悪しき天使
「こんなの、間違ってると思ってた。 だからボクは――」
《第三の世界》と呼ばれるこの異空間で、俺たちは闘っていた。ここには、炸人、美海、そしてニュクスが囚われている。俺たちは彼らを助けるために、ヘメラ、エアと、小夜嵐に案内される形でここへ来た。そして、《第三の世界管理執行部》と名乗る男と衝突することになったんだ。
その男、クライムは――。
かつての、俺たちの同胞だった。
「ラグレム、俺はずっとお前が憎かったんだ」
クライムは語りをやめない。しかし、完全に語りに集中しているかというと、そうでもない。右手に火炎玉を持ったまま、それを意味深に転がしている。しかも、あの玉少しずつ大きくなっていないか?
さしずめ、憎しみの爆弾、といったところか。
「15歳という若さで炎の国の第一部隊、ヴィオレット軍にお前は入ってきた。俺は当時、18だったかな? 若き才能に嫉妬した――殺してやりたいとすら思ったさ! だが俺は剣士だ。実力で差を見せつけてやるしかないと思っていた、当時はな」
クライムが俺をにらみつける。正直、こいつは軍の中でも目立たない奴だったように思う。ヴィオレット軍も大所帯だったし、いちいちこんなやつのこと覚えていられない。
「だから必死で修行した――だが、そんな俺の努力もむなしく、なぁ!」
奴の右手の炎が、燃え盛る。
「二年後には、神寺宮炸人がやってきたんだ! やつはすぐに副隊長に成り上がった! そしてお前は隊長補佐という役職に就いた――それだけじゃない!」
今度は奴の左手に光が灯る。何を仕掛ける気だ?
「お前たちは、植物の国を賭けた水の国との戦争でコロウに負けた後、なぜかヴィオレット軍を脱退、隊長が死んだ後、軍は空中分解となった! 俺たちに行き場はなくなったんだ――」
「それは、すまなかったと思ってる。地球に帰りたいっていう炸人や美海の力になりたくて――」
「言い訳などどうでもいい! お前はたった2人のために、何千、何万という同胞を犠牲にしたことに変わりはないのだ! ずっと復讐したかったよ――そして」
クライムが両手を合わせる。炎と光が混じった、ほのかに赤い球体が出来上がった。
「それが今、叶う――」
クライムが球体を投げた。身をかがめてかわすが、壁に当たって爆発する。もしかしたらこの世界は、ごくごく小さいのかもしれない、と思った瞬間、大きな爆発音が耳を劈いた。
「いってえ……」
「遅い!」
煙の中から、クライムの足が迫ってきた。飛び蹴りが俺のほほに命中する。
「ごほっ」
そのまま吹き飛んで、反対側へと無様に転がってしまう。
「ぐっ……くっ……」
「軍がつぶれた後、俺なりにいろいろ調べさせてもらってねぇ……神寺宮炸人のこと、魔王シーボルスのこと、そして秘宝のことが分かったんだ」
立ち上がり、マントのほこりを払ったときに気が付いた。剣がない! 倒れた時、奴に抜き取られていたか――なんて情けないんだ。
「神寺宮炸人は、闇の秘宝を使って《願いを叶え》ようとしたんだろ? つまり、安藤美海とともに地球に帰ろうとした――だから当時の所持者であるダグラと敵対した――いい筋書きだ」
「黙れ――」
奴の言葉に耳を傾けるな。どうやって剣を取り戻すかだけを考えろ――!
