嫌な感じ
この荒くれ者だらけのジネット隊に来てからすでに三ヶ月と少々。これがロンペルド殿が御わす騎士団に繋がるのかは甚だ疑問だが、方々を移動しながら多種多様な魔獣と戦う日々は刺激に事欠かない。
アーケリアの領地を出ることはないので景色自体にはあまり変化がないが、河川や村々を見て回るのも有意義である。まだ大きな街には行けていないのでいずれはそれも見に行きたいが、ここで働いているうちは叶うこともないだろうから先の話だ。
悪評蔓延る我らがジネット隊だが、概ね評判通りの振る舞いや生活をしている。酒癖悪く、口も悪ければ手も早い。気づけばすぐに殴り合いを始める彼らの中にも、話せば気のいい者も多くいるが、遠くから見てどう映るかと言われればよく言っても悪漢、あるいは賊。
一応はステップアップのために来ているわけだから、ここに染まるのも本意でない。放っておくとすぐに任務を放り投げようとするジネットにすきあらば逃げ出そうとする団員たち。
これらの尻を叩きその気にさせるのにはかなり骨を折った。普段偉ぶっているくせに少しぞんざいに扱われるとへそを曲げる繊細な男たちはなるべくしてこうなったのかと思わせてくれる。
ジネットもその能力は間違いなく一級品で普通はこんなところで燻っているような人間には思えないが、口ぶりからも昔に何かあったのだろう。こればかりは相当親しくもならなければ語ってくれないだろうしこちらとしても聞く気はない。
とはいえこの環境で腐らすのはあまりに惜しいので自分から、時にジョックや他の団員たちをけしかけてはご機嫌伺いと発奮を促していた。
その甲斐あってかはわからないがいくつもの任務に参加し、自分もその助けとなりながら魔獣を狩り続けている。
その際に一つ気づいたことがある。自分の内側、相棒に関することだ。普段は現れないが戦闘において、毒液や棘などに対処するにあたっては鎧を展開して望まなければならないのだが、そこで異常に気がついた。
今までは真っ白、金属のような光沢から白銀にも見える鎧に不可思議な「黒いライン」があるのだ。
武器にまとわせた時にもあったのだが、あれは過去に例がなかったので特有の現象だと思っていた。しかし鎧にも現出したとあっては気にせざるをえない。元の色は相棒と、それが取り込んだ成分に由来している。つまりいつかに取り込んだ「なにか」が黒いラインの原因となる。
「あれ」しかない、過去に村の近くにあった洞窟の中で見つけた奇妙な肉塊。あれの成分が我が白銀の鎧を黒く染めている。今のところ色だけの変化なので問題はないのだが、こういった異常には気をつけていないといつどんな事態に発展するかわからない。一応留意しておかねばならないだろう。
ちなみに相棒を展開するのはできるだけ団員にもバレないように気をつけている。今のところこれと似たような技術を見たことはないのだから戦略的にも、無意味に目立つこともないように衆目にさらされることのないように配慮している。
そうして日々を送っているのだが、今日もまた何処かに向かって移動中である。全員分の馬など無いので後は皆徒歩だ。そもそも馬の殆どは荷車を牽いているので乗るための馬は数えるほどしかいない。
その中の一頭に今日は跨っている。誰が乗っても良いのだが、ここの奴らは半分以上が四六時中ほろ酔いなので意外にあまり乗りたがらない。曰く揺れが「効く」らしい。
乗馬しても歩調を合わせる為に早駆けもしないので尻が痛くなるか足が疲れるかの差でしか無い。
ゆっくり移動しているのだが、どうにも今回はジネットの様子がおかしい。いつも気難しそうな顔をしているのは今日も同じなのだが、いつにもまして口数が少ない。
皆が薄々感づいているが、おそらく今回の任務はいつもより危険か面倒らしい。なんとか聞き出したいのだがその機会がなかなか訪れない。だが今はジネットは騎乗して先行しており周りから少し離れている。これはチャンスである。
そろそろと近づき、横につけてなんの気なしに話しかける。
「道中も安全そうでよかったね」
「……」
「ジョックもこれなら明日には目的地につけそうだってさ」
「……」
無視しているわけではない、たしかに聞いているし軽く頷いてもいる。だが何も話さない。
「……そんなにやばい話なの?」
「…………そうだ」
苦々しくそう吐き捨てた。それだけでは何もわからないのだが、これ以上聞いても無駄なようだ。諦めて離れようとすれば、ジネットがボソッと呟くのが聞こえた。
「お前も今のうちに覚悟を決めておけよ」
意味は分からないがそう脅された。何も情報はないが、とにかく難事が待っているらしい。気後れする中その思いとは反して足取りは順調に、翌日には無事到着することができた。
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