魔術仲間
魔術の才能を確認されてからまた少しの時間が流れた。そして今日もまた休日である。最近知ったことだが、魔術というのはすでに技法として確立されたものがあり、一部の戦士は戦闘や野営にも活用しているようだ。
いわく戦士という生き物は独自の世界観を作っているものが多く、それが魔術と非常に相性が悪いらしい。そのためごくごく一部のものということになるのだが、その一人が我らがロンペルド女史である。
実際にどういう技を使うのか、直接聞いてみたがはぐらかされてしまった。やはり秘匿すべきものなようでそう簡単には教えられないと言われた。とはいえ以前に剣を交えたときの妙な技の秘密を知ることができた。
この休日には珍しいことにすでに予定が組まれている。この間に知り合った魔術師の友人であるアギアとリィンのそのまた友人を紹介してくれるとのことだ。彼らによると少々変わり者らしいが、魔術師というものがその傾向にあるというのだからそれも当然のことかもしれない。
各々の事情による部分も大きいが、彼らのように若い時分から魔術の研究をしているものは少ないという。経済的な理由が大きいが、それと同時に前提として高度な知識が求められるので志すにもまずは数多くの勉強が必要となるようだ。
つまり彼らは相当の「エリート」ということだ。それらが四人集まり、時にその智慧を共有したりすることで刺激を与えあっているとのこと。
彼らよりも年齢の高い人間が多い魔術師社会ではやや「浮き気味」の彼らはそうでもしないとなにをするにも面倒がつきまとうらしい。
というのが別れる前に聞いたアギアの説明、もとい言い訳である。
リィンが言うにもただの友人関係ではなく、しっかりとした相互利益があるがゆえの付き合いだという。つまりそこに混ざるからにはこちらからもなにか、彼らの為になるような知恵や行いが求められる。
そもそもまだ魔術の道を進むことも決めきっていないのでそこからである。だが彼らの持つ知識や見識などは間違いなく有益なのでどうにかして役に立つことを証明しなくてはなるまい。
そうこうしているうちに目当ての建物が見えてきた。この間の図書館ではなく、彼らがよく集まるという家だった。仲間内の一人がそこそこ良いとこの生まれらしく、こうした便利に使える場所をいくつか持っているようだ。
中に入るとすでに待っていたらしいが、怒声とも取れるような厳しい口調の声が響いていた。
「だから必要なのは闇雲な実験じゃなくて確かな知見だろ!」
片側はアギアのようだ。
「それを否定しているわけではない、だが試行回数が導き出す結果を比較することで得られる情報も多いといったんだ」
「その為になら村一つ危険にさらしても構わないと?」
なにやら物騒な話が聞こえたところで彼らの前に姿を表した。討論がヒートアップしているのであれば申し訳ないが、入り口で突っ立っているのも暇なのだ。
「どもー」
「……誰だ! ってお前か」
「ん、ということは彼が?」
「やっほークロムン」
いつの間にかリィンに妙なあだ名をつけられたようだ。アギアと話していたのは線の細い印象の長髪の青年だった。確か名前は……。
「君がバービアくん?」
「……バニスで構わない、あとさんづけもいらない」
「じゃあバニスと、そっちの彼女が」
「ミニット・プリム好きなように呼んでいいよー」
ミニットは少し珍しい黒髪でボブヘアーのかわいらしい少女だ。青いローブのフードを浅めに被り、長机を挟んで左右に向き合う形で座っている。ミニットはその中で一番背の低いようで、椅子の上で足を抱きかかえるようにして小さくなっている。
「プリムン?」
「……ミニットって呼んで」
リィンにならって呼んでみたが不評だったようだ。
「それでなんの話を?」
「それよりも彼をなぜここに?」
もっともな疑問を投げかけたのはバニスだった。くるくるの癖っ毛をいじりながらそう話す。
「うーん、面白そうだから?」
リィンがそう言うとバニスが怪訝そうな顔をする。
「ここが単なる寄り合いでないと言っているのは君では」
「そうだけどー、でもクロムンはほんとに面白いんだって」
「……」
ミニットは話に混ざらず一人で沈思黙考している。
