63話 連鎖する協和音
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秋山の奴別に気にしないでも良いのに、誰だってあんなモノに襲われたいなんて思う訳が無い。
偶々狙われたのが俺であって、今相手に認識されたのは俺と静雄の二人だけの筈だから、最悪他のメンバーに被害が及ぶ前に、俺達二人で何とかして方を付ければいい話だ。
そう考えた俺は、変に責任なんて物を感じさせないためにも説明を続ける。
「まあ、そう言う訳だから秋山も黒川も大丈夫だと思う。心配するな……と言ってもその顔じゃ納得してないだろうけど、何とかする当てはあるから」
「……そうだな、明人がそう言うなら間違いは無いだろう」
静雄は何かを思い出すかのように目を瞑り、俺の目を見て頷く。
たぶんだが、俺が静雄に装備させた物を指して答えたんだと思う。
間違っちゃいないんだけど、流石にアレを長時間着けさせるのは少々不安が在るが、最悪アレでもないよりは遥かにましなので、それも検討して作戦を立てる事が必要になる筈。
最もまたあの“死人”が何時現れるかが分からないので、静雄の奴を家に泊めるか、それとも出来るだけ距離を稼ぐのに、静雄の家に厄介になるか決める必要はある。
どちらにしようか考えていると、黙って聞いていたと思っていた黒川が、俺にデジカメを差し出し「これ」と言ってその液晶画面を見せてきた。
「ん? 見ろって? さっきも実写で見たから別に……なっ!?」
「どうした明人? まだ何か変なモノでも写っていたのか?」
「……ちょっと、石田。それに舞ちゃん、これ以上驚かすのは止めてね。もう私、怖いの嫌なの」
秋山の奴はかなり滅入っているな、さっきの画像だけでもショックを受けていたから、これ以上の物が出ると耐えられなさそうだ。
俺は秋山には見えないように受け取ると、黒川が差し出したデジカメの画像は、丁度俺達が瀬里沢の家を招待されていた時に、色々と撮影していた筈の映像の一枚だったのだが、そこにはとんでもない物が写っていた。
その画像は俺達が瀬里沢に屋敷の廊下を歩きながら、祖母の部屋だと案内された時の一枚の筈なのだが、俺達が瀬里沢に注目していた時に黒川が偶々写した物だったと思う。
そこには瀬里沢の祖母の部屋の障子を“開けずに”体の半分程を、這うように廊下へと出てこようとしている“死人”で在り、しかもその頭の向きは此方を窺ってる感じにも見える。
つまり、俺達はあの時点から相手に気付かれていた可能性がある訳だ。
俺がその場面を見終わり溜息を吐くと、静雄もソファーから立ち上がり、デジカメを取り上げその画像を確認すると、目頭を揉んでいる。
その時突然、俺のスマホがけたたましい着信の音を上げ皆を驚かせた。
こんな時に誰だよ! マジでビビったわ! ……って宇隆さん? こんな時間にどうしたんだろう?
「もしもし、宇隆さん? いや、まだ家じゃないが瀬里沢以外は皆ここに集まってるけど、何か連絡? もしかして日曜は都合悪いとか?」
「そうか、そちらは皆無事だったのなら別段問題は無い。ただ、少しばかり妙な事が在って星ノ宮様が倒られてな、それで連絡が遅くなってしまった。すまん」
「へっ? 星ノ宮が倒れた? 宇隆さん、今スピーカーにするからちょっと待って……良し。それで、倒れたって病気か? それとも疲労で? 別にそれで連絡が遅くなった事に文句言う奴は居ないぜ?」
話を聞いているある意味ホッとしている秋山に黒川、静雄も俺の返事に頷いているし、少々不謹慎だが宇隆さんからの電話が俺達を日常に戻す。
幽霊談義よりも、星ノ宮が倒れたって話の方が皆も気になる筈だ。
「分かった、それで話を戻すがお前達は瀬里沢の家へ言って、何かおかしな事は起きなかったか? 些細な事でもいいのだが、何か気になった事でもあれば教えてくれ」
「……いや、瀬里沢の家では特に変わったことは起きてなかったと思う。ただ、気になった事と言えば、今さっき気が付いた事が在るんだが、何と言って良いか分からん」
本当に突然の電話だったが、星ノ宮の体調の悪化で日曜は無しって事を話してくると思ったら、全然違った。
寧ろ今俺達の間で厄介事に成りつつある、非日常的問題についてまさにピンポイントで狙ったかのような、どこかで見ていたんじゃないのかと疑うくらいの質問をされる。
