旅程
「――フィニリアに行きたい」
「は?」
「急にどうしたんだ」
魔術師四人組、アギア、バニス、ミニット、リィン。それと今はシレナも含めたメンバーが利用している家屋。意外と全員が集まるのは珍しいのだが、今日は揃っている。
だからというわけでもないが、近ごろの考えを口にした。
「リュグレムシアは魔術が発展しているって聞くし、実際この間の戦いでは実践に投入されていたから、現地に見に行くのもありかなって」
フィニリアとはリュグレムシア含む、フィニク人が多く暮らす土地だ。今はリュグレムシアが広く支配しているが、その昔から魔術と縁深く高名な魔術師を多く生み出している。
砂漠広がる痩けた大地とも、野草すら育たぬ死の土地とも言われているが、その一方で東部にはジャングルのような場所もあると、ある旅人が話していた。
「それはたしかにそうだが……、この間殺し合ってた相手と、それにお前は勝手にうろちょろできねえ立場だろ」
「ああ、それなんだけど……」
最近ロズラーサからとある注意、警告を受けた。アーケリアの中心で政争が起こっているが、それにともない派閥争いや囲い込みなどが活発になっているそうだ。
立場上ロズラーサもそういった情報は得られるようだが、その中でレゼラルド騎士団も一応の活躍の甲斐あってか、カードの一枚として扱われているようだ。少なくともその構成員の家族も含めて味方に出来れば勢力としては捨て置けぬだろうから間違いではない。
そのことを踏まえて、彼女はこちらに対して暫くの間身を隠すように提案をしてきた。こちらが将来的にアーケリアを旅立ちたいというのはロズラーサ本人にも伝えている。しかし彼女はその考えを改めてもらえるよう努力すると言っており、それを一部ではあるが翻したのだから今のアーケリアはかなり危うい状態ということだろう。
その話があったのも、リュグレムシア含むフィニリアに行くことを考え出した理由の一つだ。
「なるほどな、そりゃまた難儀な……。お偉いさん方も暇なことで」
「ミニットは大丈夫?」
リィンがミニットを伺う。いくらかの難点はあれど彼女の作る兵器は間違いなく利用価値がある。だが彼女を奪い合うというのは今の情勢からは考え難いが、あるいは混乱に乗じて他勢力が狙う可能性も無いとはいえない。
「だいじょーぶ、私に喧嘩売る馬鹿なんてそうそういないから」
「……それもそっか」
ミニットの家はアーケリアでも有数の危険地域である。なにせ彼女の研究成果がそこら中に転がっているのだ、作った本人でなければどうなるかもわからないものを、何も知らぬものが触って大丈夫な訳がない。
その昔哀れにも盗人が彼女の工房に忍び込み、“染み”になったのだという。今も彼女の工房の床にはその痕があるというのだが、実際に見たが作り話なのかどうかはわからなかった。ミニットは黙して含みの笑いを見せるだけだった。
そんな彼女に無理矢理、力づくで危害を加えようとする者はアーケリア人にはいないだろうが、とにかく彼女に面倒が訪れぬといいが。
「それで、リュグレムシアって言ってもいきなり行けないだろ、ツテとかあるのか?」
アギアはこちらに興味あるように話しかけてくるが、彼もリュグレムシアに行きたいのだろうか。
「仲の良い商人のおじさんが来月向こうに行くらしいんだ、だからそれに着いていこうかなって」
「来月!」
素っ頓狂な声を上げたのはシレナだ。確かに言っていなかったが、そこまで驚くことだったのか。
「でも、そうかー……。いやたしかに……、うーん」
云々唸っているアギア。バニスがこっちを見ている。
「今向こうに行くのはリスクが高いと思うが……、そういえばお前たちはアーケリア人ではないんだったな」
自分とシレナを見ながらそういう。自分は当然としても、シレナもアーケリア人とは髪色や瞳の色が異なる。この間のこともあったが、リュグレムシアではアーケリア人はまともに外も歩けないと言う。
アギアは父親がアーケリア人だが、見た目だけではすぐにそうだと判断は難しい。目立つことをしなければ厄介の種にはならなさそうだが。
「そんなに危ないの?」
シレナが心配そうに見てくる。うわさ話しかないので、実際に見ないと判断できないが両国間の緊張感は市民一人ひとりにも伝わっているようだ。
特にリュグレムシアは階級制度が厳しいようで、アーケリア人はその中でも最下層に置かれるのだとか。そもそもの数は少ないが、向こうにいるアーケリア人はそのほとんどが奴隷だとも聞く。
「私も気をつけなきゃ……」
この話とは無関係とは思うが、シレナがなにか覚悟を決めている。わかってはいたがついてくる気満々なようである。
「よし、俺も行く!」
そうアギアが声を上げた。こちらを見ているが、ついてくる分には問題ないが、自分の身や世話を焼くつもりはないのでそれだけできれば構わない。
そう伝えると強くうなずき、準備をすると出ていった。
「じゃああたしもついてっちゃおうかなー」
そう話すのはリィンだ。先日の出来事があって以来、こちらからは少し警戒しているのだが、彼女は全くと言っていいほどいつも通りである。だが時折こちらを見る瞳があの時の妖しさを湛えているような気がして背筋がざわつく。
そんな彼女の真意が読めない中ではあるが、こちらの寝首をかくのでもなければ反対はしない。あとはシレナに危害を加えなければいいが、自分以外のこの四人に対してそんなふうには見えない。シレナもかなり良くしてもらっているようだし、悪意には彼女の友達、鳥たちが反応する。
「じゃあ、そういうことで」
そう話したひと月後、この四人でリュグレムシアへと旅立つこととなった。




