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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第一章 そよ風がはこぶ冒険の物語
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第八話 淘汰

 これから僕がどうすべきか。その答えは明白だ。



 「お前の力が――必要な時も必ずやってくる――だから、今は日常生活を楽しめ」


 僕の力。僕の炎の力。それを今、使う時が来たんだ。


ニュクスやエアが言っていたように、あの人たちは別に僕をはめようとしていたわけじゃない。ニュクスは俺の両親との約束を守り、できるだけ僕をハーノタシア星での闘いに関与しないようにしていたんだ。


その言いつけを破ってでも、呪われた運命にケリをつけたい。だとしたら――


ダメだ。まだ決心がつかない。


 僕はパソコンの電源を入れた。



************************************


 「どうして、そんなこと聞くんですか」


ありゃりゃ、今度は敬語か。こりゃこの後、エアと私たち不仲になるだろうなー……。


でも、ここまで来たら後は真相を突き詰めるしかない。


「だってさあ、エアこないだ――」


「植物系能力者――愛の園ニーナ――あなたからも、力を借りることになると思うでちゅ」


「って、言ってたよね。私、一度だけ聞いたことがあったんだ。私のおばあさんの名前、『ニーナ』だって。あの時エアは、私とおばあちゃんが被ったんじゃない? だから私のことをニーナと呼んだ」


 返事はない。構わないさ、覚悟はできてる。


「仮に、私のおばあさんが植物系の能力者だとすると、私もその血を引いてる。私も、そうなんでしょ? 朔と炸人さんと同じように」


「だったら何。あなたも、英雄さんみたいに私を責めるわけ?」


エアは低い声で不平を言った。それはとても、15歳らしくてかわいらしい声だった。妖精なんかでなければ、エアだって普通の女子中学生でいれただろう。


「ううん、違う」


私は数歩先に進んで、エアの方を振り向いた。大きく見開かれた瞳は、完全に美少女のそれだ。頭を下げ、エアを下から覗き込む。


「もし私にできることがあるのなら――協力させてくれないかな? 私を、あの星に連れて行ってくれ」


「――ごめんなさい」


長い沈黙の後、エアは小さな声でそう言った。


「ごめんなさい。あなたの家族がいないのは、全部私たちの――」


その瞬間、エアの体が白く光り輝いた。そして。


「あたちたちのせいなんでちゅ! うわあああああああああああああああああん!」


 幼女は宙に浮き、そして泣き出した。


************************************


★闇魔族のセレモニー★: おっすZAKU氏~。元気にしているでござるか?


ZAKU: ああ

 ほんの数日、ログインしていなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりなような気がした。


日常に戻ってきた感覚。しかしこれも、すべてはハーノタシア星に関係している。


さて――どう切り出したらいいものか。と、思っていたら、珍しく向こうの方から声をかけてきた。


★闇魔族のセレモニー★:ZAKU氏、大事な話があるでござる


ZAKU: なんだ?


★闇魔族のセレモニー★:突然で申し訳ないでござるが、自分とオフ会をしてほしいでござる


 そう来たか。いいだろう。


ZAKU: わかった


★闇魔族のセレモニー★:やけに即決でござるね、自分のことを疑わないでござるか


 もう全部疑ったよ、そして全部本物だった。


ZAKU: ああ。で、いつにする?


★闇魔族のセレモニー★:実は、もう東京に来てるでござる。本当に急でござるが、今からでも――


ZAKU: わかった。すぐ行く。


★闇魔族のセレモニー★:少し覚悟して聞いてほしいでござる


ZAKU: 何も言うな。全部わかってるから。


 お前だってわかっているんだろ――? だってお前も、『リンク』してるんだから。


************************************


 本当なら僕は、怒るべきなのかもしれない。ニュクスたちは、「見つけて来い」と言ったけれど、既にその作業は完了していたということか。それも、僕が呼び出されるずっと前から。


