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白銀の戦士は世界を二度救えるか  作者: バルバロ
リュグレムシア遠征編
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提案

「どうしたんだよ改まって」


 仮拠点としている小屋は穴開きや朽ちた部分も多く、初日はその補修に追われた。研究に使っていたと言うが、機材などは持ち出しているのかほぼもぬけの殻で、ここで少し前まで人が生活していたとは思えないほどに生活感がない。

 そのなかで数少ない家具である木製の簡易な机を、適当にこしらえた椅子で囲み、四人向き合っている。ここに来てすでに七日、一日目はここの補修で終えたが、二、三日目はリュグレムシアの外周部分の居住区を中心に見て回っていた。


 何日も経っていないので当然のようにモナガンからの便りはない。念のため入れ替わりで二人が拠点で待機しているのだが、使いに送るというピーシースは現れない。

 街には軍に関与しない、野良の魔術師もいるが、その多くはアギアたちの興味を引くようなものはなく、少し話しただけで彼らも関心を失っていた。

 中には興味深い研究をしている者もいるだろうが、そういった人間こそ普段は研究室に籠もりきりで、簡単に会うことはできない。


 最近は諦めて街ではなく自然環境を見ている。リュグレムシア周辺は、アーケリア以上に乾燥した空気と、この街を支える大河が観察できる。バヴァと言うなの河ではあるが大型の船が往来できるほど幅も深さも有り、リュグレムシアの物流を支えている。

 その近くには多様な生態系、動植物が栄えており、アーケリア付近ではまず見られないものも多い。魔術ではない民間医療のような形で使われる薬草や、嗜好品として好まれるハーブなどはアギアも強い関心を示し、いくつか採取していた。

 ちなみに河辺を辿ると、ジャングルのような木々の生い茂った場所があるようで、そこにはさらに多様な生物たちが暮らしているとか。

 フィニリアはそうした様々な自然環境が存在し、そこに応じた文化、民族がいるらしい。それを束ねるのはどんな指導者であっても困難で、事実それを達成した者は歴史上ほとんどいないとのこと。


 それはさておき、やはり町の外の広大な大地では警備の目も緩むので、アーケリア人のアギアもそこまで目立たずに動ける。シレナも今まで見たことのない生物と触れ合い、知り、知見を広めている。

 シレナの魔術研究として難点なのが、サンプルとなる動物たちを囲う場所がアーケリア内に無いことで、ここで仲を深めても連れて帰れないのだ。

 山にいたときはそこらじゅうが庭のようなものだったのだが、街から離れてわざわざ森などに行かねば動物たちと交流もままならないのだ。

 その点では連れ帰ることこそできなくとも、拠点の近くには人が住んでいないので、ある程度自由に連れ回せる。とは言え基本は鳥類に限り、かつ大人しい生態のもののみである。臭いとフンがやや気になる(アギアは結構嫌がっている)が、研究のためと大目に見ている。


 リィンは相変わらず大人しいのだが、二人は存外に研究としてもダムナにいたときより捗っているようだ。それは大変喜ばしいのだが、問題は自分である。

 リィンの悩みもどうにかしてあげたいが、様子をうかがう限り深く追求されたくないようだ。なので取りあえずは保留として、自らの問題、街を自由に見て回れないことが不満の種であった。

 魔術というものをより知るために、という当初の目的はあるものの、ここの文化や歴史も見て回りたい自分にとって、外から眺めるだけの毎日はストレスの貯まるばかりである。

 それに耐えかね、こうして皆を集めたのだ。昨夜考えたことをまとめ、伝えるために。


「リュグレシアに忍び込もうと思う」

「馬鹿じゃねえのか」


 アギアに即座に切って捨てられた。その通りではあるのだが、あまりの切れ味に少しのけぞってしまうほどだ。

 だがそれしきのことで怯みはしない。


「僕は本気で言ってるんだ、今日の夜、リュグレムシアの中心部に行く」

「何のために?」


 シレナが真剣な顔で聞いてくる。彼女はこちらが冗談で言っていないとわかっているようだ。


「それは当然、城壁の内側が見たいから」


 モナガンが連れて行ってくれたとして、見れるのは彼の移動する範囲だけだろう。彼もそういうふうに話していた。それでは自分の興味は満たされない、そしてそれ以外の方法で侵入するのは不可能だ。


「あとは、ある噂が気になって」

「噂?」


 それは、リュグレムシアの地下には隠された施設があるというものだ。あの街ははるか昔、一夜にして滅びたとも言われる大国のあった跡地に築かれたもので、一部にはその痕跡も残っているという。

 そしてその地下施設というのは当時に作られたものを活用し、秘密の研究をしているというものだ。

 眉唾ものではあるのだが、これを話したある老人の、ただならぬ様子に真実味を感じたのだ。入り口は複数あるが、いずれも巧みに隠されており、まず見つけることはできないという。しかしその老人はあるヒントを与えてくれた。

 “香の匂いを辿れ”

 なぜ見ず知らずの自分にそんな事を話したのか、本当にその施設が存在するのか、正直言って完全に信じた訳では無いが、知った以上調べずにはいられない。その為にはまず中心部に入らねばならない。


「でもどうやって?」

「一人でなら色んな方法が取れる、けれどもし見つかった場合、かなり危険の状況になりかねない」

「だろうね」


 リィンが同意する。これが一番の懸念点であり、相談のメインである。


「だからここで別行動を取りたいんだ、まずは外周部に潜り込んで、侵入経路を見つけたい」


 そこまで行けば、光学迷彩や隠密行動で探索もしやすくなる。それには一人にならなければならず、危険を考慮するとそうするのが一番に思える。


「嫌だ!」


 シレナが強く拒絶する、想像していた反応である。


「なにもそのまま別々に帰るとかじゃなくて、無事に事を終えたら合流するよ。もし何かあった場合、事前に場所を指定してそこで落ち合おう」


 これは提案というより報告である。こちらの決心は固く、簡単に曲げるつもりはない。ただ、防衛の点や、何度も行った通り危険も伴う。もしもどうしてもと懇願された場合、ここに来ると言い出した責任もある、諦めざるをえないかもしれない。

 この拠点は魔術師がいたということもあり、簡単ではあるが人避けの結界があった。先にモナガンから聞いていなければ見つけられなかったかもしれない。

 しかし絶対ではなく、盗賊などに魔術師がいれば容易く突破されるかもしれない。このあたりも警備兵は巡回しているようだが、それを掻い潜って来る可能性もある。こんな廃墟同然の見た目で襲う価値があると判断されるかは分からないが、万が一ということもある。


「どうしても行きたいの?」


 シレナがまっすぐ見つめてくる。それにうなずいて答える。


「一人なら絶対に行ってたと思う、けど今は皆の安全も大事だから、だからこそこうして話してるんだ」

「そっか……」

「まあ、良いんじゃねえの? 一日、二日、お前がいなくてもどうとでもなるさ」


 アギアがそう話す。こう言っては何だが彼はそう言ってくれると思っていた、彼も自分のやりたいことを、研究を何よりも優先する、だから止めることもないだろう。


「必ず、無事に戻ってね」


 シレナが言う。


「もちろん」


 そのつもりだ。


「それじゃあ、こっちの準備は終わってるから、すぐにでも出発するよ」


 ふと、こうして話している間もリィンがほとんど何も言わなかったことに気づく。彼女のことは心配だが、一旦そのことは忘れ、自分のことに専念する。

 そうして拠点を離れて移動を始めたが、すぐに誰かが追ってきていることに気づいた。振り返ると居たのはリィンだった。

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