られて、いつまでもお姫様のつもり? いいわ。そんな盾――壊してあげる」
「無駄だ! ボクの最大限の魔法が込められた檻、いくら魔王でも――」
魔王が気功波を放つ。爆音とともに、檻はあっさりと破壊された。
「え――?」
神寺宮美海には直撃だったはずだ。
「おばあちゃん!」
「よう、久しぶりだなぁ、咲夜」
炎の盾――爆音で目覚めた神寺宮炸人が、美海の肩を抱き守っていた。
「んで、どういう状況?」
「私たちに任せてくれない?」
「でもあれ、魔王だろ?」
「大丈夫、佐久間も咲夜もいるから。《冷徹》の《力》――みせてあげましょう」
神寺宮美海の右手に、氷の刀が生成される。まともに闘うのは40年以上ぶりなはずなのに、この冷たさ――衰えていないというのか。
「お義母さん――」
「おばあちゃん――それ賛成」
呼応するかのように、2人からも冷気が発せられる。これが、神寺宮家の《力》――。
「ふざけないで。全力で来なさい、神寺宮炸人!」
珍しく怒りをあらわにする魔王。平然と答える神寺宮美海は、すでに臨戦態勢だ。
「炸人を引きずり出したいなら――私たちを倒してからにしなさい」
「ふ、ふふ……あははははははははは!!!」
突然高笑いを始めた魔王。これは――なんだ? 《希望》をベースに、あらゆる《力》が放出されている。
「ヒーローはどこまでも自分勝手なのね。いいわ。――みんな石にしてあげる」
「親愛なる私の家族たち――準備はいい?」
「援護します!」
「思いっきり行こう!」
神寺宮美海が笑った。恐怖と好奇心がないまぜになったあいまいな笑い方。
「――行くわよ」
神寺宮美海の氷刀から、冷気が一気に放出される。
始まる。
「はぁっ!」
凛とした踏み込み、からの一寸の迷いも狂いもない一太刀が、魔王の頭に向かって振り下ろされる。魔王は光の盾で防御している。
「……効かないわねぇ」
「まだまだ」
連続して太刀を打ち込む。高い金属音が、この狭い世界に響き渡る。1分ほど2人ともその場を動かなかった。
「……もう終わり?」
「これから始まるのに」
不敵な笑み。2人とも、まだ序の序の口ってことか。
「何だァ? 2人とも動かねえでつまんねえ」
「いや……やっぱ美海は相当の能力者だ。あれだけ刀を振り続けて、息も乱れてねえし、汗もかいてねえ」
「それ、お前が夫だからひいきしてんじゃねぇか?」
「この1分間に128回の太刀――それをくらってあいつの盾は傷ひとつなし、だ」
神寺宮炸人――この男、数えていたのか。
「ここは危ないわ、炸人、《悪魔》」
「大丈夫、何かあったら守ってやる。おーい小夜嵐、お前もこっちに来いよ!」
ボクは神寺宮炸人を一瞥し、無視した。
「え? なんだあいつ……」
キミが魔王の攻撃を防げるなんて保証は、どこにもない。それを自分自身だってわかっているはずなのに――ペテン師め。
「あなたの弱点、見つけたわ。攻撃してきなさい」
「それはぜひ――教えてほしいものね!」
129回目の攻撃がヒットする寸前、魔王が盾の内部から水の光線を発射した。
「その攻撃スタイルじゃ、防御が手薄よ」
神寺宮美海は、笑顔を緩めない。瞬間、やつの水が凍っていく。
「あの《力》――美海のものじゃない」
「佐久間だ」
「神寺宮佐久間――姿が見えないだけじゃない。気配も――《力》ごと消えている。悟られずに《力》を操れるなんて、優秀な策士ね」
「私は1人じゃない――家族がいる」
「家族……私が一番嫌いな言葉よ」
「スキありっ!」
魔王の背中に飛び蹴りを試みたのは、神寺宮咲夜。魔王の盾がバリアに切り替わる。
「ぐ、ぐぎぎぎぎ――」
「たった1つの《感情》だけで、私を突破できると思って?」
「そういうあなたも、まだ手加減しているんでしょう? さっきの攻撃、私に有利な《冷静》だった」
「馬鹿な女ね。言わなければ少しは楽しい勝負になったのに」
「――お互い本気でやった方が楽しいわ」
「減らず口を!」
魔王が右手から、《情熱》を放射する。美海は上に飛んで避け、そのまま空中を旋回する。炎が美海を通り過ぎても、翻って追い回してくる。
「追尾型――!」
「おばあちゃん!」
神寺宮咲夜が冷気を命中させても、炎に変化はない。そのまま向かい合った美海の身体めがけて突っ込んでくる。
「くっ」
携えた氷刀を投げると、刀が炎を割いた。
「ずいぶん乱暴な使い方ね。でも」
と思ったら、今度は小さな炎が2つになっただけだった。
「これでもダメか――」
「もう1つ」
床から光の閃光が美海を襲う。さすがの美海も反応しきれないようだ。
「お義母さんっ!」
音もなく現れた神寺宮佐久間。氷のバリアを張るけれど、閃光はそれを貫通する。
「ぐああ!」
「佐久間――きゃあっ!」
美海には、小さな炎の一方が命中する。もう一方が佐久間の体内に隠れたのに気が付いたのは、きっとボクと――。
神寺宮、炸人。
「みぃつけた。楽しい勝負を、しましょう?」
下品に舌なめずりをする魔王とは裏腹に、氷の三人衆は苦い顔。
「神寺宮炸人、助けに入らないの?」
「美海が嫌がる。咲夜もだ。――佐久間は、義母と娘を失いたくないだろうが」
この男――解せない。
「分かっているんじゃないか。このままでは負けると」
「厳しい言い方だなぁ。――正直言って、お前の考える通りだよ。俺が割って入っても、勝てる保証なんてねえ。だがあいつの闘い方――見て損はない」
「自分の家族を実験台にする、と?」
神寺宮炸人は質問に答えず、美海の方を見据えて言った。
「それによ、お前の言い分には穴がある。確かにこのままじゃ負けちまうが、このままじゃ終わらねえさ。あの恐ろしく冷たい奴らが、こんな生ぬるいので許してくれっかよ」
神寺宮炸人。彼もまた、笑っている。
読んでいただきありがとうございました。次回、白熱する闘いが続きます!
次回、第三話「運命」。お楽しみに!