 闇魔族とは、半年ほどネトゲで一緒だった。あいつは初期からああいう話し方をしていたわけじゃない。あいつ自身は神のお告げなんて言っていたけれど、おそらくはニュクスたちの差し金――。


ニュクスの復活、闇魔族のセレモニーにはあの忍者の力も必要だった。きっとその作戦会議のためか何かで、あの忍者もこっちにくる必要があったんだろう。その時に、『ポーター』にその旨を理解してもらう必要があった。だからあの中の誰かが、事の成り行きをすべて話した。


――だからあいつは、あんなハンドルネームとしゃべり方に変えたんだ。あの忍者に、ラギンに合わせるために。


 結局僕は、振り回されているだけかもしれない。


全然かっこよくないじゃないか。


僕は、気持ちが吹っ切れるのを願いながら、集合場所に急いだ。


************************************


 集合場所は新宿だった。東京に住んでいるとはいえ、普段あまり外出しない僕にとって、新宿は新鮮だった。たくさんの人がいる。誰もが、僕には関心がない様子で急ぎ足で去っていく。そうだ、僕はこういう雰囲気が怖かったんだ。だから大学にも行かずに――。


なのに、勝手に振り回されて。何なんだよ、僕の家族をバラバラにした時の魔王ってやつは! いったい何が目的なんだ!


 「待たせたな」


 低い男の声が聞こえた。顔を上げると、そこには低身長の男がいた。

 しゃれた銀色のコートを着ている。コート? この真夏に、コートだ。完全に周りからは、奇異の目で見られている。僕なら、周りの目が気になって絶対にこんな恰好はできない。もしかしたら僕がずっと友人だと思っていた男は、頭がおかしいのかもしれない。

下は――同系色のズボン、長ズボンだ。こいつは、暑くないのだろうか。


コーヒーショップの匂いが嫌なのか、すん、と1度鼻を鳴らして、


「お前がZAKUか」


とぶっきらぼうに問うた。僕は質問には答えず、


「それ、暑くないのか」


と聞いた。それが、俺たち初のオフ会での初の会話だった。


 「肌を晒したくないだけだ」


と、闇魔族はコートの理由を説明した。額には、じっとりとした汗がにじんでいる。結局闇魔族は、僕が名乗ってもいないのに、あまり警戒せずに僕の向かい側の席に座った。


「病的に白いからな」


「気にしなくてもいいのに」


「俺の名前は銀太。篠原銀太だ。お前は?」


「ぼ、僕は神山朔。よろしくな」


 さっきから微妙に会話がかみ合っていない。初対面はこういう感じなのだろうか。ていうか、あのござるキャラはどうしたんだ。


「単刀直入に言う。俺はハーノタシア星の戦争の関係者らしい。お前もそうだろう?」


「あ、ああ――」


 闇魔族、いや、銀太の真っ直ぐな瞳に気圧される。それは、エアの瞳にそっくりだった。


「詳しいことは聞いていないが、お前を説得させて、あの星に連れて来いと言われている」


「それ、誰に?」


「ニュクスだ。わかるか?」


 話が食い違っている。ニュクスたちはラギンのポーター――つまり銀太を連れて来いと言ったはずだが、銀太は僕を連れて来いと言われている。どちらも、ニュクスに踊らされているってわけだ。


「わかるよ。でも、おいそれとついていくわけにもいかない」


「なぜだ」


 銀太の上目遣いの瞳が僕を捉える。

 

 ウエイトレスの悲鳴が聞こえたのは、その時だった。


************************************


 私は、エア(幼女)が泣き止むのを待ってから、詳細を聞くことにした。


 秋の風が、吹き抜けていく。とても心地よかった。


 「私の家族がいないのは、エアたちのせいって、どういうこと?」


泣き止んで少し冷静になったエアは、語り始めた。


「あなたのおばあさん、ニーナと、あなたのおじいさんダグラは、地球人ではないでちゅ。純粋なハーノタシア星人――もっと言うと、その息子、新垣草薙≪くさなぎ≫も純ハーノタシア星人でちゅ」


