↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/114

遠足

 今日は街を離れて近くにある森の奥へと来ていた。シレナがアーケリアに来て以来、街の様々な施設などを紹介して回った。そしてアギアたちの魔術師仲間のところへも連れて行った。

 当初は懐疑的であった彼らもシレナの魔術を目の当たりにしたところ、強い興味を示して以後はその技法などについて深く話し合っているようだ。

 彼女に聞いてもなかなか上手くやっているようだ。人と魔術について話す機会などなかったことから戸惑う場面も多々あるようだが、往々にして魔術とは自己流のものも多いようでお互いに得るものがあるという。


 そうやってシレナとしても充実した日々を送っていたようだが、様子を見ているに近頃はやや疲労の色が見えた。

 それもそのはず、人の少ない田舎から大都市へとやってきて慣れない生活を過ごしているのだから、ストレスがあって当然である。

 なので今回は彼女の慣れ親しんだ山……、は遠い上に危険も多いので小川の流れる森へと足を運んだのだ。

 そのことを彼女に話した時はたいそう喜んでおり、こちらとしても提案したかいがあるというものである。


 なのだが今、シレナの顔に笑顔は見られずむしろ膨れているように思える。それというのもこの慰安目的の遠出はシレナとの二人きりではない。それどころかけっこうな大所帯である。

 自分を含めて六人。まずは話を聞いていたジャネムが同行を申し出た。次にどこから知ったのかリィンとミニットも付いてくることとなった。

 そして一番驚いたのが、あのロズラーサが今自分の横を歩いているのだ。これまた一体どこから耳に入ったのか、そこからまず疑問である。

 魔術師二人は調査と、魔術儀式に使う素材採取が目的だと言い張っている(それもやや疑問だが)が、いよいよロズラーサがこの辺鄙な森になに用があるというのか。


 尋ねてもはぐらかされるのだが、少なくとも気分転換という主張には疑問符が残る。確かに緑多い場所で過ごせばリフレッシュにはなるが、それと自分らに同行するのは必ずしも一致しない。

 その真意はともかく今はそんな美人らを引き連れて木漏れ日の注ぐ獣道を歩いている。流石に皆がフィールドワーク慣れているだけあって誰かが遅れるということもなく順調な行程である。

 ただ一つ問題がある。誰も話さないのだ。こちらも時々は話を振るし、ポツポツ会話にはなるのだがすぐに皆黙りこくってしまう。

 自分とシレナ以外はほぼ全員初対面だから致し方ない面もあるが、それにしても仲良くなろうという気配が見当たらない。

 ミニットが無口なのは分かっているし、シレナは二人旅にならなかったことで落ち込んでいるのでまだわかる。しかし社交的であるジャネムとリィンまで静かになられると自分も気まずくなってしまう。ロズラーサも大人しい性格ではあるが気の使える人間だからこういうときは率先して場を回してくれるのだが、今日に限ってやたらに静かだ。


「ジャネムの故郷ってどんなところ? こういう森の中とか」


 よく反応してくれるジャネムについ頼ってしまう。


「もっと岩が多いし、景色もつまらない場所だよ」


 そういえばジャネムは故郷についてあまり語りたがらない。話題がないのでつい口にしてしまったが、機嫌を損ねただろうか。見た目には気にしていない様子なので安心したいが、気の利かぬことをしてしまった。

 今度はうずくまってなにかを拾っているミニットに話しかけてみる。


「なにかいいものあった?」

「よくある茸だけど、流石に豊富だから助かる」

「それスープに入れたら美味しいよね」

「ドモの木の実を混ぜると毒薬になるの」

「……へぇ」


 それを何に用いるのかまでは聞けなかった。明らかに危険な代物を作っているのだろう、下手に追求すると実験の手伝いに駆り出されかねない。


「そんなに気を遣わなくてもいいよ」


 そう話すのはリィンだ。彼女は今日集まったときからずっとなにか含みのある笑顔を浮かべている。おそらくはこの状況を面白がっているのだろう、あれはそういう人間だ。いい趣味ではないが彼女はああして人間関係を観察して面白がることがある。その輪の中に自分がいてもいなくても楽しめる、そういういい性格をしているのが最近の付き合いでわかってきた。

 近頃リィンが気になっている。女性的な魅力という意味ではなく、その謎の多い私生活にある。下世話な趣味とは違う、なにか不思議な気配をまとっているのだ。


「でもせっかくだからもっと楽しみたいじゃない?」

「そうかもしれないけど、全員がそうじゃないからね~」

「まあミニットなんかはそうだろうけど」


 そう言うとリィンは笑みを深めた。


「ふふ、そう見える?」

「表情が読みづらいけど、違うの?」

「ミニちゃんはあれでけっこう楽しみにしてたんだよ、昨日なんか――、いてっ」


 何か言おうとしたリィンだったが途中で話すのをやめた。見るとミニットが彼女の腕をつねっていた。


「なに、恥ずかしいんだ」

「……」

「ま、まあ楽しんでるならなによりだよ」

「……うん」


 なんだか彼女も初めて会ったときよりも打ち解けれている気がする。分かりづらいが返事をしてくれる回数が多くなった感じがある。あと鬱陶しがられたときの舌打ちが小さくなった気もする。


「シレナもそろそろ元気だして」

「だってぇ」

「川で釣りでもしよう、したことないでしょ」


 山の中には集落の近くに大きな川などがなく、あっても魚が泳げるほどのものではなかった。食事は主に鳥と、ほとんどが山菜や木の実であった。


「釣り……」

「楽しいよ、教えてあげるからさ」

「うん……、うん!」


 すぐに立ち直れるのが彼女の良いところだ、途端に足取り軽くなりだした。


「あたしにも教えてよー」


 ジャネムが寄ってくる。


「いいともさ」

「あ、じゃあ私も~」

「……」


 ミニットとリィンも近寄ってくる。何も言っていないがミニットも釣りに興味があるようだ。


「むうぅ」


 そして再びへそを曲げかけたシレナをなだめながら森の奥、開けた場所へとたどり着いた。その間、一言も話さなかったロズラーサを奇妙に思いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。