調査
「本当に今行くのか?」
「日を跨いでも良いんじゃないかな」
「そうはいかない、もし首謀者がまだ生きているなら問いたださなくちゃ」
洞窟に向かいながら、心配する二人にそう言い聞かせる。あの洞窟によもやもう一匹いるとは思えないが、確認しなくてはおちおち眠れない。
足取りはまだふらつくが、二人の手を借りてどうにかあの場所まで戻ってきた。
死体の痕は相変わらず残っており、あの後に誰かが出入りした様子は見られない。もしかしたらあの蛇に全員やられたのかもしれない。明らかに異常な生物であった蛇は、信じがたいが魔術の産物の可能性がある、だとしたら出どころと思しき洞窟に倒れているあの死体がその原因であると考えられる。
残された研究日誌はバニスが回収しているので、後々に多少はなにかわかるかもしれない。
「相変わらずひどい臭いと……、やはり空気中に漂う魔力の発生源はこの奥か」
「でも前よりマシになってる」
「……そうなのか?」
それはあの蛇を倒したからなのか、いずれにせよ入ればわかることだ。熱源を探知するのも今は難しいので、五感を駆使して慎重に調べるしかない。
松明を用意してゆっくり洞窟の深くへと侵入していく。二人とも後ろからついてきているが、以外にも洞窟はそこまで入り組んでもなければ、大きくもなかった。入り口は背丈よりも高く幅もあの大蛇が通れるほどに余裕があったのだが、それこそあの残された死体の蛇にちょうどいいくらいであった。
「……なにもないな」
「ないね」
「ない、けど……」
バニスの方を見る。
「魔力の気配はまだ感じる?」
「そうだな、だが不思議とこの中はいくらか薄く感じる」
それは奇妙だ。出どころがここなのだとしたら奥に行くに連れ濃くなるはず、それが真逆とは。
「もう少し念入りに探ってみようか」
「ああ」
三人で別れて探すが、正直手分けするほどの広さでもない。というかここにあの蛇が居たというのが信じられない、本当だとしたらギチギチで身動きも取れないだろう。
「うーん……」
仕方がない、熱源を探知するのと同時に音の反響も調べてみよう。そう思って強化した途端、めまいが襲ってきた。
「うげ……」
「……おいどうした」
「大丈夫?」
問題ない、と言いたいがおそらく今自分の顔は真っ青だろう。だが根性で耐える。
「問題……、ない」
「そんな馬鹿な」
「……いいの?」
とは言えこのまま調べても埒が明かない、なにかあるのは間違いないと思うのだが、もしかしたら別の場所に隠れ家でもあるのだろうか。
「……隠れ家、隠し扉」
覚えがある、隠された入り口に奇妙な紋様。地面に記憶を思い起こしながらあのマークを書き起こす。
「なにをしている?」
「なにその紋様」
「昔、こういうものが入り口にあった場所を思いだしたんだ」
そう二人に説明すると、二人が考え込んだ。するとバニスが心あたりがあるようだった。
「入り口に、というとおそらく人避け、獣避けのためのものだろう。その為の紋様には術者それぞれの意図が込められている、それを解読するのは容易ではないが……」
「こういう時に魔石が役に立つ」
そう言いミニットがあの石を取り出した。
「なるほど、魔力に反応するのか」
「そういうこと」
それを持ちながらうろうろし始めるミニットを見ていると、ふとある場所で止まった。
「ここ」
そういう彼女に近づいて手元を見ると魔石がぼんやりと光っている。その付近の壁を念入りに探っていく、手も添えて壁をなぞると見た目と異なる感触があった。
そこを注視すると地面に描いたのとは違う紋様があり、そこを伝っていくとぽっかりと空いた空間に気づいた。
今の今まで、先程調べたはずの場所に人一人が余裕を持って通れる空間があるとは、それに気づかないとは魔術とは斯くも恐ろしいものだろうか。
「こういうことか」
「やはり魔術師の仕業だったということか」
「結構高度な術式だよ、これ」
ミニットがそう語るが、自分にはよくわからない。だがバニスも頷いているのでそうなのだろう。
「この先にも罠がある可能性がある、気をつけよう」
「それはどうだろう」
ミニットが呟いた。どういうことか問うと、顎に指を添えて考えながら話す。
「魔術師ってあんまりそういうところに気が回らない人多いし、なによりこの人避けがあれば普通は十分だし」
「そうだな、そんなことをする暇があったら研究したいものな」
同意しているバニス、研究職とは往々にしてこういうものなのだろうか。
「こういったものは定期的に張り直さないといけないから、それも結構手間」
「そうなんだ」
そうは言うが気をつけて悪いこともないだろう、先頭に立って先へと進む。
そこにはやや開けた、大人でも数人は暮らせるであろう一室があった。人工的に掘り起こしたようで、四方や天井に補強の木材がある。
端には簡易的だが木製の机があり、見覚えのある魔術用の器具もあった。壁際には背負子もある。ある程度長期間居たようで、かなり生活感のある状態だ。
しかしなにより目を引くのは、三人共が釘付けになっていたのはいつかの日か見た「肉塊」だった。




