ジョックの追想
ジョックが拠点のテントの中で休憩しながら、目まぐるしい近況を思い返していた。
あの小僧のお陰もありジパを討伐し終えた後、俺とジネットはそのことを報告しに正規軍の駐屯所へと行った。そこで仔細を説明したのだが、当初はこちらが虚偽の報告を行っていると思われた。向こうもまさかジパを全て倒すなどとは考えてもいなかったようだ。
村に火を放ったことについては少々咎められたが、それが理由でジパを討伐できたと向こうは判断したようだった。
あの小僧、クロムという名の少年に関してはあまり多くは語らなかった。ジネットが事前に俺に口止めしていたこともあったが、逆に向こうの信用を失うことになりかねないので俺としても言うつもりはなかった。
それにジネットはあの小僧のことをいたく気に入っている、あるいは尊敬している。
俺たちの拠点に戻ってから、ジネットは再び酒浸りの姿に戻った。あの時に見せた覇気を見た時にはあの頼もしい男が帰ってきたと内心喜んだものだが、それも幻だったのかと思うほどである。
しかし酒の量こそ減らないものの、任務に対する熱意はかなり上がったようだ。今までにないほど明確な結果を残したことにより、軍はこちらにより多くの任を伝えてくるようになった。
今までであれば見向きもしないような些末な仕事にも精力的になり、面倒がる団員たちを引き連れてはあちこちを転々と移動し続けている。
態度には見せないがクロムにも、特にその腕前にはかなり信頼をおいているようで、最初の反応もどこえやら、よく話しては笑い声がどこからともなくよく聞こえてくる。
俺も体力的にはしんどくもあるが久方ぶりにやりがいのある日々にいくらかの充足感を覚えている。
それというのもやはりクロムの参加が非常に大きい。あれは剣の腕も見事だが、それ以上に仲間に対するサポートや気の遣い方にこそ舌を巻かされた。
ごろつき集団にあれだけ目立った活躍をする人間が現れれば嫉妬や偏見の対象にすらなり得る、実際ジネットの目を盗んで有望な新人を裏でリンチして追い出した事例を、少なくとも八つは知っている。
ジパを討伐して帰ってきた直後は驚きが勝っていたが、後日にはそういった良からぬ気配がここにあったのは確かだ。それが今やどこへ消えたのか、あれを囲んでは仲良さげに酒盛りしているほどだ。
俺は常に団を外から見るようにしているからこそわかるが、あれは非常に賢い。気の遣い方も露骨でなく、戦場においてもギリギリを見極めて救援に回っている。そのお陰で彼らも適度に成果と、それによる満足感を得ている。
話す時の距離のとり方もよく、相手によって態度を変えるのだがそれが嫌味にならぬように立ち回るのが本当に利口だった。俺に対してもそういう風であるが、俺がこうして評価しているのをわかっているかのように、他のものにはないくだけた態度を取っている。
なるほどあの気難しいジネットが気に入るわけだとが得心がいく。とはいえ何があそこまでジネットの胸を打ったのかは俺にもわからない、まだあの男の中に燃える種があったことにも驚きだった。
あれだけの能力を見せるクロムだが、それゆえに納得のいかぬことがある。そもそもなぜこのような、はっきり言って掃き溜めとさえ言われるところに来ることになったのか。
なにか事情があるのは確かだろうが、あの器量があればどこでもそれなりにうまく生きられるだろうと活躍を見るたびに思ってしまう。
聞いてみてもはっきりと言うことはなかったが、どうやら首都から来たようでまたそこに戻るつもりもあるようだ。それなら尚更こんなところにいるべきでもないと思うのだが、こちらとしてはあいつがいることで助かるので悪いことではない。老婆心というのだろうが、俺もあれにうまく懐柔されているのかもしれない、だとしてもそう悪い気がしないので見事というほかない。
最近の俺たちの活躍により軍の一部では噂にもなっているらしい、わずか三ヶ月で五件もの魔獣討伐を成し遂げたのだからそれもさもありなん。ジパの他、馬より速く毒も持つ狂い猪ゴルグの群れや石壁を食い散らかす巨大ネズミのジーニッドをも制するのだから我事ながら驚異的な戦果といえよう。
評価が上がるのは喜ばしくもあり、成果報酬も増えた(過半が酒に消えたが)ので皆喜んでいる。だがそれはつまりさらなる困難を呼ぶのであり、俺のもとにもなにやらきな臭いうわさ話が届き始めていた。
今拠点を立てているここから程遠くない場所、スニリという村の近くで規模の大きい作戦が展開されているようだ。その村自体はそこまで大きくないし貴重な資源があるわけでもないが、街道を続けばアーケリアにも繋がる要所にも近いので見過ごすわけにもいかないのだろう。
何を相手取っているかわからないが、もしリュグレムシア朝が絡んでくるようならアーケリアとしてはかなり重要度の高い任務にもなってくる。
魔獣相手でなければ俺たちの出るところではないが、もし人手不足にもなれば白羽の矢が立つ可能性もある。このことを聞いた事情通の商人によれば装備品などから獣狩りのようでもあるらしく、中隊規模の人数が集まっており最近隣国から伝わったという大きな「弩」も用意しているようだ。
それ以外に攻城兵器は無いらしいので戦争ではないが、それに準ずる危難かもしれない。もし魔獣が相手となれば俺たちが駆り出されるかもしれないが、それだけの規模の作戦に普段鼻つまみ者の俺たちが参加すれば碌なことにならないのが目に見えている。
下手をすれば捨て駒として最前線に送り込まれるかもしれない。ジネットも都の将校から命じられれば断ることはできないだろう。
俺はそうならないように祈りつつ、それが叶うように今からでも慎まやかに酒をあおることにしよう。




