商業都市ダムナ
「はー、すっげえ人の数」
「今度は人酔いしそうだね」
アギア共々、皆驚きに目を開く先にはダムナの市場が広がる。アギアの言う通り、人、人、人。人口で言うとアーケリアの方が多いのだが、この場所にはこの街のすべての人が集まっているのではと思うほどに人に溢れ、そして活気が満ちている。
「けどやっぱアーケリア人はいないね」
そう小声で言うと、横のリィンが反応する。
「この辺りはね、でもいることはいるはずだよ。表にはほとんどいないだろうけど……」
「そうなんだ……」
シレナが小さく頷いていると、モノモが説明をしてくれる。
「リュグレムシアと、その周辺国ではフィニク人と、それ以外では扱いが全く違うんだよ」
「身分制度があるんだっけ?」
事前に学んだことを伝えると、モノモもゆっくりと頷いて見せる。
「この土地ではフィニク人は神聖な人種として伝わっているから、他のものとは明確に異なるんだ。税も、法も」
「そこまで露骨に違うのかよ」
アギアが驚いている。「市民」という身分さえ満たせば基本的には皆が平等としている(アーケリア人贔屓は存在するが)のとは全く異なる文化にカルチャーショックを受けているようだ。
「じゃあモノモさんはここでの方がお仕事もしやすいんですか?」
シレナの質問に対し、片眉を下げて見せるモノモ。確かに彼はフィニク人の風貌ではあるが、少しだけ事情が異なる。
「私は“まじり物”、純粋なフィニク人ではないからね、祖父がアーケリアに渡ったフィニク人だったんだ。ここでは逆に、そういう者はフィニクの血を“汚した”者として嫌われているんだ。私は見た目だけだとそうだとわからないから、黙っていれば問題ないけれどね」
「そうなんですか……」
国によって文化や、慣習も異なる。文献で知ったことはあるが、実際に現地に来ないとわからないことは多くある。モノモというある程度事情を知っている人間と来れたのは幸運だろう。
「じゃあ私はこれから商いの時間だ。言ってある通り、寝泊まりは私が以前使っていた空き家が郊外にまだあるはずだ。そこを利用してくれ」
「はーい」
モノモが前にここを離れる前に、知人に管理を任せていたという話だからおそらくは無事なはずだ。彼の名前を出せば問題なく使わせてくれるとのことだ。
モノモが離れていったあと、残された四人で話し合う。
「こっちも始めようか」
移動に使う予定の馬車を工面しなくてはいけないのだが、一応モノモが探してくれるとは言っていたが自分たちでも探しておくべきだろう。彼は自分の仕事の後にと言っていたので、こちらで見つけられればその分早く旅立てる。
「じゃあな、面倒起こすんじゃないぜー」
そう言ってアギアとリィンが離れていく。こちらはシレナと二人で行動だ。影でシレナが小さくガッツポーズしているのが見えたが、気にしないようにしておく。
「それじゃあ行こっか」
「うん!」
いつになく元気なシレナを連れてダムナの街なかを歩き始める。
ダムナにある建物は木製や土壁の物が多く、石造りの多いアーケリアとは違う。それはこの街が幾度となく戦火に呑まれ、文字通り炎に焼かれてきたからだ。
交易が活発ということはそれだけ多くの物と人間がいるということだ。リュグレムシアの一部として扱われているが、一応は独立した自治を行っているダムナだが、やはり戦と無関係ではいられない。
しかしそれでもその立地の良さから常に交易の中心としてフィニリアに有り続けている。
建物からそういった歴史を感じつつ歩いていると、ふとシレナが横にいないことに気がついた。慌てて視線を回すと、少し離れた、通りの反対側にいるのが見えた。彼女は男性二人と、一人の少女の間に立って震えていた。
「そこをどけガキ!」
「おめーその娘にも手ぇ出したな!」
「あ、あのう……」
シレナ以外は三名ともフィニク人のようだが、どうやらその揉め事に首を突っ込んだようだ。女性の方が頬を抑えているのと、シレナが倒れている当たり向こうは手も出したようだ。
「いいからさっさと足りねえ分出せってんだ」
「うるせえこのゴーツクバリ! こんな質の悪い魔石に銀貨三枚も出せるわけねえだろ」
「だからって暴力は駄目ですよ……」
罵声か飛び交う中に逃げ出さないシレナを評価してあげたいが、彼らにその声は届いていなさそうだ。
会話を聞いていると、売り買いにおけるトラブルのようだ。シレナが関わっていなければ無視していただろうが、こうなった以上仕方がない。
「シレナ大丈夫?」
「あ……、クロムくん」
「今度はなんだ、お前も邪魔すんのか!」
掴みかかってきそうな勢いで男性に怒鳴られるが、努めて冷静に、彼の手に銀貨を差し出す。
「これで勘弁したげてよ」
「……あん? なんだよ、お前こいつの知りあいかなんか……っておいふざけんな!」
男が再び激昂するが、それは自分が渡した銀貨を見たことによる反応だった。
「こんなもん渡すんじゃねえ! くそ、なんなんだよ。もういい、二度と関わるな、あっちいけ!」
「えっ」
「何ビビってんだクソ野郎、逃げんじゃねえ!」
男に渡した銀貨を投げ返された。そのまま向こうの二人は店の中へと戻っていく。息巻いているフィニク人の少女を引き剥がし、シレナの手を取ってその場を離れることとした。