「お父さんが――どうして、ハーノタシア星人が地球、それも日本に?」


「神寺宮家は、新垣家と異なって、全員が日本人でちゅ。神寺宮炸人が私たちの星に来たのは事故みたいなもので――本当は彼が来ること自体、想定外だったでちゅ」


エアは、少し間をおいてから、説明を再開した。


「まぁとにかく――世界征服を企むシーボルスという男との死闘で生き残った神寺宮炸人でちたが、その後ネクローというシーボルスの仲間に殺されたでちゅ。ニーナはその戦いに巻き込まれて、神寺宮炸人と一緒に」


 エアはまた泣き出しそうになっていた。私も落ち込みたい気分だけれど、そんな場合ではない。


「そうだったんだ。話してくれてありがと」


「神寺宮炸人のこともそうでちゅけど、エアたちがもっとしっかり闘っていれば、英雄たちは守られたでち。本当にごめんなさいでち」


「ううん。エアが自分を責めることはないよ。私も、大体のことがわかってよかった。私のおじいさんは、生きているんだよね?」


「ダグラのことでちゅけど、ダグラは――はっ!?」


 突然、エアが何かを察知したようだ。険しい顔つきになる。


「ど、どうしたの」


「近くで妖しい力を感じたでちゅ。行かなきゃ行けないでち」


「もしかして――」


「刺客でち。奴等、地球にまで攻め込んできたでちか!」


 エアはぴゅうっと小さな風を起こすと、私の隣にくっついた。


「手を握ってくださいでち。なつみの力で、成長するでち」


「わ、わかった」


 私がエアの小さな手を握ると、エアの体は、私が朔の家で見たときと同じように、白く輝きだした。


「私がいいっていうまで――離さないで」


 さっき聞いた、エアの少女らしい可憐な声が戻ってきた。しかし、もういいとはまだ言わない。


 長い。手を握っているのが辛くなってきた。まるで、力が抜けるような――。


「ねえ、そろそろ――」


「いいよ」


長い握手の後に白い光の中から現れたエアは、さっき見たときより少し大人びていた。おでこにある、緑色のつややかな髪の両サイドにあるツインテールの輪っかが、さっきより大きい。


「レベル4。かなりなつみの力をもらっちゃった。辛かった?」


「ううん、大丈夫」


 推定20歳のエアの声は、透き通るように高く響いた。


「乗って。なつみの力も必要になると思う」


エアの妖精の羽根は、幼女の時は飾りのような感覚だったが、今は人間2人分を乗せられるぐらいに立派で神々しい羽根に変化している。


「で、でも私、まだ闘いとか、植物の力とかは、自信ないっていうか」


私が言いよどむと、エアは呆れた顔をして言った。


「何言ってるの。なつみはもう充分、植物の能力を発揮してる。だって、この紅葉きれいだけど――今は、真夏だよ」


************************************


 ウエイトレスの悲鳴を聞きつけて、僕たちはカウンターへと急いだ。そこには、ハーノタシア星で見たのと同じ、黒づくめの男たちがいた。


「お前たちは!」


「高エネルギー反応。神寺宮朔だな。探す手間が省けたぜ」


「やっぱりハーノタシアの! お前たち、ここへ何をしに来た!」


 僕が問い詰めると、黒づくめは、下品に笑った。黒マスクをしていても、口が横に引き伸ばされたのがわかる。


「お前の隣にいる、水系能力者のポーターを抹殺しにきたのさ。変にこっちとあっちで連携されると面倒なんでね。ポーターはハーノタシア星人と異なって全くの非力だからな」


 銀太を、殺しに来た?


「そんなこと、させない!」


僕の両手に、炎が灯る。


「弱いものから先に淘汰されていく。これが掟ってもんだろ!」


黒マスクは、大声で言い放った。


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