14話 お宝の値段は十万
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館川とカメラを確保した俺達は、その足で職員室に行きD組の担任と水泳部の顧問に軽く説明、次に教頭に生活指導の先生更には、理事長まで飛んで来て個室で話し合いに……俺は今日初めてうちの学校の理事長を間近で見たよ。
だが、俺はその場にいただけで事件の当事者では無く、単なる協力者でしかないので、授業に戻ると言って逃げようとしたら、宇隆さんと星ノ宮はもちろん黒川になんて、またネクタイを掴まれそうになった。
何とか躱して職員室から去り際に「他の生徒に説明する必要がある」と苦し紛れに言ったら、あっさり解放されたのでホッとした。
ただし主従二名の顔は笑顔だったが、目は全然笑って無く『目は口程に物を言う』と言う事を、俺は実感させられた挙句。
黒川に関しては『笑う』と言う表現を、最早使って良いレベルでなかったので、次に会うのがとても怖いです。
俺今度こそ殺されないよな? 等と思いながら、四限の終了の鐘が鳴る少し前に教室へ入り、古文の先生に「詳しい事情を今は話せません」と言って回避し、なし崩し的に昼休憩に雪崩込んだ。
あ~長ったらしい説明だった、本当苦労したわ以上終わり。
「何が終わりよ! あんたその説明で私達が納得すると思ったら大間違いよ! あんたが戻ってこない事と、遅れる事を上手く誤魔化して見せた私と安永君に謝んなさい!」
「明人、後で他の誰かに聞かれた場合、分からないとフォローできん事も在るぞ。問題ない範囲で構わん。話してくれ」
「ん? ん~、しかし何から話せばよいやら……二人共今日は弁当か?」
腕を組みながら、俺は昼休みの時間は有限だと考え、どうせなら昼を食べながら話すかと、二人に確認し弁当を持つように促して、授業が終わった途端ギャーギャーと騒がしくなった教室を後にする。
今日の俺の昼は弁当で、中身はご飯とほうれん草のお浸し、おかずは豚の生姜焼きにアスパラのベーコン巻、それとプチトマトだった筈、俺は母さんには頭が上がらないぜ。
購買に買いに行く必要が無いので、話すのに丁度良い場所である屋上で、行儀は悪いが食いながら、お互いの知っている情報のすり合わせを行う事にした。
途中自販機で飲み物を買い、屋上に着くと静雄の奴は相変わらずの大食漢で、俺の弁当の1.5倍の量のご飯と沢山のおかずに菓子パンの組み合わせ、秋山は小振りのおむすびとサラダ、おかずが鳥のささ身のから揚げだ。
結構美味そうなので、おかずのトレードを申し込んでみよう。
食事をしながら、二人から話を聞き俺も途中付け足したりして分かった結果が、どうやら俺達(宇隆さんに星ノ宮、黒川と俺の四人)が居ない間、残っていたC組グループの一人が、ある程度『知っている側』の奴だったらしく、軽い説明があったが今回の事件の基軸になっていた四人が消えたので、する事も無いので皆1度教室へ戻る流れになったらしい。
俺はどうせこの後それなりに噂が流れるだろうと思い、二人に関しては余計な事は話さないと考え、水泳部や女生徒数名が盗撮の被害にあっていた事、黒川はその犯人を誘き出す囮役で、俺は廊下でそれを知ってしまい、なし崩し的にあの場に協力する事になったので、C組のグループも知らなかった筈と説明。
……全部が嘘ではないが、真相を知れば誰だってこう判断すると俺は思う。
やっぱり後で、あの三人に色々聞かれるんだろうか? そう考えると憂鬱だな。
「は~なるほどね。道理でC組の残った人達が困惑していた訳ね、あんたも良くもまあ襤褸を出さずに協力出来たわね。そっちの才能でもあるのかしら?」
「ふむ、そういう事か……では犯人は館川だったと言う訳か?」
「ま~そう言う事になるな、ありゃ~スゲェ女だわ」
だからこそ俺としては腑に落ちないのが館川だ。
あそこまで出来る程行動力のあるやつが、なぜ態々盗撮なんて七面倒な事をしたのか。
それと、結局分からなかった『裏切り者』と言った言葉の意味。
もしかして、館川は元々そう言った変態的嗜好を持った奴で、黒川が標的だったとか? ……いや、ナイナイそれは無い。
「秋山よ、俺の演技力も中々のもんだろ~って言っても、星ノ宮には全然かなう気がしないわ。あいつがこの策を考えて実行に移す事になったらしいし、何と言うか俺には絶対無理って、お前ら話聞いてる?」
「むぅ……足りん」
「うあ、安永君は良くそんなに入るわね~。良かったら私のおむすび1つ食べる?」
「折角人が話しているのに本当に聞いてねぇ……。そうだ、お前らは今日の放課後どうするんだ? 俺は用事があるから銀行寄った後買い物行くけど」
「ん? 明人の小遣い日は毎月十五日だったな、もう過ぎていただろう。足りないのか?」
「へ~あんた変わった貰い方してるのね。それで月に幾ら貰ってるのよ? 今まで聞いたこと無かったけど、何か欲しい物があるなら真面目にアルバイトでもすれば?」
そういや最近になって秋山とも、それなりに話すようになったが知らんかったか。
こいつは静雄繋がりでしか、挨拶以外で喋る話題が無かったしな。
アルバイトねぇ短期の一日十万とか無いかな?