こんな風に聞かれたんじゃ、こっちだって変に思う。
「私の話を聞いて、それを教えるか判断してくれ。実はちょっとした家の行事に出席していたのだが、その会場に瀬里沢の両親が丁度出席していてな。麓谷のそれなりの古い家の者ならば、普通に出てたりするパーティーだとでも思えば良い」
「あ~なるほど、それで家には家政婦さんしか居なかった訳か、小父さんも小母さんも七時くらいに顔合わせしたけど、割と普通の人だったわ。何か大食いの静雄を見て大笑いしていたし、そんなんで最後に必ず来いって言われたぜ?」
「その話本当か? こちらはその瀬里沢の両親にあったのだが、日曜に窺うと挨拶した際に星ノ宮様が、瀬里沢の祖母の具合を聞いた途端に、あの夫妻は豹変しテーブルナイフを投擲し危うく星ノ宮様に当てるところだった。無論当たりはしなかったが、あの様子は尋常じゃなかったのでな、そちらが無事なのか確かめる為電話をした。決して電話操作を間違えたからこんな時間になった訳ではないからな!」
宇隆さん、それは操作を間違えたと自白している様なものですよ。
それにしても、瀬里沢の両親に襲われて星ノ宮が倒れたってのは心労って所か? 声の張りからすると宇隆さんは何ともなさそうだが、そうなるとこちらも伝えておくべきだな。
「実は、瀬里沢の家から帰る際に襲われた。信じる信じないは宇隆さんに任せるが、相手は“死人”ようは“幽霊”だった。一応撃退は出来たけど静雄が軽い怪我を負っているくらいで、他は皆無事と言って良いかな。かなり嬉しくは無いが、相手の狙いは俺だったのがまだ幸いかも知れん」
「……となれば、相手は物の怪の類か? それに撃退と言ったな? 念の為聞くがどうやって退けたのだ?」
「あ~、相手は刃物持って振り回してきたんで、静雄に硬い物で殴らせたらあっけなく消えてった。で、今は一休みって所だった訳」
「すまん。聞き間違いかもしれんのでもう一度聞くぞ? 硬い物で殴ったって言うが、その“幽霊”に物が当たるのか?」
ですよね~、俺だって一か八かって具合だった訳で、静雄が言うから短剣と籠手を持たせただけなんだよな……。
良く知らんけど、普通は“幽霊”に物理攻撃は有り得んと思う。
「一応、相手の獲物には当たって“折った”から、撃退できたぽい」
「そ、そうか。貴重な助言ありがたく参考にさせて貰おう。まあ、兎に角お前らが無事なのは分かったから、また何かあれば連絡する。そちらからも頼むぞ? ではな」
……宇隆さんからの話からすると、実は瀬里沢の両親は普通そうに見えたけど、何かヤバいモノがバックに居る可能性があるって事か? この場合さっきのデジカメの画像の続きを、まだ秋山に見せて無いが見せて良いものか迷うな。
今の秋山は不安にかられ、普段の活発さは微塵も感じないし、こんな状態では見せない方が当然な筈だ。
秋山を落ち着かせるには、どうしたもんかなと思っていたら、黒川が徐に口を開き話し出す。
「……もっと早く気付くべきだった。あの御屋敷に行って、御婆さんの話をしたのは瀬里沢先輩だけ」
「ああ、確かに黒川の言う通りで間違いないが、それがどうかしたのか?」
「考えて欲しい。普通なら、そんな状態の家族が居る場所に私達部外者、しかも興味本位と思う他人、家に上げて何も言わない両親は変。間違っても食事を共にし『必ず来なさい』何て言わない」
「いや、だってそれは瀬里沢の奴が俺達を紹介したときに理由を言っただろ? 確かに興味本位の様に見えるけど、息子の学校の友人だって言ったじゃねーか」
「そう、そこからして既におかしい。あっさり受け入れられたから不自然に感じなかった。だけど瀬里沢先輩が“知らない”だけで、実は御婆さん……既に襲われていたら」
「いやいやいや、黒川、お前何言ってんの? 瀬里沢も言ってただろ、部屋から出たくないって婆さん本人がっ……!?」
そう、瀬里沢の婆さんの部屋から“死人”が出てきていると言う事は? 良く考えなくても俺達に向かって追い縋り、襲ってくるような相手が傍に居て“無事な訳がない”のだ。
最初聞いた話で言えば、確かに御札の効果はあったんだろうが、その後部屋から出てこなくなった理由は? いくら暗い所が怖くて嫌だと言っても、全くそこから出てこないのは異常である。
今頃になって黒川に言われて気が付くなんて、俺達はおかしくなっていたのか?
