64話 おかえり、明人
ご覧頂ありがとうございます。
しっかし、我ながら困った事になったもんだとつくづく思う。
俺の物品交換士としての能力を使った、瀬里沢希望の軽い御札交換で10万も稼げる美味い話だと考えていたら、裏にはややこしい問題が引っ付いていた。
世の中そうそう上手く行く様には、残念ながらできていないらしい。
しかも、今起きている事も状況による推測でしかないが、下手をすれば件の瀬里沢の婆さんの生死に関わってくる可能性が高く、更に有り得ない事に常識じゃ考えられない様な相手が襲ってきているのだ。
どう考えても、どこぞの正義の味方でも無いただの一高校生である俺達には荷が重すぎる。
いくら静雄がかなりの強さを持っていても、対する奴が“尋常”ではないので比較する事がそもそも烏滸がましいレベルで、流石にこの依頼に対処するには普通のアルバイトをするような感覚では無理。
経験どころか知識すらないので、それこそ瀬里沢の話に出てきた霊を退ける御札を作ったと言う、製作者の菅原って人にでも相談するべき事に違いない。
だが、その人本人も今は日本には居なく、聞いたところによればその人の“自称”弟子と名乗る相手としか連絡も取れないのが現状らしい(瀬里沢談)ので、そういった不可思議な事については、もう師匠くらいしか俺の中では頼れる相手が居ないのだから、ある意味詰んでると言えるだろう。
これからどうするかについては、瀬里沢の安否を確認するのも大事だが、はっきり言って今日知り合った相手よりも、薄情かもしれないが静雄や秋山、それに黒川と星ノ宮に宇隆の方が大事なので、俺の中では先ずは家に帰って師匠と対策を練るつもりである。
他の皆も色々と考えてるようだが、俺の意見を先に言わせてもらうとしよう。
「今は婆さんを襲う動機を探るよりも、俺達の安全を先に考えないとヤバい」
「……アレがまた出てきた場合、不意打ちを食らわなければ大丈夫じゃないか?」
うーん、静雄なら気配とかで不意打ちは無いかも知れないけど、それこそ見張りでも立てて夜の番でもしないと……現実的じゃないよな。
秋山も何を根拠に静雄に同意して頷いてるんだ? 黒川なんて首を振ってるぞ?
「静雄、仮に見えてたとしても、アレと事を構えるのは俺には無理。静雄だって寝込みを襲われたらアウトだろ? それに矛先が俺達に向いた訳も分からんしな。今は偶々なのか理由があるかも謎だし、何故か俺が標的になっていたけど、脅すつもりはないが、次も俺だけが狙われるとは限らんだろ? まあ宇隆さんの電話じゃ星ノ宮が、婆さんの事を探ろうとしたから襲われたっぽいけど、それも結果論でしかない訳だ」
「えっ!? じゃあ何で瀬里沢さんは今まで無事だったのよ? 一番御婆ちゃんを心配して色々していたのは、私たちに依頼してきた瀬里沢さんの筈でしょ?」
「俺に聞かれてもなぁ。今の所起きた事を言ってみただけだし、……それこそ本人に聞いてみるしか無いんじゃね?」
俺が答えると秋山は非常に嫌そうな顔をして首をブルブルと振った。そりゃ相手がアレじゃ聞く気にも成らんわな。
そもそも会話が成り立つのか、喋ることができるのかも分からんし。
「瀬里沢先輩の家では、御婆さんの事を特に口に出して聞いた事は無い。だからこそ、あの場で襲われることが無かった。私はそう思う」
「ふむ、確かに唯一話をしていたのは、俺達を案内していた瀬里沢本人だけだったな? 瀬里沢が無事な理由か……。奴は何かしらアレを避ける物でも持っていたのでは? 受売りだが、海外ドラマにある怪物退治モノで例えるなら、吸血鬼が嫌うニンニクや十字架のような物か?」
意外と静雄もそう言った化物に関して知ってるのな? って、それもケーブルTV番組の影響かよ! そう言えば前にお前の家で見たのは何だっけ? アイソーポスだか、ドイツの有名メルヘンだったか? まあ、確かに黒川が言った事で、疑問も湧いたが俺も瀬里沢本人が無事な理由を考えてみる。