「ん~ちょっと欲しい物と言うか、買わなきゃ不味い物ができたんでな、今用意できる予算を確認しようと思って。確か今の財布の中身と足して六~七万かな」
「随分と急だな? この間五月に入ってパソコンとモニターを新調したと、自慢したばかりで無かったか? その必要な金額は?」
「貯金少なっ! も~う少し計画って物を考えて買わないと、その内破産するわよ? 石田ってカード払いで泣きを見るタイプね」
「俺カードなんて持ってねーし。今のところ目標金額は十七万だから、後十万前後かな? 預金確認しないと細かい所分からんし、ドカっと十万一気に手に入れること出来たら、随分楽なのにな~」
俺は両手を上げて伸びをし、ベンチの背もたれに体重を預ける。
静雄はそんな俺を見ながら「十万か、来月の夏休みで稼ぐか?」と言ってくるが、それじゃ間に合わん。
……うまい話がそんなにゴロゴロ転がってたりはしないか、俺はペットボトルに入ったお茶をチビチビ飲みながら、バイト以外の金儲けを考えていた。
やはりここは昨日編み出した、姑息なカード錬金の出番か?
秋山の方をチラッと見ると、何か変な表情で顎に手を添えて唸ってる。
我慢は体に毒だぞ? それとも何か良い案でも、秋山は知っているんだろうか?
「そう言えば、石田と安永君は知ってる? あたしも噂で聞いただけなんだけど、星ノ宮さんってあの容姿でしょ、上級生の男子や他校の生徒にも人気があって当然よね。それで変な話になっちゃうけど、あの人の下着と水着どちらでも良いから、手に入れば十万円で買い取るとか言う、アブナイファンが居るって話」
それを聞いて、俺は飲んでいたお茶を噴き出した。
咽た俺の背中を静雄がさすってくれるが、気持ちは嬉しいけど地味にキツイ。
……何とか喋れる様になった俺は、秋山の方を見ながら涙目で言う。
「お前、鼻にもお茶入ったよ。ツーンて痛い、ツーンて。まさかお前の口からそんなパンツ売れだ何て話が出るなんて、流石に俺も思わなかったわ! 静雄もう大丈夫だから、それ止めて頼む」
「何よ、別に売れだ何て一言も言ってないじゃない。十万ってあんたが言うから、前に聞いた話をしてあげただけでしょ。だいたい変な想像でもしたんで咽たんじゃないの? ……そう言えばあんたは、あんな本を買う変態だったわね」
自分で言い始めた事の癖に、今度は俺のせいかよ。
その如何わしい物でも見るような、蔑む目つきは止めて欲しい。
男には引けない勝負の時があるんだよ、その分昨日酷い目にあったがな!
「お前はタイムリー過ぎんだよ! 空気読めよおかげで酷い咽たわ。さっきまで下着無くなった事件の話だったろうが! お前の方こそデリカシーねえよ!」
「明人、一度しか言わん落ち着け」
「静雄! お前こんな……こん……な」
続きを言おうとして視線を感じ、周りを見ると屋上に居た他の生徒の大半が、動きを止めて俺を注目していた。
俺は興奮して叫ぶ癖を何とかしないと、この先苦労するなと改めて実感したが、……遅かったかも。
「あ~うん。まあそう言う訳だからして、余り変な事は言わない様に。特に秋山」
「何で私の名前で閉めるのよ、そこはあんたでしょ。それとあんたを見てて思い出したんだけど、囮役の黒川さんって本当に下着を盗るところを、ワザと見られたのよね? じゃあその後に星ノ宮さんの下着って何処に消えたの?」
「む、そう言えば見つかったのは、明人のジャージだけだったか?」
何でこんな時に限って、秋山は変に勘が働くんだ! すっかりあの下着の事を忘れていた俺は、今最大の墓穴を掘った気分だった。
続く