いや、最初から既におかしな話だったので、誰もそこが不自然だと認識できなくなっていた?
いったん考え出すと次から次へと不信が生まれ、何があっているのか分からなくなってくる。
皆が俺と黒川のやり取りを黙って聞いていたと思っていたら、静雄が先程から持っていたデジカメを見ながら聞いてきた。
「なあ明人、この“幽霊”だが気味の悪さは分かり切った事だが、見た事が無いか?」
「あの、安永君。知り合いにそんな不気味な怖い人、居るの?」
「見た事が在るかって聞かれても、俺も化物にゃ知り合いは居ないぞ?」
「いや、そうじゃないんだが、どこかで見た様な覚えが……すまん思い出せん」
黒川は静雄のその言葉が気になったのか、一緒になってデジカメを覗き込んでいるが、その身長差のせいで背伸びをしている。……静雄お前は一度座ってやれよ。
それにしても思い出せんって、思い出すほど過去の出来事じゃないだろうに、襲われたのはついさっきと言って良い位の時間しか経っていないのだ。
静雄の奴もこの異常な出来事のせいで少し変になってるのか? そもそも見た事が在るって事は“死人”と面識が在ったって事に……。
「あのさ静雄、“死人”の過去って何だと思う?」
「ん? 明人、なぞなぞか? 死人の過去……死体か?」
「んー、惜しい。まだ少し足りないな」
「あんた達、行き成りアホな問答言い出してバカに成ったの? それとも私の緊張を解そうとワザとやっているのかしら? 良いわ乗ってあげようじゃないの! あんたの質問に答えるなら、死人の過去なら生者でしょ。もしくは生存者とか?」
何だか良く分からんが秋山の奴、少しだけ元気になった? いや、一周して考えるのを放棄したのか? 空元気も一応元気には違いないから、良しとしよう。
「……似ている。瀬里沢先輩に顔付きと目元に鼻が少しだけ、顎もそう」
「ナイス! 黒川それだ!!」
「皆の顔が写った画像も在るから、比べてみただけ」
黒川の発言で静雄が引っ掛かった“見た覚え”のある“死人”の過去と、今の俺らが知る人間が繋がった。
つまり、この俺を襲ってきた“死人”は瀬里沢に近い親族の誰かであり、その過去に静雄は会った記憶が在るって訳だ。
「静雄、お前は過去にこの“死人”に在っている筈だ、何でもいいから思いだせ!」
「まて明人、そう急に言われてもだな死んだ人間だぞ? それに似ているだけで他人かもしてない」
「ねえ、あんた達。もっと単純に考えたら? 瀬里沢さんの御婆さんが居るなら、いったい御爺さんはどこに居たのかしら?」
「……思い出した、この御仁は以前道場に来た事もある。刀術を使っている事でもっと早く気付けていれば。直接相対したことは無いが、家の爺さんと何度か組み手をした事の在る守弘さんだ」
「それって、瀬里沢の?」
「ああ、たぶん間違いない。すっかり忘れていたが守弘さんの名字も瀬里沢だった筈だ」
「それじゃあやっぱり、瀬里沢さんの御爺さんが御婆さんを!?」
あの“死人”が何者だったのか、それと確証は得てないが俺達が立てた予想が全て在っていたとしたら、今瀬里沢の奴は大丈夫なのか? また件の瀬里沢の婆さんは今も無事なままでいるのか? この事を俺達に依頼した瀬里沢本人に、伝えるのが最善か話し合う必要ができた事は確かだった。
つづく