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本物の「獣人」

「勇気あるアーケリアの勇士たちよ、よくぞ集まった!」


 到着した場所にはすでに複数の部隊が構えており、大規模な基地を設営して作戦行動を開始していた。遅れて付く形になった我々だが、その所為なのかは不明だがろくに挨拶もなく基地の端で待機するよう言われた。

 他の部隊の人間も遠巻きにヒソヒソこちらを見て話しているのですでに彼らも我々がどういう隊なのか知れ渡っているようだ。非常に居心地が悪いのだが、この部隊に所属する以上命令は絶対である。

 することもなくダラダラと待っていると、遠くで檄を飛ばしていた将校がこちらに来た。それは真っ直ぐジネットのもとに歩いて行くが、妙に刺々しい気配をまとっている。


「相変わらず下品な集まりだな、お前たちは」

「……わざわざ有り難い嫌味をくれに呼びつけなさったのか? ずいぶん暇なんだなアーケリアの士官殿は」


 いきなり剣呑な空気がぶつかり合う。ジネットとあの将校の間になにかあるのだろうか。


「それで誇り高きアーケリア正規軍ともあろうお方が我々に賜るご使命とはなんでございましょうか?」

「……ジネット、後は俺に任せてくれ」


 ジョックが見かねて間に入る。この二人を会話させても進まないと判断したのだろう、おそらく正しい行動だ。


「お前は……、こんな男にも忠臣がいるとはな。まあいい、要件を伝えよう」

「ケッ」


 ジネットが下がりながら唾を吐く。


「アジーダの群れが近くに出没した」

「アジーダが? 珍しいこともあるもんだ」


 それはいったいどんな魔獣なのだろうか。後でジョックに聞こう。


「そうだ、それゆえに街道を巡回していた兵が後を追ったのだ。奴らは百を超える群れで山の方から降りてきて、そのまま近くにあった村へと襲撃した」

「……そんな馬鹿な、アジーダは臆病で知られているはずだ」

「事実としてあれらは人々を襲い、そして今も村に残り殺戮を続けている。逃げ延びた村人いわく、いたずらに殺してその死体を嬲り続けているとのことだ」


 苦々しく吐き捨てる男、聞く限りかなり凶暴化しているようだ。それも数が多い、たしかに応援を呼ぶだけの事態と見える。


「現状は?」

「村を包囲しおびき出そうとしたが小賢しくも外に出てこようとしない。餌で釣っても効果はなかった。今は隊列を組んで少しずつ削っているが埒が明かん」

「村ごと燃やしちまえばいいんじゃねえのか?」


 ジネットがこちらを見ながら提案をする。将校は目を合わせようともせずに言葉を返す。


「できるだけ村に損害を与えずに奪還せよというのが上からのお達しだ」

「じゃあ獣人相手に乱戦をしろと? ずいぶんな無茶を言ってくれるもんだ」


 獣人とは? 以前に聞いた「ザガール」と同様のものだろうか、あれは人間の種族の一つだが口ぶりからは魔獣の類に聞こえる。


「……今の元老院の一人が、その村の出身だということだ」

「……そりゃまた人道的なことで」


 どうやら兵の命よりも大事な事情があるようだ、実にしょうもないことだが軍属の身では従う他無い。


「お前たちは村の東側から奴らを「追い立てろ」それを我々の部隊が処理する」

「ははは、獣人が待ち構えてる村に飛び込んで蹴散らせだと? そりゃあ素敵な作戦だ。俺らの命はくだらねえ「おべっか」より価値がねえらしい」

「黙れ」


 ジネットが不快さを隠そうともせずに話す。敵が潜みどこから襲われるかもわからない場所で作戦を行うとなると相応の被害は免れないだろう。だが向こうはそんなことお構いなしのようだ。


「お前たちにはもとより選択肢などはない、言われたとおりに作戦を実行しろ」

「……他に細かい指示はあるのか?」

「できる限り村人の命を優先しろ。……生き残りがまだいるのならばな」


 彼らが到着してからもすでに丸一日が経過しているようで、中の様子は依然として把握しきれていないようだ。アジーダというのがどれだけ残虐な行為をしているかわからないが、正直望みは薄いかもしれない。


「いいか、ごろつき同然の貴様らがこうして軍人の真似事をできているのも全て国王陛下のお慈悲によるものだ。くだらない質問や意義などする権利などお前たちには存在しない、さっさと行動を開始しろ」


 それだけ言い残すと男は去っていった。


「糞がよ」


 ジネットはえらく不機嫌そうだが、やる他無いのだろう。ジョックに聞きたかったことを尋ねる。


「それでアジーダって? 獣人ってのは「ザガール」とは違うの?」

「ザガールのは要するに「蔑称」だ、アジーダは本物の獣人だ。人より知能は劣るが高い身体能力や鋭い牙などを持っている。けれどアジーダは本来森の奥深くで潜み暮らす穏やかな種族のはずなんだが……」


 なにかわけがありそうだが、それはそうと人を襲うのだから捨て置く訳にはいかない。やる気を見せないジネットを励ましながら言われた村の東門に向かう。

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