敗戦
「さてどうするか……」
ロズラーサが指揮を委ねられ、コレッサと話し合っている。とはいえ人数差も有り出来ることは少ない。
「まともにぶつかってもすり潰されるだけですので、少し引いた場所、山間部でゲリラ戦に持ち込むべきかと」
「そうだな、それしかないか」
本当は投石機など転用される恐れのあるものは破棄、破壊したいのだが、それをする猶予は残されていない。十数分後にも追撃の敵軍が迫ってくるのだ。
オーダンがどれだけ時間を作れるか定かでないが、急がなくてはならない。
「ロンペルド様、皆に号令を」
「む、そうか……。ごほん」
咳払いをして背筋を伸ばす、凛とした表情は貫禄を作り出す。それが精一杯の虚勢だとしても、彼女の覚悟は本物だ。
「ここに残った我らはこの国の壁、盾。我らの後ろにいるのは友軍のみならず、数百万のアーケリアの民の安寧を守るため、諸君らとともにこの身をもってここに砦を築かん、……行くぞ!」
「おお!」
砦に向かい行軍をしていた山間部まで移動し、木々の間に潜み隠れる。身軽なものは崖上から弓を構えている。道幅は通れて四人、戦闘をするとなると二人がせいぜいだ。
だからここまで来た時は部隊を分け、遠回りになってでも速度と安全を優先したのだ。
しかし今は倍以上の数がいるが、殿の役目を果たすためには戦わなくてはならない。ただ一つ希望を見出すならば、本隊の人数も考えるとわずかでも向こうの数を減らすことができれば、追撃を諦める可能性もある。
「ロンペルド様これを」
「……これは?」
ロズラーサに矢を手渡す。
「友人の魔術師、ミニットが作ったものです。試作品ということで十本しかありませんが、驚かすことぐらいは出来るかと」
試射を任されていたが出番がなかったため、そして避難口のような手狭な場所で彼女の“自信作”を使うと大惨事になりかねないので控えていた。
それなりに自信有りげだった様子から威力は間違いなくあるが、渡されたときに取り扱い注意と何度も念を押されたのでそこだけが懸念点である。
ただし一度起動しなければ大丈夫と言われているので、持って歩くだけで暴発することはなかった。
それを弓の腕に自信がある者に優先して渡した。製作者の名前を聞いて辞退を申し出た者がいたことから、ミニットの噂はかなり知れ渡っているようだ。その悪評も含めて。
ふと横にいるコレッサを見ると剣を持つ手が震えている、彼も実践は初なのだ。
「気負わないように、大事なのは時間を稼ぐことですから。無理はなさらずに」
「……ああ、わかっている。心配させて悪い」
大丈夫だと言いはるが顔が青くなっている。皆を守ることは出来ないが、ロズラーサと彼だけでも生きて帰れるよう奮闘したい。
相棒、鎧は燃費が悪いので使えない。なので可能な限り手傷を追わないようにしなければならない。当然のことではあるのだが、鎧の存在を知っていると途端に不安な気持ちにもなる。
人の心配もそこそこに、まずは自分の役目を果たすことに集中しよう。
緊張からか、数分しか経っていないのに額から汗が流れる。暑さはそこまでないので精神的な理由からだろう。時の流れが早くも、あるいは遅くも感じられる中、上から見張っていた者が接近を知らせる。
「騎兵はありません。数は事前の通り数百、ですが手負いの者もいます。オーダン様のお陰でしょうか」
「そうかもしれないが今は不確定な情報は必要ない、君も合図を待て」
「……了解しました」
ロズラーサもぴりぴりしており、やや話し方にも棘がある。だがそれをフォローするのも今は難しい。
やがて兵士の頭が見え、やがて列をなした一団が目に入った。ロズラーサの合図を待ちながら、矢をつがえる。もうミニットの矢は起動済みで、少しでも触れると術式が発動するのでそれにも神経を使う。
「――やれ!」
ロズラーサが手振りと声で指示を下す。まずは弓兵が一斉に物陰から矢を放つ。
自分含め数本が敵兵に命中し、他は地面や明後日の方向に飛んでいった。何かにぶつかった順番に派手な音と矢じりについたなにかが破裂するように発動した。
射られた敵兵は文字通り“木端微塵”になった。地面にも人一人分ほどの大穴が開いた。敵軍に動揺が走るのを確認すると二射目を放った。
今度は通常の矢なので先程のようにうろたえるものは少ないが、手始めとしては上々だ。
「伏兵だ! 総員抜刀せよ!」
敵の指揮官の号令で敵兵が武器を構えた、すでにこちらの大まかな場所はばれている。木は多いが百人以上が隠れるのには限度がある。
ロズラーサも声を上げた。
「さあ立ち上がれ、アーケリアの英雄たち! リュグレムシアの弱兵に我らの勇猛さを知らしめる時だ!」
彼女の言葉とともに各々が武器を手に飛びかかっていった。自分も剣を持ち、目の前の敵兵に吶喊していく――。
後日、ロズラーサとコレッサ、そして自分も全身に傷を負いながらも幸運にも五体満足、命を落とさずに済んだ。
だが共に戦った兵士はほぼ全滅、先に戦っていたオーダンの部隊も壊滅し、オーダン自身も重症を負ったらしい。
そして結果、砦の攻略もままならず、アーケリア軍は無様に敗走することとなった。
規模としては小規模な戦いではあったが、これが後にアーケリアを揺るがす出来事の契機となったのは間違いない。
次からはしばらくのんびりした感じになります




