遠出
アーケリアの周囲には大小多くの農村や家屋がある。その殆どはアーケリアに向けて出荷するための作物などを育てており、またその武力の威を借りて山賊などを遠ざけたいという思いもある。
ただ、もしもアーケリアが襲撃されることがあればまず間違いなく略奪の対象になり、実際に過去の戦においては数多くの無辜の民が暴虐の憂き目にあった。
それ以外にもアーケリア以前の王朝などが残した遺跡などもそこかしこにあり、風化を逃れて原型を保っている場所は盗賊などの隠れ家となっている。
農村などはアーケリアが敷いた街道の側にあるが、遺跡はそれらとは離れた場所に点在している。なのでそこまで向かうには草木をかき分け獣道など険しい道を行かねばならない。
そういった道をリィンに導かれるままに歩き進んでいった。整備された道ではないが、それでも彼女の通る場所は少しだけ踏み鳴らされた形跡が合った。
そうやってたどり着いたのが、一つの廃墟とかした遺跡だった。まだまだこの世界の歴史などには詳しくないので、柱の形などからどの王朝であったかなどと推察することは不可能だが、その風化具合を見るに百や二百できかないぐらいには時間が経っているようだ。
「どうしてここに?」
「ここはあたしの……、家の一つかな」
そうやって辺りを見回すと、柱の陰などに人々が座り込んでいる。よく見るとそれは皆、フィニク人だった。その衣服はボロボロで、衛生状態や食事もあまり取れていないようだ。
やはりこの国でフィニク人がまともに生活をすることは難しいようだ。こちらの顔を見た一人の男が立ち上がってこちらに向かってくる。
「アーケリア人がこんなところに何の用だ! ここですら俺たちに居場所はないというのか!」
激しい剣幕で向かってくる男をなだめようとするが、リィンが間に入った。
「そこまで、この人はアーケリア人じゃないし、あたしの友達だからやめてよね」
普段のすました顔とは違い、鋭い目つきでそう警告したリィン。その迫力に男はすごすごと下がっていった。
「ありがとう」
「気にしないで、連れてきたのは私だし」
「これを見せたかったってこと?」
くたびれたフィニク人たちを見ながらそう話すが、リィンは首を横に振った。
「違うよ、この遺跡が綺麗だから見せたかったの。静かだし。けどいつの間にか“あれ”が住み着いちゃったみたい」
同じフィニク人だが、そこに共感や同情はないようだ。
「そうなんだ」
「まったく、こんな生活するぐらいならとっとと国に帰ればいいのに」
事情は分からないが、そうもいかないからここにいるのではないだろうか。
「厳しいね」
「ああいう人間、嫌いなのよね。なにも出来ない、しないくせに心のどこかでなんとかなると思ってる。あーやだやだ……」
そう話すリィン、今まで見れなかった彼女の一面を見れたようだが、普段と同じかそれ以上にかなりのリアリストなようだ。どちらが表とも裏ともわからないが。
「その点、君はいいよ」
「それはどうも」
「うん、いつも寄ってくる猿とは違って、すごく良い眼をしてる」
何度となく他人から言われてきたが、そんなにも自分の目は他人と違うのだろうか。色はたしかに珍しいと思うが。
「でもこうなっちゃうとどうしよう、せっかくここで星を見ながら君と話そうと思ってたのに」
ずいぶんロマンチックなことを考えていたらしい。素敵だとは思うがもう市内に帰るには時間がない、日はもう傾いて暮れかかっている。
「しょうがない、近くで野営しようか」
「そうなっちゃうかぁ、じゃあ準備任せてもいいかなー?」
「お任せあれ、お姫様」
そう返すと目をパチクリさせるリィン、そしてお腹を抱えて笑い出した。
「あははは! なにそれ」
「得意なんだ、こういうの。クサすぎたかな?」
「良いと思うよ、あたしは結構好き」
そうして夜がくるより早く、手早く準備を終えて二人で火を囲んで他愛もない話をした。しばらくするとリィンが少し離れると言って闇に消えていった。
もどってくるのを待ちながら、火の番をしていると人の気配がした。彼女が帰ってきたのかとも思ったが、気配は二つある。じっと伺うと現れたのは二人のフィニク人の男たちだった。
遺跡にいる者かとも思ったが、どうにも雰囲気が異なり、やや危険な香りがする。慎重に話しかける。
「どうされました?」
「……こんなところでなにをしている」
「星を見に、ここからよく見えますので」
こちらの言葉に対し、訝しむ様子の彼ら。どうやらここにいると都合が悪いようだ。
「立ち去れ、ここはお前のような者のいていい所ではない」
「指図されるいわれも無いと思うけれど、それとも国王の許可を得ているのかな?」
「そんなものは関係ない、二度言わせるな」
向こうが服の下に手を入れたのを見てこちらも心の準備、戦闘の気配を察する。堅気のようには見えないがゆえ、後はリィンのこともある、見逃すのは危険だと判断した。
一触即発の空気が漂う中、割って入るように声がした、リィンだ。
「あれー、こんなところでどうしたのかな?」
「貴様……」
リィン、それと男たち二人。彼女が話しかけたのは自分ではなく、向こうの方だった。




