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第九十章

 オーケアノス港に戻ったカロンも当然、空の無数の翼に気づいていた。


 空のエルフも来た。どうやらエルフ族全体が、この戦争を重視し始めたようだ。


 しかし――


 彼女は流体で作った望遠鏡を掲げた――これは蒸気人から学んだものだ――空に向けて覗いた。


「くそっ」


 彼女の声はとても低く抑えられている。


「なぜあの女が王環をかぶっているんだ?」


 カロンはもちろんアイランサーを知っている。


 同族に好き勝手に人魚を傷つけさせるあの女が、今やこれほど威厳に満ちた完勝の姿で戻ってきた。


 もし彼女が流雲城の城主になったのなら、元の城主はどこへ行ったのか?まさか……


 彼女はそれ以上考えなかった。


「自分の同族にもそんなに非情なのか?」


 カロンは望遠鏡を下ろし、流体は再び掌に溶け込んだ。その声に一抹の冷たさが混じる。


「確かに厄介な相手だ」


 しかし考え直す――自分はこの大陸最強の存在だ。


 アイランサーであれポレモスであれ、戦う価値はあるが、最終的には必ず自分の手下に敗れる。


 これは時間の問題だ。


 それに、彼女にはステュクスの助けもある。


「カロン様」


 副官の声が背後から聞こえる。


「エルフ族の援軍が到着しました。我々は彼女たちが準備を整える前に、夜襲を仕掛けるべきではありませんか?」


「ポレモスは彼女たちに時間を与えた」


 カロンは振り返らない。


「我々も与える」


「しかし――」


 副官は一瞬間ためらった。


「あなたは向こうがもう契約を破ったとおっしゃっていましたが」


「契約を破ったからこそ、我々は手を出せない」


 カロンは振り返り、副官の目を見る。


「戦争に理屈はない。早まった奇襲の代償は、まるで先に飛ぶ鳥のように――狩人かりゅうどに最初に狙われる」


「おっしゃる意味は……」


「先に飛ぶ鳥になるな」


 カロンの声が沈む。


「ポレモスが最初に攻撃したい相手を、我々にするな」


「承知しました」


 副官はうなずく。


「では、この戦争について、我々は何をすべきでしょうか?」


「戦えない者は全員、水中に撤退させたか?」


「はい。ここに残っているのは、戦って死ぬ覚悟のある者だけです」


 カロンの視線は窓の外で装備を整える影たちを走る。彼女の族人。彼女のために死を厭わない者たち。


「よし」


 彼女は言う。


「彼らを皆、中に入れろ。ひたすら隠れていても、広範囲の戦闘ではもう通用しない。彼らと対策を話し合う必要がある。お前も含めてな」


「承知しました、カロン様。すぐに全員を呼び集めます」


 副官は外に出た。


 カロンは地図を広げ、指先を紙面の上で滑らせる。


 ポレモスの能力は領域を展開する。


 もし彼女一人だけがそこに入れば、戦いは簡単だ。


 彼女が心配するのは自分の族人たちだ――手駒たちに臨時に堀を深く掘って繋げさせ、一旦領域が展開されたら、彼らを深水区に逃がし、海へ泳ぎ帰らせる。


 これで影響を受けずに済むか?


 彼女には確信がない。


 実は戦うのは簡単だ。


 彼女一人で十分だ。


 ただ、この瞬間になると必ず、自分も力になれると思って戦いに加わろうとする族人がいる。


 これが彼女の習慣になっている――まず逃げることを考える。自分が逃げるのではなく、彼らを逃がすことを。


「カロン様!大変です!」


 副官の声が外から聞こえる。彼女がめったに聞かない慌てた口調だ。


「何があった?」


 カロンは顔を上げる。


「そんなに慌てて……ポレモスが攻めてきたのか?それともエルフか?」


「どちらでもありません!」


「では何だ?」


 副官の顔色は青白い。


 彼は口を開きかけたが、何と言えばいいのか分からないようだった。


「ステュクスです!」


 彼の声が震えている。


「あの怪物が……深海から出てきました!彼女は……今、外にいます!」


 カロンの指が机の縁で一瞬間止まった。


 彼女は無意識に、まだ痒みの残る顔の傷跡を撫でた――ステュクスが残したものだ。


 そして彼女は立ち上がった。


「見に行く」


 何を考えているんだ。


 彼女は心の中で思う。


 ステュクス、今ここに何をしに来た?


 彼女は足早にドアを出た。


 ◇◇◇


 岸はすでに大混乱だった。


 数人の兵士が武器を掲げ、岸に上がったステュクスを囲んでいる。


 しかし誰一人として前に出ようとしない。


 ステュクスは動きすらしなかった――ただそこに立ち、あの触手を背後で揺らしているだけだ。


「く、来るな!」一人の兵士の声が震えている。


「立ち去ってください!」別の者も叫ぶ。


 しかし彼らは後退している。一歩後退するたびに、包囲網は一歩緩む。


 ステュクスは首をかしげ、まるで面白い獲物の群れを見ているかのようだ。


「ステュクス」


 カロンの声が人混みの後ろから聞こえる。


「何しに上がってきた?」


 兵士たちが道を開ける。


 ステュクスの視線が彼女に注がれる。あの真っ黒な瞳の奥で、星の点が微かに瞬いている。


「あなたの小さなおもちゃたちは、やっぱり可愛いね」


 彼女の声はあの気だるい、満ち足りた調子を帯びている。


「カロン様」


「本題を話せ」


 カロンは隣で触手に腰を絡められた若い兵士を一瞥した――彼は恐怖で武器を落とし、宙に浮かされ、顔色は青白い。


「私の兵士から触手を離せ」


「ちょっと遊ぶのも駄目なの?」


 ステュクスの声には不満が込められているが、それでも彼女はその兵士を下ろした。


 触手が離れ、彼はよろめきながら数歩後退し、仲間に支えられた。


「カロン様」


 ステュクスは前に漂い、それらの触手を背後に収めた。


「我々はもう盟友なのに、どうしてあなたは私からあんなに速く泳ぎ去ってしまうの?戦争をするなら、盟友と戦術や情報を共有すべきじゃないの?」


「お前は自分の禁忌きんきを覚えていればいい」


 カロンの声はとても冷たい。


「私の戦術はお前に合わない」


「本当?」


 ステュクスは首をかしげ、あの星の点の目を細める。


「じゃあ、戦術は置いといてもいいよ。あなたは知りたくないの――」


 彼女の声が突然軽くなった。まるで秘密を共有するかのように。


「蒸気人たちの方に、伝説のあの艦隊が本当にあるのかどうか?」


「それはお前が言うまでもない」


 カロンの口調には一抹の苛立ちが混じる。


「私はあの艦隊をこの目で見た。彼らが傍観していた様子は、今でもありありと思い出せる」


「いやいやいや」


 ステュクスは首を振る。それらの触手も一緒に軽く揺れる。


「あなたは考えたことがないの?あれはただ誰かがあなたに残した……誤解ごかいかもしれないって?」

完全には明かしていませんが、誰が暗躍しているのか、皆さんもお気づきですよね?元深海領主のステュクスなら、多くの秘密を知っているはずですから。

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