別働隊
これから攻めようという砦を眺めながら、小高い丘に拠点を設営し今か今かと開戦の様子をうかがっている。開城を勧告しに使者が送られたが、どうやら不発に終わったようで天幕の中では将校たちが今後の方策を練っている最中だろう。
そもそも今回、状況を鑑みればこちらのほうが有利なはずだった。まず前提から言って、相手がリュグレムシアというのも“推測”でしかない。それというのもリュグレムシア自体はなんの声明も出していないのだ。
あくまで慣例ということではあるが、相手国に侵攻する場合はその国の指導者に使者を送り開戦の宣言をするように伝える。それを拒否した場合であっても、侮辱の証として攻撃をするのだ。つまるところ形式のみのものではあるが、数百年にわたって行われているものなのだ。
向こうがそれだけ礼儀知らずということもあり得るが、今この時点でも砦にはリュグレムシアを示す旗の一つもない。ただ間違いなく中にいるのはフィニク人、リュグレムシアの大半を占める人種な上、装備も野盗のそれではないためその可能性は非常に高い。
この無言の侵攻が意味するところは、向こうがまだ“本気”でないということだ。小手調べ……には強気に過ぎるが本気の侵攻より前にこうして少しずつ国土を削っていくのだろう。
つまり“舐められている”のだろう。無礼も良いところの宣告なしの侵攻は非難されてしかるべきだろう。だが今の国王に周辺諸国を巻き込んでリュグレムシアに圧力をかけるだけの“欲”はない。
三ヶ月も発覚しなかったということは手引した内通者がいるはずだ。それは国王の求心力の低下も意味する。この国の行く末にさほどの興味はないが、今のアーケリアは堕ちゆく国のそれそのものだ。三代で潰すとも言うが、二世であるデミュニオスには一国の主に必要な強欲さが見られない。
今を生きる者にとっては有り難いことこの上ないが、多くの国に囲まれたこの場所を長く維持するには常に強く有り続けなければならないだろう。
この国を離れるまで保ってくれればいいが、案外“その日”は近いかもしれない。
未来の話はさておき、気になるのはこの後だ。有利に運べる理由は主に二つ、まずあの砦は規模から見るに入って二〇〇〇人。こちらが四〇〇〇少々なのだから頭数は十分、それに攻城兵器の用意もある。それに元々こちらのものだったのだから内部構造もほぼ把握してある。わかりやすい出入り口は塞いであるかもしれないが、新たに罠などはあってもたかが知れているだろう。
そしてもう一つ、向こうには増援の見込みがない、その可能性が高い。それもそのはずこっそり攻撃を始めたものが大手を振って増援を送るはずがない。
その時は本腰を入れて侵略を開始するときだろうが、今のところリュグレムシア側からの橋頭堡と言えるのはここだけのはずだ。
だからこそアーケリアはここでしっかりと侵攻の芽を潰さなくてはならない。
ただ気になるのは、であればなぜこんな無茶なことをリュグレムシアの作戦だとして、行ったのか。ここで考えても仕方がないことではあるが、どうにも嫌な予感が拭いきれない。
やがて日が落ちるよりも先に結論が出たようで、各員に指示が出された。当然我々は後方で待機……、とはならなかった。
全体を三つに分け、砦を包囲する形で圧力をかける。その後疲弊した頃合いにもう一度降伏勧告をし、それでも呑まなかった場合に攻撃を仕掛ける手筈らしい。支援が見込めないのであれば早々に降伏してもおかしくないが、向こうが妙に強気なのが解せない。
そんな中我々に与えられた命令は、それらとは別の作戦だった。
あの砦は小山を削って斜面に沿って建てられている。そしてそのすぐ下には船が必要になるくらいの少し大きな川が流れている。砦の出入り口は山道沿いにあるが、それ以外にその川と行き来するための通路があるのだという。
それは緊急時の脱出口も兼ねている。そのため砦内からでも知っている者のみが通れる隠し通路のようになっており、現在あの中にいる者たちがその存在を知らない可能性がある。
与えられた任務はまずその通路が未だ使われているのかの確認、そして可能であればそこを封鎖すること。確認だけであれば簡単なようにも思えるが、問題はそれを担当するのが実戦経験皆無の我らレゼラルド騎士団なことだ。
確認というからにはある程度近づかなければ意味がない、そしてしっかりと見張りがいた場合戦闘になることもある。そんな臨機応変な動きができる人材がここにいるわけがない。
それに山中を数十人でぞろぞろと移動するのも隠密の観点から望ましくない。こちらは五十六人の団員がいるが、その中から人員を厳選しなくてはいけない。
ロズラーサがコレッサと話し合い、総勢十一名が選出された。
……当然のようにそこに自分も入れられていたが、反対の余地はなかった。こうして明朝、我が団初となる“まともな仕事”をすることとなった。
一つ気がかりなのは、この作戦を提案したのがファガロム・オーダンということだ。周りは楽観視しているものも多いが、そうはいかないだろうという直感から来る危険な予感が身を震わせた。




