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縦横無尽

 まずは本来なら彼がいるはずの場所へと向かうロズラーサ。しかしその道中にすれ違った兵士から話を聞けば(興奮した様子だったので聞き終えるのに時間を要した)すでにクロムは持ち場を離れて正門付近にいるとのこと。

 であるならばそこへと進路を変えて歩く、その途中にまた別の兵士と出会ったので尋ねると(過剰に恐縮するので話し終えるのに時間がかかった)クロムは正門から離れ東の商店が多くある地域にいるという。

 なにやら葡萄を詰んだ馬車が転倒したことで一面が葡萄の汁で溢れてしまいその始末に手を貸していたという。

 なのでまた進路を変更し東へと歩き出す。だが話に聞いた商店の前まで来たがすでに問題は解決済みであり、彼はまた違うところに向かったという。

 葡萄をばらまいてしまった商人の男性から直接話を聞いたが、とてもクロムに感謝している様子で、その上官であるということがわかるとロズラーサにも地に伏せる勢いで頭を垂れた。

 大樽三つ分にもなる葡萄を失ったらしいが、その補填や損失について彼が仕入先の人間との橋渡しを請け負ったのだとか。その商人いわく、クロムはアーケリアのあらゆる人間と交友関係をもっておりその多くが彼に個人的な「貸し」があるという。


 アーケリアに来てからひと月で一度離れ、また戻ってきてさらにひと月。クロムはアーケリアにふた月しかいないというのだが、ロズラーサが驚嘆するほどに多くの繋がりを築いていた。

 ただその「貸し」をつくったというのがおそらくは最近の勤務状況に所以していることであり、私的な事情で動き回っているのだとしたら注意すべきことである。

 しかし今はこの商人の為ということが明白であり、ロズラーサも追求すべきことではないと考えた。


 クロムはその後、すぐに件の葡萄について動き出したらしい。とある貴族が宴を行うために買い付けた、葡萄酒用のものだったようでそれが提供できないとなると、その怒りのほどが知れぬと商人の男は恐れていた。

 その貴族というのが気性が荒いことで有名で、またかなりの酒好きで知られているという。ロズラーサもその名には聞き覚えがあり、昔に会ったこともある。その頃から酒好きというのは知っていたが、彼女の前では温厚な人物として記憶されていた。

 だからこの商人が言うことをにわかには信じられなかったロズラーサだが、とにかく彼の住居に向かったというクロムを追いかけて再び歩き出した。


 程なくしてその貴族の邸宅が見えてきたが、その周りに人だかりができていた。何事かと駆け寄ったロズラーサが目にしたのは、人目も憚らず号泣する男性の姿だった。

 それは目的の邸宅の主人であり、つまりクロムが伺った人間である。それは地面に座り込みながら妻であろう女性にしがみつき、わんわんと大粒の涙をこぼしていた。

 当人に聞き出すわけにもいかないので見物人に伺うとやはり原因はクロムにあった。彼は少し前に彼の家を訪れて葡萄のことについて話を行ったという。

 当然だがあの男性は強い嫌悪感と怒りをあらわにし、実際に何をしたわけでもないクロムに対しても厳しい言葉で糾弾した。最初はクロムも言われるがまま、彼をなだめようとしていたのだがいよいよ彼が激昂しだすと一変、打って変わってクロムの側から彼を強く非難しだしたのだという。


 なんでも近年、彼の酒癖は年々悪化しており会談の場であってもほろ酔いで現れるほどであるとか。また家の中でも酔っては奴隷や妾などにも強く当たることが増えた。

 どうしてそれを知り得たのかは不明だが、クロムはその点について厳しく話し、ついには叱責しだしたらしい。やがて現れた妻や妾の女性たちが一斉となり彼の振る舞いについて、改善するよう訴えかけた。

 彼は自分のそういった行動に対して直接言われたことがなく、自分自身に悪びれることなどないと思っていた。だが実際に面と向かって伝えられたことでショックを受け、ついには彼女らに深く謝罪しながら泣き出したのだという。

 最後にはクロムに酒を控えるよう約束し、宴会の場にも酒を提供しないとまで誓ったのだとか。初めからクロムがそれを狙っていたかは不明だが、結果として無事に商人は彼に責任を問われることもなくなった。


 それはいいのだがやはりもうクロムは現場にいなく、今度はどこに向かったかと思うが人に聞いてもその答えは得られなかった。まだ日没には遠いが、三度も空振りが続けばロズラーサとてやる気を失うというもの。

 結局彼を見つけられずに肩を落とすロズラーサだが、人まずは誰かを助けて回っているということだけは把握できたのでそれで本日は良しとすることにし、駐屯地に帰ることとした。

 トボトボと歩いていたロズラーサだが、ふいに通りの向こうに見慣れた影を見つけた。クロムだ。

 あれだけ探しても見つけられなかったのが急に現れたことで動揺したロズラーサは、混乱のあまり彼から姿を隠すように道路脇に身を移した。

 彼もまだロズラーサに気づいている様子もなく、またまだ巡回中であるらしいこともわかった。なぜだかその手には大きな木箱があり、およそ任務中に必要なものだとは思えなかった。

 クロムはその後路地に入っていくのが見え、ロズラーサもそれを追うこととした。なぜか隠れてついて回ることに後ろめたさを覚えながら、ロズラーサはかつて一度も足を踏み入れたことがないアーケリアの貧民街へと進んでいく。

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