団の未来のために
レゼラルド騎士団の精鋭たち(と言ったほうが聞こえが良いだろう)はたどたどしくも足元の悪い川岸を辿って上流へと向かっている。実績の割に質の良い重鎧もまた足取りを重くする理由の一つである。だがこれが彼らの自尊心を高める一つなのだから決して無駄ではない。
お飾りと揶揄される我々だが、その風評は当然他の団員も知っている。それに団に送られる者というのは貴族の身ではあるが、長子の者は少なく殆どが次男や三男坊である。つまり家督を継ぐ見込みが薄いが、持て余すのも可哀想だからと押し込まれるのがここなのだ。
「ルースさんがこういった場所に慣れているのは意外ですね」
「家の近くにこんな川があって兄さんとよく遊んでたんだ」
そういう理由から少し捻くれている者も多くいる。それらをおだてて少しでも“ノセて”あげるのが大事なのだ。実力も経験も乏しいとなるといよいよ士気が低くては何もできなくなってしまう。
「ああ、君にこんな才があったとは。私も知らなかったよ」
「あ、ありがとうございます……」
ロズラーサがそう褒めると顔を真っ赤にしてそむけた。彼女が鼓舞すると効果てきめんで良いのだが、難点もある。
「……ふん」
「…………ちっ」
方々から舌打ちやら嫉妬の鼻息が聞こえる。人気者は大変である。
「そろそろ目的の場所が見えてくるはずです、皆様お静かに」
コレッサが忠告すると、言葉通り川に沿って一部凹んでいる場所が見つかった。川に垂直に開けられた穴は明らかに人工的に作られたもので、奥から風が流れてくる。ひとまず出口には誰もいないようだ。
しかし入り口の作りは古びてはいるが堅牢で、足場の悪いここで破壊するのは現状無理そうだ。
「ここは潰されていないようですが、結構奥深い作りになっているそうです」
「ならば砦に近いところで封鎖されている可能性もあるということか」
指揮官と参謀が話しているが、もしこの奥に入るようであればかなり危険だ。狭い場所では数の利が活かしにくいが、代わりに接触した場合戦闘は避けられない。砦の入り口まで分かれ道は殆どないとのことだから、もし人員を配置していればまず間違いなく出くわすこととなる。十一人でどこまでやれるか、そもそもどれだけ戦える者がいるのだろうか。
今回ここまでついてきた者たちは団の中でも普段から多少はやる気のある者たちだ。個人的にロズラーサに指南を仰ぐものもおり、下心があれど訓練自体は真面目に励んでいるらしい。とはいえ腕前で言うとアーケリアの正規兵たちの足元にも及ばない。今回徴兵された農民たちよりはマシだとしても、砦内にいる相手とまともにやりあえるとは思えない。
「ロズラーサ様、一旦引いて指示を仰ぐべきかと」
そう進言する。とりあえず入り口の状況は確認したのだ、第一の目的は達成したと言えなくもない。そもそもこの人員で出来ることなど多くはないのだ。無理はしない方がいい。
「私もそう思います。せめて援軍を貰わないと危険すぎるかと」
コレッサの援護が入る。だがロズラーサは納得いかなさそうである、少しでも多くの実績を残したいのだろう。だがそれは焦りにつながる、焦りは戦場に持ち込んではいけない。
「……よし、一度戻ろう」
「了解しましたでは――」
「だが私とクロムはここに残る。君は皆と先に戻ってくれ」
それを聞いてコレッサの表情が固まった。意外というよりも恐怖、彼女の身を案じているのだろう。眉の顰みを隠そうとしない。
「承服しかねます」
「……危険は承知の上だ、しかしこれは我軍にとって非常に重要な情報となる」
こうなったロズラーサをなだめるのは簡単ではない。いくら付き合いの長いコレッサとて、だからこそ難しいのもわかっているのだろう。顔がどんどん険しくなる。
「君はどう思う」
「指揮官の命とあらば尊重すべきとは思いますが、仰る通り難しい作戦なのは事実でしょう」
一時の付き合いと考えてはいるが、今は軍属のみだ命令には従う。しかし無茶にはしっかりと意見するべきではある。だがロズラーサの意思は固い。
「そうだ、命令だ。私達だけならば離脱も容易だ」
「中の作りも、見張りの状況もわからないのにですか」
コレッサが食い下がる。それだけ危険なのと、彼女が心配なようだ。だがその心配がより彼女の決意を強くさせる。
「頼むコレッサ、ここでやらねば我々に未来はないのだ」
「…………」
苦しむようにうつむくコレッサ。彼女の想いを彼も傍でずっと見てきたのだろう。
「戦闘になるようであれば必ず撤退を、生存できなければその未来も有りませんので」
「ああ、注意するよ」
はっきりと返事しないロズラーサを何度も見ながら、コレッサたちは戻っていった。二人になってからこちらに話しかけてきた。
「済まないなクロム、君を付き合わせて」
「いえ、問題ありませんとも」
「君ならそう言ってくれると思ったよ。それに君であれば遅れも取らないだろう」
過剰に評価されている気もするが、出来る範囲で応えようと思う。休養も十分なので鎧の展開は問題なく出来る、少なくとも撤退の間だけであれば消耗も抑えられる。もしロズラーサが撤退を渋った時は、その時は無理矢理にでも連れて帰ろう。彼女の身に万が一でもあればコレッサに申し訳が立たない。去り際に頼まれたのだ、彼女を守ってくれと。
「では自分が先行します」
「頼む」
そうして砦へと潜入を始めた。




