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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第零章 遠く遠く、喪失と忘却の彼方に始まりはあった
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光の英雄 ラグレム②

「人の夢と書いて儚い。先に生きたと書いて先生。人の言うことと書いて信じる。くだらない漢字の比喩は、全部炸人から教わったんだ。――嫌いじゃないけどね」

炸人さん、炸人さん。


 私は必死で眠っている炸人さんを起こした。仮設の闘技場に向かう、クライムとラグレムさんが見えたからだ。


「起きてください、炸人さんっ!」


「ん、んん……どうしたんだ? ニュクス」


「あれ、ラグレムさんが!」


私は、闘技場を指さした。ラグレムさんの背中には、エアがおぶさっていた。その姿を後方から見つめる、ヘメラの姿もある。


「あいつら……なんで……! 俺はもうここから出られないって言ったじゃねえか!」


 ふと、強い氷の力を感じた。これは――。


「間違いねえ、美海だ。くそっ、いったい何がどうなってるんだ!?」


「たぶん、こういうことだと思う」


 おそらくクライムは、私たちだけではなく、美海さんやヘメラたちも拘束するためにここに連れてきた。だけどそんなことをしたら、ラグレムさんが抵抗するに決まっている。でも、ラグレムさんは真面目な人だから、不意打ちなんかじゃなくて、正々堂々一対一の勝負をする気なんだ。


「それで、美海はどこにいるんだ」


「ラグレムさんの手助けができないよう、違う部屋に拘束されてるんじゃないかな」


「なるほど……この檻から出られたら一発で倒してやるのによぉ!」


炸人さんは、魔法の檻を思い切り蹴った。檻はビクともしない。


「くっそう、力を奴に奪われてさえなかったら……」


「無理だよ、今の私たちじゃあいつに勝てない」


「だが、ラグレムは力を奪われたわけじゃなさそうだ。頼む、ラグレム。奴を倒して――」


 私たちを、助けて。


*******************************************************************

 「なぜ俺たちを目の敵にする?」

 

闘技場に着いてすぐ、俺は口を開いた。


「なぜ? なぜそんなわかりきったことを訊く。貴様らが悪魔を放置したからに決まっている」


「放置?」


 俺は眉をひそめた。昔、コロウに言われたことを思い出す。「お前は食ってかかりすぎだ。もう少し冷静になれ」と、やつは言っていた。


それはお前の能力者としての意見か? それともそれとは無関係なアドバイスか?


 俺がそう尋ねると、横から美海が口をはさんだ。


「能力の名前なんて、きっと昔の人がつけただけだわ。私だって、いつでも冷徹なわけじゃない」


 いたずらっぽく笑う色白の女に、歴戦の戦士は見とれていた。


 「いいか、よく聞けよ。お前からすれば俺たちはあの悪魔を放置したように見えるかもしれないが、決してそんなことはない。シーボルスとの闘いの後、ダグラが闇の秘宝をちゃんと封印した」


「つまり、」


 男は一歩踏み出した。それは臨戦態勢に入ったという暗黙の意思表示であり、俺の反応速度を計っているようにも見えた。


「お前はダグラのことを信じるということか? 奴はもともとお前たちの敵だったんだろう? しかも奴は、あのシーボルスの息子だ。奴が封印するふりをして、悪魔を逃がしていたかもしれない。実際奴の封印は甘かった。だからネクローの手に渡った。違うか?」


どうやら男は、理屈をこねるのが好きなタイプらしい。俺の嫌いなタイプだ。


「うるせえな」


 俺の思考を誘導、いや洗脳しようという奴の語り口に、俺は怯まなかった。


「ダグラは俺の仲間だ。俺は、いや、俺たちは仲間を信じる」


 肩に乗せていたエアの体が、ぴくりと反応した。まるでそれを合図にするかのように、男の攻撃が俺を襲う。男は、振りかざした右手から、大きな火炎玉を放ってきた。それを避けた時、文字通り肩の荷が降りたことに気が付く。そこに、エアの姿はなかった。


