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13話 策略は茶番劇

ご覧頂ありがとうございます。

 いったいどんな仕掛けがしてあるのか、星ノ宮にカメラを押し付けられそうになったところで、抑えていた黒川が身をよじり俺の手から逃れると、俺にカメラが手渡される前にそれを引っ手繰る。

 俺が呆気にとられて見ていると、黒川は少しの逡巡も無く操作していき、その動作には慣れている様な感じを俺は受けた。


「黒川……お前、カメラに詳しいの?」


「少しだけ。最近は使ってないけど少し古いタイプのなら持ってる」


 そう言いながら何か操作を繰り返しているようだが、本当に大丈夫だろうか?

 宇隆さんと星ノ宮はそんな黒川を見ても驚いた様子はない、だが館川はそこで「きいぃぃぃ黒川あぁぁ、裏切り者のお前が触るなぁぁ」と叫んで黒川に突撃しかけ、ガッチリと宇隆さんに羽交い絞めにされる。

 あんな風に取り乱し、館川が黒川の事を裏切り者と呼ぶ理由は何だろうか? 気には成るがどうも分からない。


 流石にあんな掴まれ方をしたので、館川もおとなしくなった。

 よしっ! まだ暴れるようならそのまま後にブリッジし、反り投げればドラゴンスープレックスの完成だ! ……まあ、宇隆さんは絶対やらないだろうけどね。


 視線を隣に戻すと黒川はカメラのファインダーを覗き、突然俺にカメラを向けシャッターを切ったが、それなりの明るさが在るためかフラッシュが光る事も無く、撮影した時のあの特有の「カシャッ」と言った音は聞こえなかった。

 最近のカメラは「カシャッ」じゃなく「ピピッ」や「ピッ」と言った音の方が多いか? 俺の勘違いで、単にファインダーを覗いて具合を確かめただけか? ハッキリ言ってカメラなんてよく分からん。

 俺の中のカメラの認識と言えば、割と値段の高価な家電製品の1つと言う程度だ。


 それに俺が良く知るカメラと言えば精々携帯のカメラ機能くらいで、明恵を撮ってみたり(奴はすぐ逃げるが)、静雄やクラスの男子数人と行った駅前のパスタ専門店で、チャレンジメニューを完食したのを撮ったくらいだな、その際帰りに皆とノリでプリクラも撮ったが……思い出すと何だか少し悲しくなった。


 そんな事を考えていると、黒川は他にも何かしていた様だが肩を落としてカメラを下げる。


「ダメ、何枚か写してそれを見ようとしても、全てロックが掛かって再生ができない。それに星ノ宮さんの言うように、元から在ったフォトデータを見ようと試してみたら、パスワードを打込めるのは後1回だけになった。リセットが無い、次間違えたらどうなるかも分からない」


 館川を除く、皆の顔を見ながら黒川がとても悔しそうにそう言うと、俺達も顔を見合わす。


「アハハハハ、あ~らあら、残念だったわね。あんた達が私のカメラを勝手に触って壊したら、あんた達の方こそ器物破損で犯罪よ。私を犯罪者呼ばわりしていたけど、これじゃどちらが犯罪者になるのかしら?」


 先ほどまでの狂気じみた感じは失せ、余裕の表情で俺達を見る館川。

 悔しいが俺達は館川の策に上手く嵌められ、かなりピンチだ。

 まさに「こんなこともあろうかと!」的な、嫌らしい罠だった。


「こうなれば、このままカメラと館川を突き出して「宇隆それはダメよ、仮に今までの証言や行動で館川さんが怪しいとまでは考えられても、いざその証拠になり得そうなそのカメラも今の口ぶりだと、私達じゃなく先生や他の大人に確かめて貰うにせよ、素直にパスワードを言うと思って?」


「星ノ宮様、流石に自分の身の潔白を証明する為には、カメラの中身を確認される筈です。そうなれば言い逃れなどできません!」


 確かに宇隆さんの言うように、大人や先生が出てくれば絶対とまでは言わないが、館川も証明せざるを得ないだろうと俺も思うので、それに頷く。

 だが星ノ宮と黒川は違ったようで、星ノ宮はヤレヤレと言った感じで首を振り、黒川はカメラを持ったまま俯いている。

 ……俺と宇隆さんの考えに、何か間違いでもあるのだろうか?


