第八話 淘汰
これから僕がどうすべきか。その答えは明白だ。
「お前の力が――必要な時も必ずやってくる――だから、今は日常生活を楽しめ」
僕の力。僕の炎の力。それを今、使う時が来たんだ。
ニュクスやエアが言っていたように、あの人たちは別に僕をはめようとしていたわけじゃない。ニュクスは俺の両親との約束を守り、できるだけ僕をハーノタシア星での闘いに関与しないようにしていたんだ。
その言いつけを破ってでも、呪われた運命にケリをつけたい。だとしたら――
ダメだ。まだ決心がつかない。
僕はパソコンの電源を入れた。
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「どうして、そんなこと聞くんですか」
ありゃりゃ、今度は敬語か。こりゃこの後、エアと私たち不仲になるだろうなー……。
でも、ここまで来たら後は真相を突き詰めるしかない。
「だってさあ、エアこないだ――」
「植物系能力者――愛の園ニーナ――あなたからも、力を借りることになると思うでちゅ」
「って、言ってたよね。私、一度だけ聞いたことがあったんだ。私のおばあさんの名前、『ニーナ』だって。あの時エアは、私とおばあちゃんが被ったんじゃない? だから私のことをニーナと呼んだ」
返事はない。構わないさ、覚悟はできてる。
「仮に、私のおばあさんが植物系の能力者だとすると、私もその血を引いてる。私も、そうなんでしょ? 朔と炸人さんと同じように」
「だったら何。あなたも、英雄さんみたいに私を責めるわけ?」
エアは低い声で不平を言った。それはとても、15歳らしくてかわいらしい声だった。妖精なんかでなければ、エアだって普通の女子中学生でいれただろう。
「ううん、違う」
私は数歩先に進んで、エアの方を振り向いた。大きく見開かれた瞳は、完全に美少女のそれだ。頭を下げ、エアを下から覗き込む。
「もし私にできることがあるのなら――協力させてくれないかな? 私を、あの星に連れて行ってくれ」
「――ごめんなさい」
長い沈黙の後、エアは小さな声でそう言った。
「ごめんなさい。あなたの家族がいないのは、全部私たちの――」
その瞬間、エアの体が白く光り輝いた。そして。
「あたちたちのせいなんでちゅ! うわあああああああああああああああああん!」
幼女は宙に浮き、そして泣き出した。
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★闇魔族のセレモニー★: おっすZAKU氏~。元気にしているでござるか?
ZAKU: ああ
ほんの数日、ログインしていなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりなような気がした。
日常に戻ってきた感覚。しかしこれも、すべてはハーノタシア星に関係している。
さて――どう切り出したらいいものか。と、思っていたら、珍しく向こうの方から声をかけてきた。
★闇魔族のセレモニー★:ZAKU氏、大事な話があるでござる
ZAKU: なんだ?
★闇魔族のセレモニー★:突然で申し訳ないでござるが、自分とオフ会をしてほしいでござる
そう来たか。いいだろう。
ZAKU: わかった
★闇魔族のセレモニー★:やけに即決でござるね、自分のことを疑わないでござるか
もう全部疑ったよ、そして全部本物だった。
ZAKU: ああ。で、いつにする?
★闇魔族のセレモニー★:実は、もう東京に来てるでござる。本当に急でござるが、今からでも――
ZAKU: わかった。すぐ行く。
★闇魔族のセレモニー★:少し覚悟して聞いてほしいでござる
ZAKU: 何も言うな。全部わかってるから。
お前だってわかっているんだろ――? だってお前も、『リンク』してるんだから。
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本当なら僕は、怒るべきなのかもしれない。ニュクスたちは、「見つけて来い」と言ったけれど、既にその作業は完了していたということか。それも、僕が呼び出されるずっと前から。
闇魔族とは、半年ほどネトゲで一緒だった。あいつは初期からああいう話し方をしていたわけじゃない。あいつ自身は神のお告げなんて言っていたけれど、おそらくはニュクスたちの差し金――。
ニュクスの復活、闇魔族のセレモニーにはあの忍者の力も必要だった。きっとその作戦会議のためか何かで、あの忍者もこっちにくる必要があったんだろう。その時に、『ポーター』にその旨を理解してもらう必要があった。だからあの中の誰かが、事の成り行きをすべて話した。
――だからあいつは、あんなハンドルネームとしゃべり方に変えたんだ。あの忍者に、ラギンに合わせるために。
結局僕は、振り回されているだけかもしれない。
全然かっこよくないじゃないか。
僕は、気持ちが吹っ切れるのを願いながら、集合場所に急いだ。
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集合場所は新宿だった。東京に住んでいるとはいえ、普段あまり外出しない僕にとって、新宿は新鮮だった。たくさんの人がいる。誰もが、僕には関心がない様子で急ぎ足で去っていく。そうだ、僕はこういう雰囲気が怖かったんだ。だから大学にも行かずに――。
なのに、勝手に振り回されて。何なんだよ、僕の家族をバラバラにした時の魔王ってやつは! いったい何が目的なんだ!
