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燃え尽きた村にて

 空が白み始める、ジネットが集合をかけた時に来たのはわずか九名、自分含む十名が各々の武器を手に村をにらみつける。ジネットと、その補佐と思しきジョックという男。それ以外の人間はどことなく落ち着きなく、よく見れば震えているものもいる。

 ジネットが発破をかければそれらも皆、なけなしのプライドかあるいは虚勢もあるだろうが威勢よく声を上げ駆け出した。この人数であれば陣形などあったものではない、それぞれが目の前の敵を打ち倒す、それ以外に選択肢などない。

 だが無策であの魔獣を倒し切るのは不可能だ、自分もジパが火に追われて慌てているという前提のもとでなければより難しいものとなっていたであろう。


 戦ってわかったのはジパの裏側に弱点があるということ。しかし牙がある上に、のしかかられる危険があるので下から攻撃するのはリスクが大きい。だが上側には殻があるのだからそれも難事である。鈍器などが有効ではあるがあの堅牢な外殻を砕くには相応に膂力が必要とされる。

 となればやはり有用なのは火であるが、火矢の数は少ない。十数体も倒せば在庫が切れる。なのでまずはとにかく突っ込む。突っ込んでそして壁を背にして来るものから順に倒していく。

 壁は村の中にないが、代わりに首長の家かあるいは集会所のような大きな建物が外から見ても健在なのがわかる。おそらく他の建物と距離があったからであろうが火が回らなかったようだ。当然中にもジパはいるだろうが、まずはそれを誘い出して制圧しすぐに反転して迎撃する。


 明らかに問題だらけの作戦だが無茶をしなければ成し遂げられないのは最初からわかっているはずだ。この案をジネットとジョックに伝えたが、ジョックには猛反対された。死ににいくだけだと彼は言ったが、それはどのような作戦で挑もうとこの人数ではさほど変わらない。

 彼もそれは理解しているのだが、実際に言葉として内容を把握すると、より困難なことが実感として湧いてくるようだ。そこにジネットが言葉をはさみ、他に方法がないことをジョックに説得していた。

 やがて諦めたようにジョックも納得したが、そもそも彼が逃げ出さないことをまずは称賛したかった。なにせ殆どのものがすでに拠点に帰った後なのだから。彼はジネットに対してかなり高い忠誠心のようなものがあるらしく、それゆえに彼もまた覚悟を決めたようでもある。


 地平線が赤らみ地面も見やすくなってくる中を十名が駆ける。仲間の死骸を食べていたジパたちもこちらに気づいたようだが、それを迂回するように移動し村の中を目指す。馬はあったが確実にジパの餌食になることを懸念して連れてこなかった。そのため人足での速度はジパよりも遅く、すぐに接近されるがそれでもなお一旦無視して走り続ける。

 運良く、必死の走りにより村の中までたどり着くことができた。まだ煙が立ち上ってはいるが、ほとんどの家屋が真っ黒に焼けている。通りには焼け焦げたジパの死骸が転がり、それを避けて走ると追ってきたジパはまずそちらの方に向かった。だがすぐに食べられないほど焦げているのだとわかり、またこちらを追いかけてくる。

 その猶予でまた間が開いたがそれもすぐに埋まり接敵されるだろう。なんとしてでもそれより先に目指している建物にたどり着かなければならない。


「ひい……、ひぃぃぃ!」


 団員の一人が悲鳴を上げ口からよだれが流れている。必死の形相で、泳ぐようにもがきながら走り続けている。


「後少しだ!」


 ジネットが励まし、ついに家の前まで来ることができた。他の家よりも二回りほど大きく、たしかに周りから少しだけ離れていた。

 両開きの木扉は閉ざされているが、だからといって中にいないとは限らない。ジネットがゆっくり近づき、慎重に扉を開けた。


「いない……か?」


 ジョックが言う通り、中にはジパは見当たらない。だがまだわからない、他の家屋はまだ熱を持っているためしなかったが、熱源感知を試みる。正面にはなにもない、しかし反応がどこかに……。


「待って、入るな!」


 ジネットが仲間二人と侵入しようとしているのを静止する。


「上だ――!」

「なに!」


 言うが早いか、巨大な影がジネットの鼻先に降ってきた。


「馬鹿な……、なんだこの大きさは!」


 後ろで見ていたジョックが叫ぶ。明らかに他の個体よりも大きく、この家屋にいっぱいになるほどの巨大なジパだ。それがこちらを見ながら向かってくる、全員が慌てて逃げ出した。