「さすがの反応だな」


 悦に入った男がニヤリと笑った。


「だがお荷物のことまでは気が回らなかったようだな。お前の過失のせいで、尊い命がまた一つ失われた」


 大剣を握る。そして次の瞬間、俺は奴の背後にいた。


「| 残光斬≪ライトニング・スラッシュ≫!!」


 大剣が、奴の背中を切り裂いたはずだった。だが男の背中には、何の傷跡も残っていない。


「驚いたよ」


男が振り向きざまに言った。


「まずはそのスピードだ。瞬間移動を使っているというわけでもないのに、私の背後をとるとはね。そしてその攻撃。なるほど、光といっても発光だけではなく雷撃も使えるのか。確かそちらの能力は未来の神寺宮にはなかったものだ」


「お誉めにあずかり光栄だぜ」


「だが、残念だったな。私は無傷だ」


なぜだ? なぜやつは無傷なんだ?


「私の中には、光の天使の魂が宿っている。ちょうど、ニュクスの肉体にあの悪魔が宿っているのと同じだ」


「天使、だと?」


 光の天使、と男は言った。ならば奴は俺と同じ光属性ということになる。だが、さっき俺に飛んできたのは、炎の玉だった。二重能力者ということなのだろうか。


「天使と悪魔の伝承について知っているか」


「この星に伝わる、昔話だ。だが俺は信じていない」


「お前が信じようが信じまいが、まぎれもない事実だ」


 男から、殺気が消えた。語るつもりなのだろう。



『むかしむかしのおおむかし、かみさまがふたつのたましいをおつくりになられました。――』


「一つの魂からは光が溢れ、白銀の翼で遠くに飛び立っていきました。もう一つの魂は黒く輝き、漆黒の翼で遠くに飛び立っていきました。神様は白い魂を天使、黒い魂を悪魔と呼びました。長い月日を経て、天使はいたずらばかりをする悪魔を懲らしめ、光のしずくに変え、その代わりに天使も消えてしまいました。――伝承はここまでだ。だが最後の文は間違っている。天使と悪魔はまだ生きていた。俺が天使を吸収し、ニュクスが、いや、『ネクスが』、悪魔を吸収する日まで」


 男は伝承をそらんじてみせた。そして、ほとんどすべてのハーノタシア星人に語り継がれている伝承を訂正した。


「悪魔が生きていたことは、貴様ら英雄一行も知っていただろう? シーボルスが闇の秘宝を手にした時、その闇の力に呼応して、天使に封印されていた悪魔が目を覚ました」


 そうだ。俺たちは知っている。この目で、悪魔の姿を見たのだから。


「悪魔に目的などない。強いて言えば、『生き続けること』が目的だ。悪魔は、生命エネルギーをほかの闇の能力者から奪わなければ、生き続けることができないからだ。奴は封印されてなお、生き続けたいという欲求に駆られていたのだろう。結果的にシーボルスの助けによって奴は復活し、シーボルスの闇の力を分けてもらうことになった」


 だけど、そうはならなかった。


「だがそうはならなかった。なぜならその時、シーボルスは貴様ら英雄一行と闘っている最中だったからだ。すぐにエネルギーを奪わなかったのも、おそらくお前たちが邪魔をしたせいだろう。とにかく、そのエネルギーは『後回し』になった。そして」


その時は永遠に訪れることはなかった。なぜなら炸人がシーボルスを倒したからだ。


 「そして、永い永い闘いを繰り返している天使によって、再び悪魔は封印された。その後、シーボルスの息子がさしずめ二重ロックとでも言わんばかりに奴を封印し、そして闇の国に沈めた」


 男はニヤリと笑い質問を投げかけた。


「さて、天使はどうなったと思う?」


「知らねえよ。さっさと話せ」


 男は語り続けた。


「俺が殺したんだよ。あれはなかなか手ごわい相手だったが、俺の炎に包まれて命を失った。それもそのはず、俺の炎は、憎しみに燃え続けていたからな。誰に対しての憎しみだと思う? ――お前にだよ、元ヴィオレット軍隊長補佐、ラグレム!」


読んでいただきありがとうございました。全然予定と違う方向に話が進んでる。ラグレムはさほど重要なキャラじゃないのになぜ戦闘が終わらないの? どうしてこうなった……。


次回、「悪しき天使」。お楽しみに!

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