「待たせたな」
低い男の声が聞こえた。顔を上げると、そこには低身長の男がいた。
しゃれた銀色のコートを着ている。コート? この真夏に、コートだ。完全に周りからは、奇異の目で見られている。僕なら、周りの目が気になって絶対にこんな恰好はできない。もしかしたら僕がずっと友人だと思っていた男は、頭がおかしいのかもしれない。
下は――同系色のズボン、長ズボンだ。こいつは、暑くないのだろうか。
コーヒーショップの匂いが嫌なのか、すん、と1度鼻を鳴らして、
「お前がZAKUか」
とぶっきらぼうに問うた。僕は質問には答えず、
「それ、暑くないのか」
と聞いた。それが、俺たち初のオフ会での初の会話だった。
「肌を晒したくないだけだ」
と、闇魔族はコートの理由を説明した。額には、じっとりとした汗がにじんでいる。結局闇魔族は、僕が名乗ってもいないのに、あまり警戒せずに僕の向かい側の席に座った。
「病的に白いからな」
「気にしなくてもいいのに」
「俺の名前は銀太。篠原銀太だ。お前は?」
「ぼ、僕は神山朔。よろしくな」
さっきから微妙に会話がかみ合っていない。初対面はこういう感じなのだろうか。ていうか、あのござるキャラはどうしたんだ。
「単刀直入に言う。俺はハーノタシア星の戦争の関係者らしい。お前もそうだろう?」
「あ、ああ――」
闇魔族、いや、銀太の真っ直ぐな瞳に気圧される。それは、エアの瞳にそっくりだった。
「詳しいことは聞いていないが、お前を説得させて、あの星に連れて来いと言われている」
「それ、誰に?」
「ニュクスだ。わかるか?」
話が食い違っている。ニュクスたちはラギンのポーター――つまり銀太を連れて来いと言ったはずだが、銀太は僕を連れて来いと言われている。どちらも、ニュクスに踊らされているってわけだ。
「わかるよ。でも、おいそれとついていくわけにもいかない」
「なぜだ」
銀太の上目遣いの瞳が僕を捉える。
ウエイトレスの悲鳴が聞こえたのは、その時だった。
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私は、エア(幼女)が泣き止むのを待ってから、詳細を聞くことにした。
秋の風が、吹き抜けていく。とても心地よかった。
「私の家族がいないのは、エアたちのせいって、どういうこと?」
泣き止んで少し冷静になったエアは、語り始めた。
「あなたのおばあさん、ニーナと、あなたのおじいさんダグラは、地球人ではないでちゅ。純粋なハーノタシア星人――もっと言うと、その息子、新垣草薙≪くさなぎ≫も純ハーノタシア星人でちゅ」
「お父さんが――どうして、ハーノタシア星人が地球、それも日本に?」
「神寺宮家は、新垣家と異なって、全員が日本人でちゅ。神寺宮炸人が私たちの星に来たのは事故みたいなもので――本当は彼が来ること自体、想定外だったでちゅ」
エアは、少し間をおいてから、説明を再開した。
「まぁとにかく――世界征服を企むシーボルスという男との死闘で生き残った神寺宮炸人でちたが、その後ネクローというシーボルスの仲間に殺されたでちゅ。ニーナはその戦いに巻き込まれて、神寺宮炸人と一緒に」
エアはまた泣き出しそうになっていた。私も落ち込みたい気分だけれど、そんな場合ではない。
「そうだったんだ。話してくれてありがと」
「神寺宮炸人のこともそうでちゅけど、エアたちがもっとしっかり闘っていれば、英雄たちは守られたでち。本当にごめんなさいでち」
「ううん。エアが自分を責めることはないよ。私も、大体のことがわかってよかった。私のおじいさんは、生きているんだよね?」
「ダグラのことでちゅけど、ダグラは――はっ!?」
突然、エアが何かを察知したようだ。険しい顔つきになる。
「ど、どうしたの」
「近くで妖しい力を感じたでちゅ。行かなきゃ行けないでち」
「もしかして――」
「刺客でち。奴等、地球にまで攻め込んできたでちか!」
エアはぴゅうっと小さな風を起こすと、私の隣にくっついた。
「手を握ってくださいでち。なつみの力で、成長するでち」
「わ、わかった」
私がエアの小さな手を握ると、エアの体は、私が朔の家で見たときと同じように、白く輝きだした。
「私がいいっていうまで――離さないで」
さっき聞いた、エアの少女らしい可憐な声が戻ってきた。しかし、もういいとはまだ言わない。
長い。手を握っているのが辛くなってきた。まるで、力が抜けるような――。
「ねえ、そろそろ――」
「いいよ」
長い握手の後に白い光の中から現れたエアは、さっき見たときより少し大人びていた。おでこにある、緑色のつややかな髪の両サイドにあるツインテールの輪っかが、さっきより大きい。
「レベル4。かなりなつみの力をもらっちゃった。辛かった?」
「ううん、大丈夫」
推定20歳のエアの声は、透き通るように高く響いた。
「乗って。なつみの力も必要になると思う」
エアの妖精の羽根は、幼女の時は飾りのような感覚だったが、今は人間2人分を乗せられるぐらいに立派で神々しい羽根に変化している。
「で、でも私、まだ闘いとか、植物の力とかは、自信ないっていうか」
私が言いよどむと、エアは呆れた顔をして言った。
「何言ってるの。なつみはもう充分、植物の能力を発揮してる。だって、この紅葉きれいだけど――今は、真夏だよ」
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ウエイトレスの悲鳴を聞きつけて、僕たちはカウンターへと急いだ。そこには、ハーノタシア星で見たのと同じ、黒づくめの男たちがいた。
「お前たちは!」
「高エネルギー反応。神寺宮朔だな。探す手間が省けたぜ」
「やっぱりハーノタシアの! お前たち、ここへ何をしに来た!」
僕が問い詰めると、黒づくめは、下品に笑った。黒マスクをしていても、口が横に引き伸ばされたのがわかる。
「お前の隣にいる、水系能力者のポーターを抹殺しにきたのさ。変にこっちとあっちで連携されると面倒なんでね。ポーターはハーノタシア星人と異なって全くの非力だからな」
銀太を、殺しに来た?
「そんなこと、させない!」
僕の両手に、炎が灯る。
「弱いものから先に淘汰されていく。これが掟ってもんだろ!」
黒マスクは、大声で言い放った。