「その面白さがどう我々の役に立つ」
「えー。……どう?」
こっちに話を振る。急に言われてもこれと言って思い浮かばないが……。
「ちょっとは腕が立つよ」
「ちょっと?」
「……そこそこ?」
言い直してみるがやはり反応が良くない。自信を持って言えれば良いのだが、わかりやすい比較対象がないのでいまいち自分の実力というのを把握しかねている。
「君たちは魔術師で、戦闘は不得意だろう?」
「実地調査は研究の基本だ、最低限の護身はできる」
「そう言いながらこの間ボロボロで帰ってきたよね」
リィンが言うと文句言いたげに、言葉の代わりに髪をいじる速度が上がった。
「必要な調査だったんだ」
「だからといって仲間も連れずに森の中に入らないでしょ、普通」
「言うだけ無駄だろリィン、今に始まったことじゃない」
バニスは華奢な見た目とは違って行動派らしい。
「だからといって彼が魔獣を撃退できるとも思えないが」
「あれ、知らないの? 彼その専門家だよ」
その説明は不正確である。
「いやそこまでじゃ……」
「でかいアジーダを倒したんだろ?」
「ジパの群れを全滅させたって聞いたけど」
真偽入り交じる情報をどこから訂正しようかと思っているとその前にバニスが話し出す。
「アジーダ、ジパ……」
「いやいや別に一人で倒したわけじゃなくてね……?」
「なるほど、これは使えるかもしれない」
話を聞いていないバニス、偏見かも知れないが考え出すと周りの声が聞こえなくなるのはいかにも研究者といった風だ。
「おいまさかバニス」
「実力を喧伝したのは彼だろう」
なにかアギアとの間では通じ合っているようだがこちらにはまだなにも教えてくれない。どうやら荒事か、なにか危険な臭いがするが。バニスがこちらに向いて話し出す。
「少し遠くの村にある伝承があってな」
「それは?」
「長く生きた蛇の魔獣の話だ」
なるほど魔獣。
「危険なの?」
「それも不明だ、そもそも本当にいるのかすらわからない」
「村に行ったことは」
「ない……が、村が未だに健在ということは単なる作り話の可能性が高い」
それがどう魔術の研究に役に立つのだろうか。
「あくまで目的はその「巣」だ」
「巣になにが?」
「なにがあるかは知らんが、とにかく巣がある場所は地理的に「魔力溜まり」になっている可能性が高い」
「魔力溜まりとは」
面倒そうな顔をしたバニスだが、軽い説明をしてくれる。
「要するに霊脈の一種だ。ものすごく単純に言うと、そこで魔術を行使するとより大きな影響が発露される。それがあの村の裏にある山中にあるという調べがついた」
「眉唾だがな」
アギアが口をはさむがバニスは一切無視している。
「魔獣がいるかはともかく村のものも一切立ち入らないというのだから危険な場所というのは真実なのだろう」
「だから僕が必要だと」
「……本当に役に立つのならな」
そう値踏みするようにこちらを見る。どう返事したものか考えるが、とにかく彼の調査には興味が湧いた。その霊脈というのも気になる。
「証明しようか?」
「……不要だ、使えるというのならそれでいい。そもそも俺一人で行く予定だったんだ」
「なるほどね」
そういったことでバニスと共に霊脈の実地調査を行う手筈となった。
「……私も行く」
そう発言したのはミニットだった。
「君が? 珍しいな」
「……あの霊脈は前から気になってた。でも危ないからやめてたけど、護衛があるなら話は別」
二人を護るというのは大役、というよりかなり難易度が高いのだが二人はそれ以上の人員を連れて生きたがらない。研究内容が漏れるのを嫌うのもそうだが、それよりも人嫌いのほうが理由として大きそうだ。
「じゃあこっちも準備あるからそれからでも?」
「構わないが、できるだけ早く頼む。冬になると山に入れなくなる」
「寒いの嫌ー」
冬の山の危険さは承知しているつもりだ、ロンペルドに相談して日取りを調整しなければ。
「なんでもいいけど気をつけてね~」
「……怪我すんじゃねえぞ」
居残り組の二人に気を遣われながら、準備を始めるためさっそく街へ繰り出すこととした。
それからほどなく、お互いの準備が完了したのを確認し、三人で調査の旅へと出発した。




