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白銀の戦士は世界を二度救えるか  作者: バルバロ
リュグレムシア遠征編
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船旅

 アーケリアからリュグレムシアへと向かうに当たり、ルートは大きく分けて三つある。二つは陸路で、この前に砦を奪い合ったのが最短で向かえる道で、山間部を通り抜けることになる。次がその山を迂回するルートだが、当然その分遠回りになり、かつ道も険しく盗賊なども頻出するのであまり好まれない。

 そして三つめが海路で、直線距離としては最も短いがアーケリアは航海術に関してはそこまで進歩していなく、大型の帆船なども少ない。この世界、少なくともアーケリアの技術レベルというのは魔術といった例外を除いては、おおよそ地球で言う一世紀程度のもので、造船技術もそれに準じたものである。なので航海という行為自体がリスクを伴う。


 しかし今回はアーケリアの商人であるモノモという男性に付いていくので、彼の商売品を積んだ船に乗せてもらうことになっている。

 これから渡るのはリュグレムシアに続く海だが、いわゆる地中海であり普段は穏やかな海だそうだが、これから冬季になるにつれ波も激しくなるという。

 今はまだそこまで荒れていないが、航海はひと月ほどかかるというのでその間に状況が変わるかもしれない。

 船はまっすぐリュグレムシアに向かうのではなく、その途中にある「ダムナ」という街に一度立ち寄ることとなっている。そこはフィニリアの土地でも有数の商業都市であり、日夜多くの人や物資が入日だれているという。


 モノモはそこで商いをした後にまた船に乗り、最終的にリュグレムシアまで行くらしいのだが、自分たちはそれには同行せず、彼の力も借りて馬車を用意してそのまま陸路に切り替えることになっている。

 自由に移動がしたいというのもあるが、なにより今回共に旅をする全員が船に乗った経験がないのが大きな理由である。


「うえええ……」

「大丈夫~?」


 船の上でげえげえ言っているのはアギアだ。横でリィンが背中を擦っているが、船に乗ってからずっとこの調子である。すでに一週間(アーケリアでは六日)経過しているが慣れる様子はない。

 自前の酔い止めを飲んではいるが、あまり効いている様子はない。それともこれでもマシな方なのだろうか。


「シレナは慣れてきたみたいだね」

「ちょっとね……、まだ気分悪いけど……」


 シレナもずっと青い顔をして遠くを見ている。今乗っているのは荷物を乗せるので大型ではあるが、簡素な帆船であり、微風でもかなり揺れる。軍にはガレー船のようなものもあり、そちらの方がいくらか乗り心地がいいらしいが無いものはしょうがない。

 自分もあまり揺れると気分が悪くなるが、ある程度は相棒がなんとかしてくれる。それにモノモと一緒に操舵の手伝いをさせてもらっているのも、酔いを紛らわせる事ができている。


「おじさん……、到着まであとどれくらいなんだ……?」


 幽鬼のような表情でモノモに話しかけるアギア。少しでも救いがほしいのだろうが、一日に十回は尋ねている。モノモも困った様子で幾度となく繰り返した言葉を返している。


「まぁだかかりそうだなぁ、シレナちゃんがいてくれるから航海は順調だけどなぁ」


 シレナが鳥の声を聞くことで天候不良等にいち早く気がつけるのもかなり大きな助けとなっている。それでなおこの有様なのだからやはり船旅というのは過酷なものだ。


「そんなぁ……」


 呆れた様子のリィン。彼女も船旅は初めてだと言うが、ずっと平気そうである。彼女のことだから話すことが真実とも限らないが、確かに船上で起こること全てに物珍しそうに新鮮な反応を見せている。

 今は波も穏やかなので暇をしていると、リィンが近寄ってきた。


「いい天気ね~」

「今日は朝からずっとそうだね、このまま続くといいけど」


 昨日は大雨に見舞われ、波を被りながらの航海で夜もおちおち寝ていられない状況だった。だから今日に関してはアギアの様子も仕方がないことではある。「あれ以上の波が来たら船が持たないかもしれない」と船長が話していたときはさすがに肝を冷やしたが、あと数週間何事もなければいいが。


「ジャネムちゃんは残念だったね」

「すごく行きたそうだったけど、仲間のこともあるからね」


 この旅の話を聞いてからジャネムは口にこそ出さないものの、ずっと羨ましそうにしていた。彼女の事情はわかっているので特にこちらから聞くことはなかったが、一度だけ何気なく話題に出したときはとても悩んでいた。だが最終的には家族のような仲間たちのことを放っておけずに残ることとした。

 バニスも話しぶりから来るのかと思ったが、彼は彼でこの冬にやりたい研究があるとのことで向こうに残った。ミニットも不在だが、彼女もかなり忙しそうな様子だった。


「そういえばリュグレムシアは有名な魔術師が多くいるって話だけど、自分でも知っている人っているかな」

「えー? どうだろう、あたしもそこまで詳しいわけじゃないからなぁ……」

「……リュグレムシアと言えば魔術師「ドノゲス」だろ」


 よろよろと歩くアギアがその名を口にする。その名前は確かに聞いたことがある。


「ドノゲスって、物語にも出てくる魔法使いのことだよね?」

「おとぎ話じゃーん」

「ばっか、実在した人間だよ」


 その彼がリュグレムシア、その前の前の前の国にいたらしいが、夜を一瞬で朝に変えたとか、魔法で山を持ち上げたなどと荒唐無稽な逸話が多くある。


「魔法ってそこまでなんでも出来るの?」

「理論上では可能と言われているものは多くある」

「けどそれを行使するだけの魔力と、扱える術者がいればの話だけどね~」


 大魔術師は街を一瞬で火の海にできるとも言われるが、それを行うには莫大な魔力が必要となる。それをどこから持ってくるのか、そしてどうやって炎という現象に変換するのか。それを可能にするのが魔術師なのかもしれないが、とても現実的な話とは思えない。


「どんな魔術師に会えるかなー」


 そう海の向こうに思いを馳せながら、航海は続く。

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