「今更だけど失敗したわね。カメラを押さえた最初の段階で速やかに提出していれば、違ったかも知れないけれど、流石に『残り一回』のパスワードは厳しいわ」


「ですから星ノ宮様、それを館川に「それこそ罠になる。例えば残り回数が『まだ』三回残っていたなら一度の入力間違いや、嘘を付かれても問題ない。でも三回目も間違えれば確実に中身も疑われる筈。だけど残り一回ならそれで言い逃れできる。他にも館川にカメラを操作させるのはもっと論外。見せたい物だけを選んで見せられても全然不思議じゃない。十六桁のパスワードは厄介すぎる」


 今の二人の話を聞いていた館川は、口を歪めて笑っていた。

 ……星ノ宮も黒川も館川の事を良く分かってらっしゃるようで、俺も宇隆さんも今の説明で絶句した。

 と言うか黒川、お前って普段は随分と淡々と喋るんだな。

 俺はお前のキレた時の、感情的な話し方の方が記憶に残っているから違和感があるぞ。

 

 しかし三回のパスワードか、そう考えると銀行の暗証番号とか三回目に間違えても、後で本人確認(色々面倒だけど)して凍結解除できるから良いが、残り一回じゃ危なくてトライする気には成らんな、四桁じゃなくて十六桁って長すぎだろ覚えられんわ! いったい何通りの組み合わせができるんだよ。


 ネットのオンラインゲームならパスワードを忘れても、IDやらメールアドレス確認とかで本人認証できて簡単に分かるし、登録時のメールアドレスを保存さえしていれば、遡って直ぐ調べ……られるし……遡って? あっ!!


 今の今まで緊張やら何やらですっかり忘れていたが、俺には便利な『窓』があったじゃねーか! 俺は俯いていた黒川の肩をポンと叩きニカッと笑うと、顔を上げた彼女から、両手で掴んでいた指をそっと外しカメラを受け取った。

 もちろん俺は迷うことなく「トレード開始」と呟く。


「さあ、どうするの? そろそろ四限も終わるし、私も教室に戻らせてもらうわ。それに私のカメラを返してちょうだい。元々それは私の物よ、それともそのカメラも盗むのかしら? ねえ黒川さん?」


 宇隆さんも組んでいた腕を緩め、星ノ宮も館川の態度に悔しそうな顔を見せる。

 館川は宇隆さんの腕を先ほどとは違い、簡単に振りほどくと俺の隣に居た黒川の前に立ち、嫌らしい笑みを浮かべてこう呟いた。


「あんたには“罰”が必要ね、もうどこを探しても“ヒント”なんて無いわよ」


 黒川がそれに反応して、体をビクッと震わせると拳を振りかぶったが、横に居た俺がそれをヒョイと掴んで「流石に秋山よりは遅いな」と呟き、黒川を押さえると館川に向き直す。

 そして黒川を見下す館川へ、こう告げた。


「それじゃあ俺からも言わせてもらう。十六桁って言っても別に全部使う必要は無いし、下手に設定して間違えれば終わりだよな? まあ、それも全部お前の“引っ掛け”なんだろ? 数字がゼロから九までの十個、それと半角のアルファベット二十六文字の合計で三十六個の組み合わせ、俺なら残り三回挑戦できたとしても絶対御免だね。館川よ、これは中々上手い“trick(策略)”だよな」


 俺がそう質問し笑みを浮かべながら答えてやると、最初は余裕の顔で俺の話を聞いていた館川は徐々に目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。


「……どうやって!? なぜそうもあんたなんかが簡単にパスワードの答えが分かるのよ!!」


「館川よ~く聞け。俺は引っ掛けだと聞いたんだ。皆に聞くが仮にパスが八桁でも36^8で二兆八千億通りの組み合わせなのに、それ以上の十六桁パスワードを今の短時間で解けるか? 俺には無理だ。ただ、館川よお前は十分答えを俺達に教えてくれたに違いない。感謝するぜ」


 俺はカメラを黒川から受け取って直ぐに『トレード窓』で、カメラの履歴を確認しズルだがパスワードが分かったので、あんな事を堂々と言えたのだ。

 その際フォトデータも見えてしまったが……これは流石に誰かに公開できる内容じゃ無いので、俺は館川の質問に答えると、顔を顰めつつ腕を押さえていた黒川にカメラを渡そうとした。


「……あなた、見たの?」


「何の事だ? 俺は単に館川の引っ掛けを解いただけだ、中身を確かめて見る時間が、今在ったと思うか?」


 掴んだ黒川の腕の力が強くなるが、俺は無視してカメラを押し付ける。

 他にも接写でしか摂れないような画像があったので、この部屋にまだ隠しカメラ的な物が存在するに違いないが、流石にそれを探すには時間が足りないので今はしない。


「ふ~ん、その様子だと本当にパスワードは“trick”で間違い無いようね。それじゃあ黒川さんにそのカメラは任せるから、貴女が“必要”だと思うデータの確認をして頂戴。さっき写したデータは要らないし“選んで消して”貰えるとありがたいわ」


「全くその通り。私も星ノ宮様も先ほどのやり取りで分かるだろうが、その様な機械の操作は苦手なので、カメラに詳しそうな黒川に全て任せるのが重畳。確と頼んだぞ」


「皆、私……ありがとう」


「あんた達卑怯よ!」


「何の事だかサッパリわからんな。それよりも館川は今後の事を心配すべきだな。おっと、今更逃げきれるなんて考えてないよな?」


 俺はそう言って初めて笑顔を見せる黒川と、対照的に膝を突いて嗚咽を漏らす館川を見て、やっとこの事件も終わったとこの時は思っていた。


つづっく

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