伏兵?
「どうしてここに来たのかな」
「……」
リィンの問いに黙して身じろぎもしないフィニク人の男二人。それに対してリィンは嘲るような、からかうような視線を向けている。
「こんな辺鄙な場所で……、服もボロボロじゃん」
「誰のせいだと……」
リィンの挑発に苛立ちをあらわにした男をもう一人が諫める、どうやらそちらのほうが立場が上らしく大人しく従った。比較的若い方の男はスキンヘッドで、もうひとりは口元と顎の豊かなヒゲが特徴的だ。
彼女の話す通り、男たちの衣服は擦り切れだらけである。しかし二人の所作は単なる浮浪者とは違うように見えた。それはリィンが時折見せる動きと酷似している。
「リィンと、そちらの方はお知り合いなのかな」
「……」
「知りあい……、そうだね。そんな感じ、昔から色々あってね、こんな風に無愛想だけどごめんね」
先程から、リィンはこの二人を意図的に苛立たせているが、それはこちらに対してけしかけているのだろうか。であればそれに乗るべきか、否か。
男たちはリィンの知り合いというが、年はかなり上で親世代よりも少しいったぐらいに見える。わざとらしくはないが、両者とも剣呑な気配を隠し持っている。
しかし先程に相方をたしなめていた方がなにか耳打ちをし、その結果立ち去ることを決めたようで翻って歩き出す。
「あれあれ、どうしたの。用事があったんじゃないの?」
リィンの呼びかけには答えない。
「こっちはあたしの友達でさ、アーケリアで兵隊さんをやってるの。結構有名なんだよ」
そう言うと二人の足が止まった。そして振り返った二人の目がこちらを捉えた。値踏みするように、その視線は突き刺すように鋭い。
「ほう……」
「ね」
「……そうだね、街の警備を任せてもらっているよ」
返答次第では、という張り詰めた空気がある。ここまでくると向こうの正体が知りたくなる、そうなるのもリィンの想定通りかもしれない。
「だとして、君は我々をどうする?」
「うーん……、このあたりはアーケリアの管理下だから、許可なくこの場所に住み着いているなら問題ではあるね」
それに軽く鼻を鳴らし、年上の方の男は遺跡の方を見た。
「ここにいる者はみな、アーケリアに居場所を与えられずさまよった末にここにいる。何の咎もなく、ただフィニク人というだけでだ」
「そうらしいね」
「君はそれに疑問を覚えないのかな? 無実の者が悪逆にさらされているのを、黙って見逃すのか」
「……」
さらに男は続ける、手を広げて訴えかけるように話す。
「君はただの兵だ、報告するのもいいだろう。だがその結果、ここにいる人々はどうなる?」
「追い出されるだろうね」
「そうだ、なんの支援もなくただ追いやられる。それはもはや珍しい光景ではない、この国のあらゆる場所で、フィニク人だけではない。アーケリア人でないというだけで、この国から居場所を奪われているのだ」
この男の言葉に嘘はない。ジャネムはザガール人という種族だが、それらもフィニク人ほどではないが差別的な扱いを受けている。近年アーケリアが繁栄するとともに、他人種は次々とこの国から追い出されている。
「けれどそれは先代国王までの話でしょ、今の国王はかなり人道的と聞くよ」
「ふん、上辺だけの施策に何の意味がある。こうして事実、今も苦しい生活を余儀なくされている」
強く訴えかけている男は、こうして人々に悪政を説いて回っているのだろうか。それとも。
「……で、演説して気を引きながらそっちの彼が襲う手筈かな」
スキンヘッドの男が少しずつもう一人から距離を取っている。男の大げさな手の動きなどは注意をそらす意図だったのだろう。それを聞いてスキンヘッドの男はピタリと止まる。
「それかまさか……」
横のリィンを見るが、彼女には一切変化がない。共謀している可能性もあるが、まだわからない。
「悪いけど貴方の思想や考えに共感したりは――」
後方から気配を察知し、その場で姿勢を低くする。頭の上を何かが通り抜けた、視線を上げると切っ先が見えた。
躱したことに驚いた様子のスキンヘッドの男は手に剣を構えている、前後で挟撃するつもりだったのだろう、こちらに向かって走り出しているが動揺が見て取れる。
だがまずは後ろのほうが優先だ、殺気の方向に水面蹴りを見舞うと足先に感触が合った。倒れる音が聞こえると同時に前面のスキンヘッドの男に対応する、振りかぶって剣を振り下ろすのを腕を強化して防ぐ。硬質な金属音が響き、驚愕とともに剣が弾かれた。
「なっ……」
「残念!」
二撃目より先に接近し、腕を取ってそのまま投げる。下は地面だが勢いもあり、悶絶して転げ回る。振り返ると奇襲してきた者が立ち上がっている、一瞬迷った様子を見せたがもう一度攻撃を仕掛けてきた。
斜めに斬りかかってくるのに対し、強化した腕を這わせ強引に捌きそのまま喉に肘を叩き込んだ。
制圧を終え、息を整えて髭の男を見るが姿がない。スキンヘッドの方も見当たらない。探して回ると、少し離れたところに倒れ伏している。確認したがすでに死んでいる。
「――がっ」
誰かのうめき声が聞こえ、ばっと顔を上げて見るとたった今倒した男が喉を切り裂かれているところだった。
それをしていたのはリィンだ。そしてその手に持っているのは自分の剣だ、腰を見ると確かに無くなっている。彼女は剣の血を拭い、こちらに歩いてきた。
「お疲れ様!」
リィンの顔はいつもの、人懐こい笑顔だった。




