魔術の素質
自らを魔術師と名乗る少年は赤い癖っ毛が特徴で、生意気そうな顔でこちらを値踏みするように見つめている。
「自分から魔術師を名乗るんだね」
「はは、勘違いしてるかもしれないが魔術師ってのは誰も隠してなんかないぜ」
「そうなんだ」
「ああ。だからってわざわざ宣伝したり、得意げに見せびらかしたりしないだろ? つまりそういうことさ」
確かに研究職であれば一般の市民にそれを披露することもなければ、向こうからは魔術師というのがどういった存在なのかわからないのも道理である。
「けどなんで僕には教えてくれたの?」
「気になったからだよ、魔術師でもないやつがなんで魔術について調べているのか」
「……どうして僕が魔術師でないと」
魔術師だと人目でわかる特徴などがあるのか、それともそれら同士だけの合図などがあるのか。
「その様子じゃわかってなさそうだな。あんた有名人だぜ」
「えっまじ?」
「まじまじ、そこらのオバサマたちがしきりに話してるよ。ずいぶん好き放題やってるらしいな」
隠してもいないし話題になっているのも把握してはいたが、思っているよりも広まるのが早いのかもしれない。
アギアと名乗る少年はけれどもあまり好意的な表情ではない。
「まあ何も知らない奴らはお前みたいな、「わかりやすい」形でしか有り難みを感じられないもんな」
「……嫉妬?」
そう呟くと目を大きく開いた。
「ち、違えよ! そんなわけねえだろ、馬鹿じゃねえのか!」
図星にしてもこれだけ素直な反応をすると急にかわいらしく思えてきてしまう。そんなことを思っていると横から視線を感じた、目をやるとこのあたりであまり見ない赤みを帯びた肌の女性が立っていた。自分の知識によるとあれはおそらく「フィニク人」だ。
「どうしました?」
「いえ、なんだか楽しそうだから」
「あ、リィン! なに見てんだよ、あっちいけって」
「あはは、あたしがどこにいたって勝手でしょ?」
二人とも自分とそう変わらない年頃に見えるが、リィンと呼ばれたオレンジ色の長髪の女性は蠱惑的な笑みを浮かべてアギアをからかっている。その様子には少なくない人生経験を感じさせた。普段からああやって男子を誑かしているのかもしれない。
「でもほんとに珍しいね、それとも話題の騎士くんは魔術の素養がお有りで?」
そういえばなぜレゼラルド「騎士団」なのかと前にロンペルドに聞いたことがある。馬にも乗っていないのになぜ騎士なのか、それは設立当時のメンバーが皆「馬を持っているような身分」だったことからつけられたそうで、設立当初から今と変わらぬ扱いだったようだ。
なのでそれを知っているものが我々を「騎士」と呼ぶ時は概ね侮蔑の意味合いが込められているのだが、彼女がそれを知っているのかは不明である。
「どうだろう、素養があるなしってのは人から見てわかるものなの?」
「わかる……といえばそうでしょうね。ただ簡単な方法じゃないから誰でも知れるわけじゃないの」
「魔術師の才能を持つのは千人に一人、基本的にやるだけ無駄なのさ」
そうやってこちら、あるいは無才の者を煽るような口ぶりのアギア。それをリィンがたしなめる。
「興味があるなら紹介してもいいけれど」
「おいリィン、よせよ。あの人も暇じゃないんだ、無駄なことで時間を取らせるなよ」
どうやら特定の人物でないとその作業はできないらしい。興味が無いといえば嘘になるが、だからといって今後魔術の研究をするかといえば……。
「あら、無駄かどうかまだわからないじゃない。それとも賭けてみる?」
「……くだらねえ挑発には乗らねえぞ」
自分を置いておいて勝手に盛り上がっている二人、そろそろ声をかけるべきかと思っていると誰かが来た。
「貴方たち、ここではあまり騒がないように」
「あ」
「ゼビアさん」
現れたのはやや年のいった背の高い女性だ。背筋の伸びた良い姿勢に知性を感じさせる鋭い目つき。それに見つめられた途端にあの二人が緊張しだし、アギアはベンチから立ち上がった。
「討論であれば中庭でお願いしますね」
「討論というよりも……」
「世間話ですよ、この有名人さんについて」
こちらを指差すアギア、やめろ原因みたいにしようとするな。
「有名人……はて、寡聞にして存じ上げませんが。こちらの者が失礼したのでなければよいのですが」
そう言って二人を見るゼビア。
「いえいえ、失礼だなどと。魔術というものについて興味がありましたので知恵をお借りしていただけです」
魔術という単語を聞いた時にゼビアの眉がピクリと動いた。
「魔術に興味がお有りで?」
「ええ、ただそれには生まれ持った才能が必要だとかで。そのことについて話していたのです」
「そうですか、そうですか……。ふむ」
なにか考え出したゼビア、これはもしかすると。
「いいでしょう、本日は予定もありませんし。貴方さえ良ければ「開門の儀」を行っても構いませんよ」
「先生!」
アギアが驚いた様子で声を荒らげた。
「ジーバさん、お静かに」
「ですが儀式はそう安々とできるものじゃないでしょう」
「当然です、ですが私もこの方にはなにか不思議な感覚を覚えたので」
「先生さすが~」
リィンがそう嬉しそうな声を出したのをアギアがじっと睨んだ。
「どうです?」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいましょう」
アギアに睨まれながら、開門の儀と呼ばれる儀式を行うために移動することとした。




