目覚めてまずは……
「……、…………?」
目を開けると空が見えた、朝と違ってきれいに晴れたそれはとても青々としている。
どうしてこんな状況に? 頭がズキズキと痛む、なにがあった……。
すると覗き込んでくる顔、これには見覚えがある。
「……ミニット? バニスも」
「……クロムが目を覚ましたよ」
「本当か、おい生きてるのか」
二人とも心配そうに、そして不可解そうにこちらを見ている。なぜだ? ……そうだ、戦っていたはず、なにと? 蛇?
「あいつは!」
体を勢いよく起き上がらせて周囲を見る。しかしあの怪物はどこにもいない、夢かとも思ったが破壊された家屋が現実だと言ってくる。
「あいつは? どこにいった」
「落ち着け、まずは無事なのか」
「死んだと思った」
そう言われるとだんだんと全身の痛みが蘇ってくる、気づき始める。特に右腕の痛みが凄まじい。頭の痛みはこれが原因だろう、見ると二の腕が倍くらいに腫れ上がっている。だが当て木をして布で固定してあった。
「介抱してくれたのか……」
「息はしていたからな」
「感謝していいよ」
ミニットが誇らしげにしているが、おそらく手当してくれたのはバニスだろう、なんとなくそんな気がする。
「バニスありがとう」
「なんで私には――」
「感謝なんかいらない、お前がいなければ全員死んでいたからな」
そう言われて改めて現状を確認する、村人たちの遺体は一箇所に集められているようだ、その前で何人もが膝をついて嗚咽している。
それを見て涙がこみ上げてくるが、二人が肩に手をおいた。
「……そんな顔をするな」
「クロムはみんなを救った」
「……うん」
二人の優しさに喜びながら、あれの行方を尋ねる。するとなぜか二人ともが口ごもる。
「逃げたのか?」
「いや、奴は死んだ……はずだ」
「というか「溶けた」」
「……は?」
なにを言っているのかわからないが、それは向こうも同じなようだった。そして二人はこちらに手を貸して体を起こすのを手伝ってくれた。
肩を借りながらゆっくりと歩くと、ある地点で止められ地面を指差される。
そこにあったのは「蛇の死体」だった。だが明らかにおかしい。その蛇はおおよそ一メートルの、それでも大蛇ではあるがあの化け物とは間違っても似通わないものだ。
だのに二人はそれをじっと見つめ、そしてこちらを見る。まるでこれが、「あれ」のものだと言わんばかりに。
「……説明してくれるか」
「無理」
「俺たちにもさっぱりなんだ、お前が気絶した直後にあれも死んだんだ」
どうやら役目は無事に果たせていたらしい、そのことにまず安堵する。
「それがどうして?」
「あれが死んだ後、死体がどんどん溶け始めたんだ。まるで春先の雪のように」
「……水に溶けた塩みたいに」
ミニットの例えはいまいちピンとこないが、とにかく跡形もなく溶けたのだという。
「それでも痕跡一つないというのは……」
「ああ、どう考えてもおかしい」
「そもそもあれ自体がおかしいけどね」
それは間違いない、あんな生き物が居て良いはずがない。そして溢れていたあの黒い体液すらも見つからないのだという。
「二人ともああいった生物に心当たり、文献や伝聞でもなにかないのか?」
「いいや、聞いたことがない」
「劇場でそんな話もあるけど、今回のとは全く違う」
まあそうだろう、こんなことが何度もあればとうに国ごと無くなっていてもおかしくない。
「しかしお前のその、魔術なのか? 凄まじいな……」
「ねえねえねえ、「それ」のこと聞いてもいいの?」
「ちょっ、えっ」
急にミニットが勢いづいた、ずっと聞きたかったのだろう。それにしても圧が強い。顔がくっつきそうなほど近づいて聞き出そうとしてくる。
「えーと……、悪いけど多くは話せない」
「えーーーーー」
「まあそうだろうな、だが本当にすごい。見くびっていたよ、済まなかった」
そう言ってくれるバニスはとても出来た人間だ、横のミニットは不満げを隠そうともしていないがそれでも気遣ってはくれているようだ。
「けどちょっと無茶しすぎたな、まだ一人で立ってられないや」
「うん、そろそろ重い」
「……お前は少しも支えてないだろう」
バニスがそう言うとミニットがサッと身を離した、やはりと言うべきかバニスだけで十分だったようだ。だが申し訳ないのでそれも離してもらって小岩に座り込む。
「いやあ、きつかった……」
「生きているだけで十分だろう、それどころかあれを倒すだなんて……」
「クロムってもしかして凄い?」
「へへ、見直してくれたか」
うんうんと頷いて見せるミニットが小動物のようで可愛らしい。それでいてあの蛇にすら通用する武器を作るのだから人間見た目ではわからないものだ。
「でも、あの弓矢がなかったらどうしようもなかったよ」
「……まさかあれで殺せない生き物がいるなんて、精進」
「あれ以上の威力が必要な事態がまた起こるとは思えないが……」
ドン引きしているバニスの横でミニットは不敵に笑っている。彼女を放っておいたらそのうち世界の脅威となるのではないだろうか……。
「ぼちぼち休憩したら出発しようか」
「……え?」
「どこに、ってまさか……」
「そりゃ当然」
おそらくあの蛇が現れた場所、あの洞窟を調べないことにはこの一件を終わらせることなど出来ないだろう。