「う、うおおおお!」


 興奮した巨大ジパは扉を突き破り、家を破壊しながら飛び出てきた。この家屋の中で成長したのだろうか、そしてこれが他のジパを生み出した女王だというのか。


「ありえねえ、なんてデカさだよ!」


 高さも三メートル以上あり、両手を広げても遥かに足りない幅のそれは体重一トンはありそうなほどの超重量級だ。

 他の鳴き声はカラカラと湿気った木を叩くような音に対しこれはガラガラと、戦車の動く音のような迫力がある。

 その地を鳴らすような音と威圧感に皆がおののき足が止まる。しかし後ろからは他のジパが追いかけてくる、一刻の猶予もない。


「後ろは任せた!」


 そう告げ巨大ジパと対峙する。ジネットが声を荒げた。


「馬鹿言ってんじゃねえ! それをどうするってんだ!」

「どうするもこうするも、やるしかないんだよ!」


 そう断言すると、まるで聞いていたかのように巨大ジパがこちらに向けて突進してきた。


「――危ねえ!」

「……ぐぅ、うおお!」


 とてつもない衝撃、体が砕け散るかのように全身に響いていく。人どころか馬車でも吹き飛ばされるような体当たりを、受け止める。

 相棒のバックアップを最大まで引き出し全身を強化する。筋肉も骨も特別製のこの体は相棒と完全に融合しているがゆえ、そこにこいつのエネルギーを流し込んで活性化すると普段の何倍もの力を生み出せる。

 エネルギー総量が低下している今は常時展開することが不可能だが、この一瞬だけならば気を失うこともない。


「信じられねえ、あれを止めやがった!」


 後ろから団員の声が聞こえるが、こちらを見ている場合じゃないだろう。


「そっち見てんじゃねえ、こっちは俺たちで仕留めるぞ!」


 ジネットが叱りつけている、ならば問題ないだろう。最初見たときから彼は並の戦士ではないと思っていた、彼とその部下ならばきっとやりとげられる。


「ジョック、いけるか」

「あんたこそ、酒抜けてるだろうな?」


 二人はニヤリと笑い、ジネットは槌、ジョックは剣を手にジパと交戦を開始した。他の団員もたどたどしくも全力でジパの攻撃を防ぎ、裏側の弱点を狙って剣を繰り出している。


「じゃあ俺も頑張らなきゃな……!」


 押し留めた巨大ジパはこちらを噛み砕こうと大口を開け押し込んでくる。堪えるのにも限度がある、一瞬手を離して距離を取る。

 そこで巨大ジパが跳躍した、先程何度も見たのしかかり攻撃だがこの大きさでもその俊敏性は変わらない。一瞬で視界からはずれ、上に大きな影が生まれた。大きさは変われど幾度も躱した攻撃なので、すぐに飛び退きその場を離れる。


「……うおっ」


 だがその巨体が故に着地した時の衝撃もものすごく、地面が揺れるほどのそれで動けなくなる。そこに腕の一本が振り払われた。


「やべっ」


 正面からまともに受けてしまった、この大きさだと腕一本の太さが細い木の幹ほどもある。腕でガードはしたが強化は間に合わず、大きく吹き飛ばされた。


「坊主!」


 ジネットの声がするが、焼けた家屋にぶつかり崩れ落ちた木材が降ってくる。


「おいおい、あれやばいんじゃねえか?」


 心配の声が聞こえるが、まだ大丈夫。背骨も折れていない、あばらが折れた感覚があり息が苦しいが相棒が補強する。応急処置で完治には至らないが今は動ける、腕を強化し木材をどけて立ち上がる。

 またジパと対峙し、今度はこちらから攻撃する。


「喰らえ!」


 腕を砲口に変え、つぶてを放つ。牽制だがそれなりに威力もある、人間の顔に当たれば失明しかねないほどだがジパの外殻には傷もつかない。それでも目を狙えばわずかでも怯んだ。その間に一気に距離を詰める、また腕を振るがそれもくぐってゼロ距離まで接近した。

 食らいつこうと牙が迫りくるがそれよりも更に下に身をかがめ、顎の下に斧を打ち付けた。

 ジパの悲鳴のような鳴き声が漏れるが、今までのそれとは違いまだ致命傷に至っていない。だから斧を引き抜き、そのまま抱きつく。払いのけようとジパが暴れるが、絶対に離さない。


「うぐ……これで……」


 右腕を相棒で包み、そのまま白い鎧が赤く、赤熱化していく。見た目だけでなく実際に温度も上昇し、今ならば剣も融解できる。それを斧が刺さっていたジパの傷口に突っ込み、エネルギーを放射する。ジパの内部に高温の熱波が広がり呻く声がする、めちゃくちゃに暴れ出すジパは出てきた家屋の方に向かって激突する。背中に強い痛みが走るがそれでも腕の力は緩めない。


「終わりだ!」


 とどめにもう一度、ありったけの力を持って熱線を放射した。

 やがてジパはピクピクと痙攣し、腕を引き抜くと動かなくなった。


「ぜえ……、やばい、限界……」


 疲労困憊の身で崩れそうな家から出ると、ジネットたちが残りのジパを制圧したところだった。彼らは全員が傷だらけだが、こちらの見た途端に目を丸くし、やがて笑みがこぼれた。

 ジネットと目が合うと彼は頷き、皆に向けて勝鬨を上げた。


「虫どもはもういない、やったぞ! 俺たちの勝ちだ!」


 未だ煙上がる廃村の中に男たちの雄叫びがこだました。

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