一.単なる偶然
二.瀬里沢は体質的に幽霊に襲われにくい
三.実は全てを仕組んだ犯人が瀬里沢自身である
う~ん、どれもピンと来ない強いて選ぶなら、一か二かな? 三は有り得んと言うか、もし三なら俺達を呼ぶ意味が無いからな。本当に三だったら単なるアホだろ。
「皆忘れている事が在る。……良く思い出して欲しい。瀬里沢先輩があの御札を作った人に、単純に別の御札を貰っていたら?」
「なるほど、そう言えばそうだったな。……なあ瀬里沢が無事か、いっそ今確認してみないか? あまり詳しいことは言わずに話して、御札を持ってるようなら瀬里沢の身はほっといても大丈夫だろ? 逆に持ってないで今まで無事なら、別に“襲われない”理由があるだろうしな」
どこか釈然としない表情で居たが、秋山は頷いたので良しとする。
こうでも言わないと、お人好しな秋山なんて俺達の安全確保を先にすれば、特に後ろめたく思うだろうしな。
静雄に黒川は、瀬里沢本人関しての安否は気にして無さそうだし、単に何故無事なのかだけ気になっていたようで相槌もせず、俺と秋山の話を黙って聞いていた。
……って、よく考えたら俺、奴の電話番号なんて知らんわ。
結局秋山に瀬里沢の連絡先を聞いてみると、あっさり電話番号とメルアドまで寄越してきたわけだが、別に俺が連絡する必要なくね? お前が電話しろよと思ったが、顔に出ていたのか殴られた……理不尽だ。
結果だけ言うと奴はこう言ったのだが、聞いてほしい。
「はい。石田君か、いったいどうしたんだい? ん? 何で知ってるんだい? 確かに御札じゃないが、菅原さんに会った時お守りを貰ったよ。僕以外に効力は無いそうだから、肌身離さず持ってろって。これが誰にでも効果があるなら、とても便利だったんだけどね。それで要件はそれだけかい? そろそろ寝ないと君も肌に大敵だよ?」
瀬里沢に連絡をした俺も、それを傍で聞いていた皆も、この台詞には一気に脱力し緊張が解け何とも言えない雰囲気に成り、あんなにアレの対策をどうしようとか言っていたのに、それを機に俺は解散する事を提案した。
婆さんの命がかかってるかも知れないが、所詮他人事であり実際に命を狙われてるのは俺達で、これ以上はぶっちゃけると無理と“勝手”に決めたのだ。
助けられるなら手を貸すのが人情だが、そんな余裕が無い。
黒川はそのまま「また明日」と言い家に引っ込んだし、流石に静雄を家に泊めるとなると、秋山が一人で帰るには心細いだろうと思い、結局家まで送ってやれと静雄に硬く言いつけて、俺は『当てが』あるから心配いらん、何かあれば連絡すると話して無理やり帰した。
婆さんの事を確かめ無かった理由としては、今更聞いたところで遅いと思ったからだ。
瀬里沢は無事でも婆さんが襲われてるなら、既に死んでるだろうと俺は考えている。
それに言い訳だが今から瀬里沢に説明して、家に赴き婆さんを守る事なんて出来るとは考えられないし、仮に行っても宇隆さんの話からすると怪我で済めば御の字で、下手をすれば瀬里沢の前で、最悪あの両親と『殺し合い』になるだろう。
なんせ俺は既に、得体の知れない物に殺され掛けているのだから、それを否定できる要素が無い。
身を守る事で俺と静雄が恨みを買うのも、警察に捕まるのも御免んだ。
要は俺はここで瀬里沢の婆さんと、仲間を天秤に乗せ一つの選択をした。
後悔するかしないか今は分からないが、俺は仲間を選んだ。
だから、それ以上瀬里沢の話を聞くのを止め、皆を返した。
後で誰かに責められるかも知れないが、俺は師匠と連絡を取ってアレの対策を何とかするしかない。瀬里沢の婆さんの事は、出来たら“助ける”そのくらいの気持ちで割り切らないと、心が潰れる。
そう思いながら俺は今日一日に起きた事を振り返り、家の玄関の扉を開け中へ入り一言こう言う。
「ただいま」
つづく




