変わり者
「いやあ、天気にも恵まれてよかったよ。ねえ?」
「そうだな」
「うん」
「……まだまだ村は遠いけど足とか痛くない? 野営したくなったらすぐ言ってよ」
「そうだな」
「うん」
「……」
なんだこいつら。
出会ったばかりで打ち解けていないのだからそれも仕方ないのかもしれない、そうかもしれないが旅立って数時間、ろくな会話もなく黙々と歩くのも飽いてきた。
バニスもミニットも、普段からこうなのかもわからないがなかなかに手強い。他に彼女らが興味を持ちそうな話題を投げかけても見たが、一つとして響いてくれなかった。
「……そういえば、自衛もできるとは言ってたけど得物は?」
「短剣だ」
「訓練とかはしてるの」
「昔に父に教えてもらった、それきりで特に鍛錬とかはしていない」
なるほど、だがそれで身を守れるというのは言い過ぎではないだろうか。短剣とは言うが刃渡りは普通の剣とそう変わらない。刀身がやや細身で頼りないが人間を相手取るには十分であろう。ただ獣や魔獣ともなると一気に話が変わる。
「ちなみに実際に戦闘は?」
「ない。剣はあくまで最終手段で、基本的にはすぐに逃げている」
それは素晴らしい。その判断ができるのであれば彼は長生きできるだろう。とはいえ自分から森に出入りするのであればそれぐらいでないと、とうに獣の餌となっていたことだろう。
「逃走手段は魔術を使って?」
「そうだ」
「それは――」
「おい」
バニスが話を遮って睨んでくる。
「これは重要な研究の旅であって、遊びじゃないんだ。お気楽に散歩がしたいならどっか行ってくれ」
「……はあ」
彼の言うことはわかるのだが、現在は特になにをしているでもないじゃないか。しかし頭の中では様々な思案をしているのだろうから、諦めて自分も静かに歩くとしよう。
などと思っていると、ミニットがいない。驚いてあたりを見回すと後ろに離れてミニットが佇んでいた。バニスに断りを入れて駆け寄る。
「なにしてるの」
「……」
黙ったままの彼女は通りの先ではなくその横に広がる草原を見ていた。自分には何の変哲もない、秋口の枯れ始めの草花しか目に入らない。
気になるといえば彼女の荷物である。バニスのものは背負える程度の最低限の旅荷の他に、研究用の機材を袋に詰めて手に下げている。
それに比べるとミニットは自分用に馬を連れており、それに荷物を牽かせている。その殆どが魔術実験用だというのだから驚きだ。
聞くところによるとミニットの研究内容は「超実践的」魔術だという。それは彼女の意図はともかくとして、結果として大規模な破壊現象などを巻き起こすものが多いのだとか。
調べた中だと投石機や破城槌などの改良にも携わっており、なるほど実践的と言われるだけあるといったところだ。
ただ気になるのは、そうして作られた機材などが今現在は使われていないという点だ。つまりなにがしかの問題点があったということだが、それが何なのかまではわからなかった。
ミニットは馬を止めて麻袋の中を探している。そしてこちらと目が合うと手招きしてきた。そうして彼女が手渡してきたのは弓矢だった。
「これは?」
「……これであれを射って」
彼女が指さしたのは草原にある木に止まっている鳥だった。彼女の弓矢は弓に関しては変哲のない木製のものだが、矢じりになにか仕込まれているようだった。
「弓に自信は?」
「うーん、普段あまり使わないけど、あのぐらいの距離だったら大丈夫、かな」
「ならよろしく」
彼女は小柄で大人しそうな表情だが、今この瞬間は妙な圧力がある。
そうして弓を構え、矢を添える。ああは言ったが弓なぞほとんど使っていない、森にいた時は度々用いたが近頃はめっきりだ。それなのに得意げに答えた理由。当然相棒である。視力を強化、手足も少し強化してブレを最小限に抑える。残りはすべて相棒が「いい感じ」にやってくれる。これで森にいた時は一度とて外したことがない。鳥はおよそ一五〇メートル先、少し上向きに構え呼吸を整えて引き絞った弓から矢が放たれた。
「おおー」
ミニットが拍手をしてくれる。寸分違わず矢は鳥に命中、したのだがミニットとは違って俺は目を見開いた。命中した鳥が爆発四散した。どう考えてもあの矢のせいである。
「うんうん、悪くない」
「悪くない、のか……」
鳥を捕らえるにはあまりに過剰、そしてもし人間に命中したとしたら……、考えるだけでも身震いしてしまう。
「けど破裂の方向に偏りがあるね、これは調合の段階で……? それとも内臓の配置を考慮して……」
ぶつぶつとひとり言を話すミニットに空恐ろしいものを感じた。彼女の異名、その理由に納得がいった。「人間兵器」。小さい身なりから想像もできないほどに物騒なあだ名は今思うとひどくしっくり来てしまう。
「おい、いつまでやってる」
「ごめん、今行く」
そう言ってミニットにも動くよう促すが、まだ考え中のようだ。
「ねえ、早く……」
「へへへ、次こそ跡形もなく木端微塵にしてやるからな……。鳥風情が肉片「なんぞ」になりやがって……」
一人で笑いながら話すミニットを引きずるように移動を再開した。バニスはと言うと平然としているあたりいつものことのようだ。
怖ぁ……。




