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デート

 アーケリア市内におけるデート、大衆娯楽というのは劇場のほか不定期に開催される騎馬レースなどがある。路上で芸を披露するものや劇場以外でも歌や冒険譚などを語るものもいる。

 さすがは大国アーケリア、娯楽の種類も豊富で、戦火から遠ざかって久しい現在では芸術方面の黄金時代とも言われているらしい。芸術文化には疎いがロズラーサあたりは詳しいかもしれない。

 とにかくそういったものが男女の間でも親しまれており、意中の相手を連れて通うものも多くいる。なのでリィンと行く場所もそれらの中から選ぼうかと思ったのだが、彼女の意向を伺ったところ、全く違うものが提案された。


「こんなに種類あるんだね」

「うん、だからお金掛かって仕方ないの」


 リィンと来たのは門の近くに開かれた露天商の並ぶ地域だった。そこの端の方で物陰に隠れるように店を開いている男の前でリィンはござに並べられた色とりどりの石を眺めている。

 大きさは小さな豆ほどのものからこぶし大のものまで様々で、色も単色のものから琥珀のようなものもある。これらは彼女の占星術に使われるようで、消耗品であることからこうして頻繁に補充しなくてはいけないらしい。

 そういえばリィンはどうやって研究費用を捻出しているのだろうか。ミニットは軍に協力することで支援を受けている。アギアは治療魔術を用いて教会などで実験を兼ねて治癒を施している。バニスは実家が太いのでそこから摘んでいるようだ。


 リィンの占星術は需要が多いことから貴族などに求められることが多いが、その殆どがお抱えの魔術師を擁していることから意外に稼ごうと思うと門戸は狭いようだ。さらにそうした魔術師は代々続く歴史ある者が多いのでリィンのようなよそ者は特に仕事を探すのが難しい。

 それに加えてフィニク人であることは衆目を気にする貴族にとっては、一際嫌われる要因となってしまう。

 ということで彼女の収入源というのも謎の一つに加えられた。


「うーん、案外なんとでもなるものよ」


 そう話すリィン。購入した石を袋に詰めて通りを歩いているが、その表情から真意を読み取るのは難しい。なんとでもとは、確かに手段を選ばなければ稼ぐ方法はいくらでもある。とはいえその上で街なかで堂々と歩くにはそれなりに信用される仕事が望ましい。

 リィンからはそうした後ろ暗い空気は見られないが、しかしながら秘密の多い彼女のことだから上手く隠している可能性もある。


「なぁに、そんなに気になるの?」

「謎をそのまま放っておけない質でさ」

「あはは、魔術師的ね」


 研究職はそうした性格でないとやっていけないだろうが、そこまで執念深くはない。


「でもその性格はいずれ身を滅ぼすかもよ」


 笑顔のままそう語る彼女は単に心配をしてくれているのか、他意があるのかそれすらわからない。


「お気遣いありがと、でも大丈夫さ」

「楽観的なのはいいことだよ、それにあんたの実力なら確かにそうかもね」


 この間のロズラーサとの戦いを見ていたリィンだが、ミニットほど自分の能力に関して興味がない様子だ。分野が違うことが理由なのだろうが、言い触らさないのであればそれが一番である。


「この後はどうする? 劇場には興味あるかな」

「あるけど最近の演目は見飽きてるからなー」


 魔術師四人組のなかでもリィンが一番世俗的というべきか、世間への関心が強い。他がなさすぎると言うべきかもしれないが。

 バニスに至っては今の国王の名前すら怪しい始末である。まだ関わりが深いミニットのほうが政治に対しては明るい。というか普段の落ち着いた知的な雰囲気からの実際のバニスとの乖離が激しい。おそらくあの中で一番、自分の知る人間の中でも上位に入るほど興味の対象とそうでないものへの差が激しい。食事は口に入ればなんでもいいというのはまだ理解できるが、研究についてもそれに付きまとうリスクですら、自分の命ですら有り無しの二択でしか考えていない。

 それだから一人で山に入っては血まみれで帰ってくるのだろう、彼を見る度に周りの方が肝を冷やしている。


「クロムはこの後暇ってことでいいんだよね?」

「そうなるね」

「じゃあー、紹介したい人がいるんだけど、どうかな」


 きっとこの一言で淡い期待をする者もいるのだろが、彼女の性格を知ってなおかつその笑顔の裏が見たとおりでないとわかっているからこそ、言葉通りに喜ぶことなど出来ない。

 けれど自分から誘っておいて乗らないというのも勿体ないだろう。


「よくわからないけど、君の誘いとあらば喜んで」

「いいね、ノリがいい人は好きだよ」

「それはご友人かな」

「秘密、付いてきたらわかるよ」


 そうしてリィンに手を引かれるまま、向かう先はアーケリアの外だった。

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