魔術師探し
騎士団に入りその職務にも多少は慣れてきた。当初は言われたとおりに、決められた区域を巡回していたのだが、やはりというか我々は「いてもいなくても良い」扱いであった。
他の兵たちと話しても、向こうに悪気はなくとも特にこちらに任せるような仕事は与えられなかった。なので端の方でなんとはなしにぶらぶらと歩いてばかり。
たまに酔っ払いなどが立ち寄るのを諌めたりもしたが、やはりどうにも暇を持て余していた。しかしながら他の地域を通りがかると今度は別で、兵士が足りていないようなケースも見受けられた。
多少の後ろめたさはあったが捨て置けないので協力し、盗人を追いかけ老婆の道案内をする、はてには迷い猫の捜索なども行った。
ここまでくると周りの兵士たちとも協力し、共に街を守っているというやりがいを感じていた。なので本来の守備範囲をそこそこに巡回兵の少ない地域を好んで動き回っていた。
当たり前だが明らかな職務怠慢かつ任務放棄であり今後処罰されかねないとも思いながら、それでも目の前の困っている人を見過ごせないでいた。
などと迷いもありながら仕事をしていると後ろから、我がロンペルド団長が追ってきているのに気づいた。彼女もいよいよ痺れを切らしたのだと思いながらもジャネムたちに渡したいものがあったのでそちらを優先していく。
するとその後、こちらに追いついた彼女と話すと最終的には今やっているような行為を容認するどころか積極的に支援してくれるとまで言ってくれたのだ。
これには大変感謝し、好意を有り難く受け取っては、さらに広い地域に顔を出しては人々の助けとなるべく動き続けた。
やはりこうして体を動かして人の助けになるというのはとても気分がよく、また心が満たされる思いだった。今後もこういうことだけを続けられれば良いのだが、そうもいかないのもわかってはいる。
だが今はまだそのことは考えないでできることをするだけだ。ロンペルドにもそう言ったのだから自分も行動で示すとする。
今日は非番である。こういう日はやはりアーケリア市内を見て回る絶好の機会だ。団に入ったことでまだ市民権は得られないが、アーケリア内に滞在することが公に認められることとなった。それに加えて外周部にある建物を寝泊まりするために使用しても良い許可が降りた。
つまり家を手に入れたのだ。本当に寝て起きるだけの簡素な部屋で、使用人もいなければ奴隷などいるわけもないし雇うつもりもない。気まぐれに料理などもするが基本は寝泊まりするだけの場所である。
ジャネムたちに使ってもいいと言ってはあるが、誰の目に留まるとも限らないので緊急時にしか来ないだろう。
だから家にいてもすることなどないし、折角の自由な時間なのだからこの国を知るのに時間を割く方が建設的である。
この間は劇場に行ってみたが、アーケリアに伝わる英雄譚を語られていた。大変盛況であったのだが、残念ながら知りもしない人間について、それも舞台での誇張された物語では勉強としては不適格であった。有名な話らしいので雑学としては今後役に立つだろうが、流石に竜退治の物語に胸踊らせるほど無垢ではない。
今日の目的ずばり魔術。そうついに気になっていた魔術というものについて学ぶ決心をしたのだ。
けれど魔術師というのがいつもどこで、なにをしているのかは人に聞いてもあまりわからなかった。どうにも魔術について知るものだけが、どこかに集まりなにがしかの研究をしているという。
要するになにもわからなかった。
ただこの街にある図書館はアーケリアの叡智を集めた場所であり、大きな建物の中庭などでは日夜有識者同士が舌戦を繰り広げているのだとか。なのでまずはそこに行き、それからまた魔術について調べることとした。
「魔術ですか? あぁ、あそこの書物に詳しく書いてありますよ」
図書館は石造りの堅牢な建物で、五百人も収容できる劇場がすっぽりと入るような大きさだ。そこに入った後、出会った人の良さそうな白髭の男性に魔術について尋ねた。するとあまりにあっさりとそう答えられた。
「あ、ありがとうございます」
にこにこと微笑む男性に見送られ言われた巻物を探し出す。木製の棚には丸められた書物がこれでもかと詰め込まれている。見つけたそれを開けば、いわゆるパピルスのような材質でそれを丁寧に扱いながら立ったまま読み込む。
いまだに文字に関してはすべてを学びきっておらず、特にこういった専門知識が必要とされるものについては読むだけでも時間を要する。
だが少し読むとこれがそういった「専門書」の類でないと気がついた。挿絵の特徴と書かれた文字、そこから推察するにこれは「絵本」に類するものであると判断した。
自分の知る子供向けのそれとは趣を異にするが、さりとて魔術に関して詳しく書かれているのではなく、そういったものが題材とされるおとぎ話であった。あの男性に一杯食わされたのかとも考えたが、あの笑顔を思うにおそらくこちらの見た目からこれが相応しいと善意から勧めたのだろう。少なくとも悪意は感じなかったので馬鹿にしたりだとかそういう意図はないものと思える。
とはいえこれでは魔術というものに関して調べることは出来ないので、次はどうしたものかと考え込んでいると、どこからかクスクスと含むような笑い声がした。
振り返るとベンチに座っている赤髪の少年がこちらを見てニヤニヤとしている。何事かと思い話しかける。
「なにかおかしいことでも?」
「ああ、面白かったよ。あんな馬鹿正直に魔術について聞くやつは初めて見たよ」
あまり知らないがこの国で魔術は特段タブー視されてはいないと思うのだが。
「確かに国王も禁じていないが、それでも例外ってのはあるんだ。特にああいう年いった爺さんなんかは魔術って聞くだけで顔を真っ赤にする奴もいるほどさ」
「過去になにかあったの?」
「昔に戦争で、今のリュグレムシアになる前の国と争った時にそれはそれは痛い目を見たらしいぜ」
なるほどな、そういった歴史というのはまだまだ知らないのだから反魔術師のような存在も知らないわけだ。
「そう言うからには君は魔術を嫌ってはいないんだよね」
「そりゃそうさ、なにせ俺がそうなんだから」
「え?」
「俺が、このアギア・ジーバがアーケリアに名を轟かす……、予定の大魔術師……、候補さ」
自信があるのかないのか、歯切れの悪い自己紹介をした少年はどうやら探していた魔術師らしい。




