再会
そこそこのスペースが有るとは言え、その肉塊は部屋の半分以上を占めている。自分の記憶と照らし合わせ、その差異を見出そうとよく観察する。
かつて見たものと同様に、それは複数の肉をつなぎ合わせて作られている。それは形状や色から明らかなのだが、どうやってそれらを合わせているのかというと見た目からはわからない。
肉は見ただけでは判別し難いが大型の獣のものや、部分的に小動物のものらしき小さな塊もある。皮を剥いだ筋肉以外に様々な臓器も用いられている。
この中によもや人間のものがあるとは考えたくないが、それを否定し来てる材料は存在しない。解体して分析する他ないが、こちらにその手段もない。
二人も同様に、あるいはこちら以上に念入りにじっくりと眺めている。
「ミニット、これは?」
「わからない、専門外。バニスは?」
「俺もわからない、魔術によって作られた物体なのは間違いないだろうが、それでもこれは……」
魔術の研究がどういったものかまだ知らないが、二人の表情からもこれが普通ではない邪悪なものなのは確かなようだ。
そして以前に自分がしたことを思い出す、だがそれによって起こった変化も考慮する。少なくとも今に至ってマイナスの影響は見られない、とはいえ今後、それも量が増えるとなると全くわからない。
二人をよそに、肉塊にそっと手を触れた。
「……なにをしている!」
「危ない!」
いつも声の小さめなミニットも絶叫した、それだけ危険なことをしているのかもしれない。手のひらからはひんやりと、そしてペタッとした弾力のある手触りがする。前のものに見られた拍動はない。だが体の方、相棒の方には動きが見られた。
外からはわからないだろうが、確かにないかが体の内に入っていくのを感じる。なぜだろう、どこか「懐かしい」感覚がある。
「……ふう」
「大丈夫か……?」
「うん、問題ない」
そう言うがバニスは信じられないような顔である。
相棒のなんでも吸収、解析しようとする悪癖には困らせられることも多いが、こちらにもメリットはある。そしてこれも大事なことだが、取り込んだ物質の断片的な情報がこちらの脳内にも送られるのだ。
あくまで感覚的なもので、構成物質などを認識できる訳では無いがそれが有害なものか、どういった性質を持っているのかなどを肌感でわかることが出来る。
それでわかったことは、この肉塊は「死んでいる」ということだ。そのことを二人に伝える。
「死んでいるということは、これは生命体ということなのか?」
「というよりは母体、子宮のようなものだと思う」
「中にはなにが入っているというんだ」
そこが一番の懸念点だが、おかしいのは「空」の肉塊ではあるがどこにも破損箇所が見られないことだ。
つまり物理的に内部になにかが収まっているわけではないということになる。
「もしかしたらこれは「供物」なんじゃないかな」
「供物?」
ミニットが首を傾げる。
「うん、まあ魔術のことはさっぱりだからはっきりとはいえないけど」
「供物というのは魔術的な言葉ではないから、……触媒や媒介と言ったほうが良いかもしれない」
「じゃあそれで」
「となるとその対象があの蛇ということか」
状況からはそうなるが、実際に見たわけでもないので確信はない。だがこの異質な存在が全くの無関係とは思えない、二人も魔術的な性質があるのは間違いないと言う。
じゃあ相棒は空のものからなにを吸い取ったのか、これが最も奇妙なことで二人に言うか躊躇われた。
おそらくそれはこの肉塊とは「無関係」のものである。そうは言ってもこれがなにかの中継点となっているのは確かだが、それはあくまでこれを「経由」しただけにすぎない。
つまり血を吸った蚊が疫病を残していくように、これをもとに「なにか」が糧を得たのだ。
あの異常な蛇、それを変質させた存在がこの肉塊の向こうにいる。あんな悍ましい生物を生み出した存在の正体など想像もしたくないが、それを魔術によって干渉したとなると術者のことまで危険視しなくてはならない。
「どうしたの?」
「……いやとんでもないものを見たなって」
「平凡な感想だが同意見だ。俺もこんなものまで魔術によって生み出せるとは、その道のものとしては感心すべきかもしれないが……」
「ちなみにこれと同系統……、近しいところにある技術などはないの?」
そういった疑問が適切なのかは分からないが、取り敢えず尋ねるが二人とも反応は芳しくない。
「生命についての探究は多くのものが行ってはいるが……」
「こんな気持ち悪いのを作ろうとは思わない」
「そうか……」
「少なくともこの国の中で扱われている技術体系には当てはまらないと思う」
「じゃあリュグレムシアとか、他の国は?」
首を振られる、流石にそこまでは知らないとのこと。それもそうだろう、これ以上ここに居ても得られるものはないだろう。
一部の関係ありそうな機材だけを手に取り、外に出ることとする。しかし大事なことがある。
「燃やす……?」
「それにはかなり大きな炎が必要だろう、ここを封じて人が寄り付かなくするほうがいいだろう」
「ヘタに触ってまたなにかが飛び出てきても怖いし」
だからもう二度と不用意に触らないでね、そうミニットに厳しい口調で叱責された。彼女の不安も最もなので謝罪しておいた。
封印はバニスが行い、最初にあったものとは異なる方法で入り口の隠匿を行った。また洞窟自体にも人避けの呪いを行い、効果はそこまで強くないが出来るだけ長持ちするような手段を用いたという。
横で見ていてもなにをしているかさっぱりわからなかったが、確かに終えた時には入り口がぼんやりとし、意識しないと視界から外れるようになっていた。
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外は暗くなって来ていたので急いで村へと戻っていく。あれから吸ったエネルギーで幾分体が軽くなったので、行きよりは早く動けた。それに興味津々だったミニットをあしらいながら村に戻ると、あの老人が迎えてくれた。
「……あんたら、何者なんだ」
「アーケリアの魔術師、です」
「魔術師ってえのはみんなあんなこと出来るのか?」
否定を意を込めて首を振る。老人は訝しげにこちらを見てるが、やがて頭を深く下げた。
「お陰で生きながられることが出来たよ。……息子夫婦は助からなかったがな」
「…………申し訳ありません」
そう言うと老人は顔の前で手を降った。
「やめてくれ、どうしようもなかったんだ。……だが、村の中にはあんたらがあれを呼び込んだと思っているものもいる」
「そんな……!」
バニスが身を乗り出すのを制する。ミニットも不満げなのを隠そうともしないが、それ以上なにかを言ったりする風ではない。
「一晩だけ、また村のはずれで休ませて頂いたら朝には出ていきますので」
「……悪いな。みんな本当はそんなことないってわかってるんだ」
失った悲しさをどこかにぶつけないと耐えられないのだろう、仕方のないことだ。
「どうにか都に戻ったら援助を出来るよう計らってみますので」
「……期待しないで待ってるよ」
冷たい視線と、同じだけの感謝を述べられ胸が張り裂けそうになりながら、あまりに多いために遺体を燃やしている煙を眺めながら眠りについた。大きな影に追われる悪夢に苛まれながら目覚めた後は、また言葉少なに帰路についた。




