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リィン

 最近リィンが気になる。

 それは異性としてとかではなく、シンプルにその動向と私生活に興味がある。

 彼女は非常にミステリアスな女性だ。この辺では珍しいフィニク人というのもあるが、それ以上にその話し方や振る舞いには人を惹き付ける引力のようなものがある。

 それに釣られている男子をよく見るが、どうやらリィンの“趣味”の一環らしく釣り上げた後に餌を与える様子は見られない。

 こうした姿は特段彼女を追いかけ回したから知ったのではなく、図書館などでよく見かける日常的な光景なのだ。

 だから彼女を知る人間からしたら「またやってるな」程度の感想しか抱かず、しかしそうと分かっていながら彼女の手のひらで転がされる男性は後を絶たない。


 フィニク人というのはアーケリアと今は消極的だが敵対関係にある、リュグレムシアという国に多く見られる人種だ。だからこの国の中でフィニク人というのはあまりよく思われておらず、奴隷身分に身を窶す者も多くいる。

 多少理不尽な扱いをしていても見て見ぬふりをされる程度には嫌われているのだが、それでいてリィンはそういった扱いを受けずに自由な身で研究を続けている。

 これは彼女の卓越した処世術の賜物だと思われ、普段の態度と合わせてより彼女の背景に興味を持たせる。

 なにより彼女の“歩き方”なのだが、これが一番の謎である。彼女はアギアたちと同じく魔術の徒だ。その知識量や技量は他の三人と勝るとも劣らないというのはシレナの弁である。シレナ曰く彼らは年端からは及びもつかないほどの優れた魔術師だという。

 まだここに来てひと月と少々ではあるが、他のはるか長く魔術を道を行く大人たちとも交流があるらしいが、それらとも引けを取らないのだという。論戦では時にそれらを打ち負かすほどらしい。


 今のところ魔術に関しては自分はまだまだ素人に等しく、近頃はアーケリア周囲の情勢について調べてばかりなのでそっちのほうまで手が回っていない。だからシレナからの話でしかわからないのだが、それでもリィンが優れた腕前なのは確かなようだ。

 それはアギアたちとの会話からもわかるが、他人を公に褒めたがらないアギアも彼女には一目置いているようだった。


 リィンの専門は主に星読みとそれに関する事象の研究だとか。なので天候や吉兆などに敏く、それそのものが魔術の行使においても重要な意味を持つらしい。

 星読みは戦においても重要で、開戦のタイミングやそもそも戦争の成否を決めるのにも用いられるようだ。なのでこの国においてもポピュラーなジャンルだが、その分より多くの知識を持たねば一角の魔術師とは呼ばれない。

 その中でも多くの分類があるようだが、そこまではシレナに聞いてもわからなかった。そもそも彼女の専門外なのだからそれも已むなしである。


 ということを念頭に置いてリィンのことを見ていたのだが、どうにも彼女の動き方には魔術師とは別の、特定の種類の鍛錬を重ねた者の気配がある。

 上手くごまかしているのか普段はわからないが、時折歩き方などにクセが見て取れた。それは隠密行動などを行う者の技術であり、極力音を立てず気配を隠すことを目的としたものだ。

 などと彼女には興味が尽きないが、さりとてどうやって調べるかも難しい。さすがに後ろを付きまとうのは気が引ける。

 ということで。


「どうなのそのへん?」

「……あんた思ってたよりもおバカなのね」


 いつもの拠点で交流を終えた後、帰り際に彼女に尋ねてみた。

 なのだが単刀直入すぎたか、唖然としている。


「いやぁ気になったからさ」

「意外と大胆なんだね」

「へへへ」


 頭を掻いてみるが、はぐらかすのが上手そうなリィンに対しては直球勝負が良いと判断したのだ。


「そういうのはシレナちゃんとかミニットに向けてあげな」

「うーん……」


 眉を曲げるが、なんとも返答に困る。わかりやすいシレナはともかくミニットのことにもなにか気がついているようだ。薄々思っていたが、やはりそうなのだろうか。


「その気がないのに思わせぶりなことはしたくないからさ」

「……へぇ、結構経験ある感じ?」

「ないない、けどそのくらいわかるよ」

「ふぅん、あんたより年上のアギアなんかさっぱり女心がわかってないけどね」


 研究一筋どころかそれしか見えていないバニスは論外としても、アギアもかなりの変わり者だから一般的な感性とはかけ離れているだろう。


「それはともかく、君のことが知りたいんだけど」

「ずいぶん積極的じゃない、そんなにあたしのことが知りたいんだ」


 目を細めてこちらを見るリィンは非常に蠱惑的で、その美貌はなるほど多くの男子を惑わせてきただけはある。フィニク人特有の赤らんだ肌が日差しを浴びて輝いて見える。首筋を流れる汗が胸を伝い、扇情的な雰囲気を醸し出す。


「うん、だからどっかで話せないかなって」

「……変わってるねぇ、その辺の下半身くんたちとは違うわ」


 自分で誘惑しておいてなんて言い草だろうか、たとえ事実だとしても。リィンが顎に手を当てて考え込む。


「うーん、じゃあデートでもする?」

「それじゃあお言葉に甘えて」


 そうしてリィンとのデートが始まった。

皆様良いお年を

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