勧誘
「仰る意味がわかりかねます」
ロンペルドが言う通り、オーダンが自分を勧誘しているのにはこちらとしても異議が大有りだ。だがオーダンは不遜に笑う。
「そうは言うがよ、お前のところでこの才覚が埋もれるのは流石に許容できねえな」
「……ですが! 彼とはすでに約束をしておりますので」
「まだ入団してないんだろ? ならどうとでもなるじゃねえか」
こちらを置いてけぼりで勝手に奪い合わないでくれ、コレッサ君も戸惑ってばかりでどうにかしてくれ。そう目配せをしたが諦めたように首を振られた。
「そもそもこいつを入れてどうする気だ? まさか前線に出たいとでも、爺たちが許すかよ」
「それは、……ですが」
「……?」
「変わらねばならないのです!」
小声になったのをよく聞き取ろうと耳を傾けたオーダンに、ロンペルドの大声が轟いた。迫真の一声に耳を抑えながらオーダンが悶える。
「~~!」
「我々も、私もこの国に仕える一人の戦士です。ここで無為に時を、怠惰に費やすのが役目ではないのです」
「なるほどねぇ」
「あの、良いですか!」
小康状態となったのを感じすかさず口を挟む。ふたりとも今自分が現れたかのように目を丸くする。
「お話は結構ですが肝心の私の意見を聞いていただいても構いませんか」
「それもそうだな……」
「確かに……」
なんでそんなに意外そうなんだ、おかしくないか?
「ロンペルド様も言うように、私はあの方の誘いをもって今日まで魔獣討伐に赴いていたのです。それを反故にするわけにはいきません」
「とはいうが実務なんてあってないようなものだぞ、それよりも俺のところにいる方がその腕を活かせる」
「私には高貴な目標や野心などありませんので、お誘いは恐縮ですが断らせていただきます」
はっきりと言い渡すことでオーダンも参ったというふうだがまだ諦めてはいないようだ。
「こういう話をしたくはないんだが、……誰もいねえな?」
急に周りを気にし始めたオーダン。
「自分たちが来た時には誰もおりませんでした」
ロンペルドがそう言うと安心したようにうなずき、話し出すオーダン。
「正直今のアーケリアは一言で「よくねえ」。戦意もそうだが、なにより戦力が心もとない、弱くなっていると言っても良い」
「そんな、ですがオーダン様の軍は一騎当千の精鋭とお聞きしますが」
事情通らしいコレッサが驚いている。
「俺のとこはな、だがやはりリュグレムシアの奴らが最近妙に大人しい。その所為もあって実戦から離れている奴らが多い、このままだと最悪の事態になりかねない、俺はそう思っている」
「貴方ほどの方が言う言葉であれば国王陛下も無碍にはしないかと思いますが……」
大げさに手を振って見せるオーダン。
「無理無理、陛下はともかくその周りのオヤジたちが粗野な一兵卒の言うことなんて聞く耳持たねえよ」
「そう、なんですか」
「だから今は一人でも「まともな」人材が必要なんだ、わかっちゃくれねえか」
ずいぶんと退っ引きならない事情があるらしい。
「なればこそ、ではないですか?」
「あん?」
「であればこそ未だ健在なオーダン様のところではない「強い部隊」が必要なのではないですか」
そう言いながらロンペルドの方を見る。目が合った彼女がハッとした風に目を輝かす。
「なあるほどねぇ」
「彼の言う通りです、我々がその一つになってみせますとも」
「ロンペルド様……」
コレッサがなにか感慨深げに見ている、彼にしか知らぬ苦労があるのだろう。
「言うじゃねえか、花を踏んだだけで泣いてたくせによ」
「大昔の話です!」
こちらにも思い出があるようだ。
「そこまで言うなら預けてやってもいいか」
お前はいつ保護者になったんだ。
「ただ理解しておけよ、もうそんなに時間があると思わねえことだ」
「……承知しました」
そう言ってオーダンは去っていく。パァッと明るい笑みを浮かべてロンペルドが寄ってくる。彼女はこちらの両手をとって晴れやかに話す。
「ありがとう、君のお陰で私の憂いはまた一つ晴れた!」
「お力になれたようでなによりです……」
そんなに礼を言われることをした覚えがないので、あまり言われると逆に恐縮してしまう。
「今のオーダン殿との打ち合いも見たが、やはり更に腕に磨きがかかったようだ」
「それなりの苦労はしましたので」
「そうかそうか、私も噂は聞いたとも」
やっぱり結構広がってるんじゃないのか、その噂。コレッサが少し気まずそうに咳払いをする、それで我に返ったようにロンペルドが手を離す。
「話がまとまったようでしたらすぐに彼のことを、団に入ることを知らせましょう」
「そうだな、早いほうが良いな。今回は特に、要らぬ茶々が入る前に済ませてしまおう」
実績を積んだとは言うがやはり異例とも言えることとなるだろうから、多少の風説は覚悟しておいたほうが良いだろう。
「では改めて」
「うん」
彼女が背筋を正したのを見てこちらも合わせる。
「我がレゼラルド騎士団にようこそ、クロム殿」
「これからよろしくお願いいたします、この身をもってご恩をお返ししようと思います」
「うん、ありがとう!」
初めて彼女の屈託のない笑顔を見て、なるほど彼女が人気なわけだとその理由の一端を知った気がした。
こうして晴れて、かどうかはこれから次第だが無事に彼女が指揮する部隊へと入ることが叶った。これからはそちらの任務は当然として、その立場を生かしてより多くの知識を求めることができる。彼女には申し訳ないが内心ではそちらのほうが楽しみでもある。
……なのだがあの笑顔を見ればなかなかにそれ想いを無下にはできぬと、彼女の知ってか知らずかの人心掌握にしてやられてしまう。参ったね。




