別行動組
「あいつらちゃんと探してっかな」
「人の心配してられるの? 船では役立たずだったじゃない」
「それを言われると返す言葉もねえけどさ……」
ダムナを歩くのはアギアとリィン。クロムたちとは別方向に行き、馬車を借りられる者を探している。
リュグレムシアとダムナを行き来する商人は多いのでそれに乗れば行くことは出来るが、旅荷が多いので馬車を御者とセットで手に入れたい。
とはいえ商売に来たわけでもなく、そしてこの街での信用が皆無な状況で馬車を、それも可能ならば買うのではなく一時的に借りたいのだ。
正直駄目元なのだが、旅にかかる費用を出来るだけ抑えたいのでやれることはしておきたいと、クロムが提案した。
この二人も経済的に裕福ではないので、その案には同意したが、特にアギアは交渉などあまりしたこともなく得意でもない。リィンにしてもやはり土地勘もなく頼るアテもない状況では、持ち前の話術や交渉術も活かす機会がない。
なので二手に分かれてはいるが、これといった目的地もなく市中をふらふらとさまよっている。
組み合わせがアギアとリィンの二人なのはシレナのため……だけではなく、アーケリア人であるアギアのためである。フィニク人であるリィンの横にいれば、万が一揉め事になった場合に“従者”と主張することで回避しようという目論見がある。もちろんそれだけで解決できるとは限らないが、そもそも揉め事に関わらないようにするのが一番なので、あくまで次善の策である。
今いるのはダムナの居住区であり、家並みから比較的裕福な者たちが住んでいることがわかる。とはいえそれらに押しかけて見るわけにも行かず、なんとか通りを歩く数名に馬車を持っており、借りられるような人間がいないか尋ねただけだ。
当たり前のようにそんな人はいないとあしらわれ、またろくに会話もしてもらえない始末だった。
ダムナは城塞都市ではなく、軍を有してはいるが大規模なものではない。今は有事の際はリュグレムシアが介入するという条約を結ばされており、有力な商人たちがこぞって反発をしている最中だ。なのである程度の財を持つものは私兵を雇って身の安全を確保している。
そうモノモから聞かされていた二人だが、想像以上に市民たちの間では緊張感が漂っていることに驚いていた。
ダムナはアーケリアからは距離があり、交易はリュグレムシア他、周辺の国々とのものが主である。だからリュグレムシアの圧力や、それに抗議をしている諸国の権力者などが生み出した争いの火種、それが燻っていることはつい最近まで知りもしなかった。
そもそも世事に疎いアギアは、海を越えたとは言え国境を隣にする国のことなど興味もなかった。だが実際に足を運ぶとまざまざとその空気感を知ることとなった。
そして今の目的が達成困難なことを確信し始めていた。
「正直言って無理だろ、こんな空気で、それも見ず知らずの俺たちに馬車を貸してくれるやつなんか居ねえって」
「……確かに思ってた以上に物騒な空気だね、市場では感じなかったけど、この辺の人はみんな暗い顔してるわ」
話しかけた人々、こちらをあしらった人間たちは不愉快さよりも、恐怖のほうが勝っているようだった。近年リュグレムシアが他国への圧力を強め、すでにその領地へ進軍している知らせも届いている。ダムナの市民はいつここが再び戦場となるのか、気が気でないのだ。そうなると他者へと親切心を向ける余裕も消えていく。
「商人連中も余裕がねえって話だし、あっちも厳しいかもな」
「それはどうだろうね」
「はん?」
不思議そうに聞き返すアギア。
「クロムって変な空気まとってるし、案外なんとかなっちゃうかもよ」
「変って……、それはわかるけども。お前ら揃ってどうしてあいつを評価してるんだ? あのバニスが、他人に興味のねえ“魔力狂い”もなんて……」
そもそも他人との、魔術師とさえも不必要なコミュニケーションを拒んだ四人が偶然集まったのが始まりであり、クロムが来るまでは魔術に関する会話以外したことがなかった。魔術師世界にも流儀や作法に厳しものもいるので、好きなように研究だけしたい彼らには不要に感じたのだ。
それが今では一緒に遊びに行く始末であり、森で遊んできたという話を聞いた時、アギアは耳を疑ったほどだ。
「一緒に居たらわかると思うけど……、船の上では話とかしなかったの?」
「……そんな場合じゃなかったし」
「そうだった」
知っていた上で尋ねたリィンの意地悪さに顔をしかめつつも、クロムの“空気”なるものについて尋ねる。
「話したらわかると思うけど、妙に自信ありげだったり、いろんなことに詳しかったり。とにかく興味が尽きないんだよね」
「バニスもか?」
「彼はクロムの魔術に興味があるだけでしょ」
「魔術ねえ」
クロム本人に聞いてもはぐらかされるだけだが、バニスやリィン曰く「とんでもない」ものらしいが、山のような蛇を殴り飛ばしたり剣も弾くなどと荒唐無稽な話ばかりで、とても信じられるものではなかった。
話している人間が、主にバニスは冗談など言うような質ではないので真実かも知れないが、だとしても我が目で見なければ何もわからない。
「使うこと自体は隠してなさそうだから、機会があれば見れるかもね」
「この旅の間には御免だけどな」
戦闘に使う魔術の出番があるということは、当然危険を前にしたときであろう。そんなものは勘弁願いたいというのがアギアも、リィンにも同様である。
「あーあ、日が暮れてきちゃったよ」
「あんたが話しかけるのに躊躇してたからじゃないー?」
リィンのほうが得意なのだが、彼女の“趣味”によりアギアに交渉を半分任せていた。それが半日かけて数人としか話せなかった主な理由である。
「う、うるせえ。文句言うなら自分でやりゃあよかったじゃねーか!」
「それだと面白くないでしょー?」
「ったく、いい趣味してるぜ」
「褒めてくれてありがと、じゃあ話の小屋に向かおっか」
そう話し、ダムナでの一日目が終わっていった。