「だけど残念だったなぁ、シーボルスのせいで願いはかなえられず、悪魔は天使に封印された――願いは叶わず仕舞いだってわけだ。おこぼれをいただいたのは、天使を吸収した俺だけだ」
俺だって、剣なしでも闘える。ほんの少しの間だけ、それだけだ。
「うおおっ!」
奴に飛びかかるが、ひらりとかわされてしまう。奴は俺の剣を右手首で弄びながら、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。
「三種類ある秘宝の力を知ってるか? 闇の秘宝は《願いを叶える力》、光の秘宝は《すべてに届く力》、氷の秘宝は《すべてをやり直す力》だ。氷の秘宝のありかがわかれば、俺もやり直してみたいもんだねえ。ヴィオレット軍でまっとうに強くなりたかった。だがもうその必要はない」
クライムが剣を強く握りしめた。チチ、と小鳥の鳴くような音がする。
「か、返せ!」
飛びついた俺を蹴り倒すと、俺の右手に剣を突き刺した。
「ぐあああああああああああああああああ!」
「よく磨きこんであるじゃないか――その割にこのザマはなんだ? え? 平和ボケとでもいうつもりか? フフン、そうなのだろうな、俺はお前たちがのうのうと生きている間も、憎しみの炎をたぎらせ続けていた! 自らの慢心で、消えるがいい!」
奴が黒い炎を全身に纏った。俺は、ここまでなのか――すまない、炸人、美海――。
「ところで、ダグラが闇の秘宝で叶えたかった願いとは何だったんだろうな? どうせ世界征服とかいう、くだらない大それた夢だったんだろうがな! クク、クククク……」
諦めかけた意識の中に、ダグラの顔が浮かぶ。
「――違う」
「なに?」
「あいつの願いは、そんなんじゃなかった――今お前がやってることのほうが、よっぽどくだらねえぜ……!」
「減らず口を!」
奴が剣をグリグリとねじ込んだ。意識が途切れたほうがましとも思えるほどの痛みが俺を襲う。
「ぐ、ぐあああああああああ! あ、あいつの――」
「あいつの願いは――」
戦士は孤独だ。裕福な家庭に生まれ、親の愛情と金銭的援助を充分に受けた子供は、戦士なんかにはならない。戦士になるのは皆、孤独なものたちだ。闇を見たものたちだ。
闇属性の能力者は、その《絶望》が深すぎたのだと思う。
昔、訊いたことがあった。ダグラが仲間になり、馴染んできた頃。俺は冗談交じりで、あいつに尋ねたのだ。
「なぁ、ダグラ? お前、闇の秘宝で何を願おうとしていたんだ?」
「俺は――」
あいつの真剣な瞳。それを笑う奴なんかに、俺は負けられない!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は力の限り叫んだ。黄金の光が、俺の身体を包み込む。
「なっ、剣が、消えた!?」
「俺の大事なものは返してもらったぜ!」
「な、なぜ立っている――!? お前は自分の剣で……」
「剣の持ち主は俺だ! この剣の名は――エルピーダ!」
「エルピーダ……希望、だと……」
そうだ。この剣の名は希望。この剣に恥じぬような生き方をしていきたいと思ってる。
たとえ絶望が深くても、俺たちが信じていれば、必ず。そうだよな、ダグラ?
「消えされ! 純蒼の雷撃!」
蒼い雷撃が、クライムの肉体を引き裂く。勝った――。ダグラの汚名を晴らすことができた。あとは炸人達をこ
「残念だったな」
「ば、馬鹿……な……!」
「渾身の一撃――痛かったぞ? だが、光の超回復能力は、一介の能力者であるお前より、天使である俺のほうがはるかに上! この程度、大した痛みじゃなかったんだよ」
「へ、へへ……」
お前が天使なんて、呆れるぜ――。
「消えるのはお前だ――憎炎閃光波!」
「うおあああああああああああああああああああああ!」
消えゆく意識の中で、ダグラのことばかりが思い起こされる。
「なぁ、ダグラ? お前、闇の秘宝で何を願おうとしていたんだ?」
「俺は――」
俺は、父親に認められたかったんだ――。
すまない、みんな……俺はここまでみたいだ。
《希望》を、《希望》を忘れるな。絶対に――。
「ひ。ひどい! 跡形もなく消し去るなんて――」
「ひどいのはお前だ、小夜嵐。お前が余計な客人を連れ込んだりしなければ、あいつはここで死ぬことはなかった――まあ俺にとっては好都合だったがな」
「それがアンタの本性なんだね……! ボク、アンタを許せない! ボクと闘え! クライム!」
「私も、闘わせてください」
「ほう、お前は……」
読んでいただきありがとうございました。ラグレムの話はここでおしまいです。なんか説明口調が多すぎて、自分の勉強不足が露見されるばかりです。
次回、「闇の中の信念」。お楽しみに!




