やっちまえ
初めて活動報告なるものを書きました、よければお目通しください。
ジョックから聞き出した情報によれば魔獣は「ジパ」と呼ばれている。それは強い繁殖力を持ち、季節の関わらず食欲も旺盛で人間も襲うため広く危険視されている。
大きさは六十センチから一メートルにもなる大型の「甲虫」だという。手足は八本あり体は硬い外殻に覆われている。鋭い牙を持つ肉食で、鎧も気にせず噛み砕くらしい。雄の個体は頭部に複数の角があり、その本数の数で優劣が決まるとか。
だが大型がゆえか繁殖スピード自体はそこまで早くないため、初期対応さえ間違えなければ大事には至らないとか。つまりそれを損なったから彼らの出番となったようだが、到着した時にはすでに手に余る状況だったと判断して監視を名目にあそこでたむろしていたということ。
場所は小さな村だが、ジパが目撃されてから早々に村を捨てて別のところに移っていったらしい。規模は千人足らずではあるが、家畜などをすべて連れていく猶予がなかったためそれらを餌に繁殖していると考えられる。
野菜などは食べないようなので農作物は手つかずだろう、そしてなにより問題なのが繁殖期になるとその食欲のあまり獲物がなければ共食いを始め、一定以上の個体数があればそれでなお数を増やすほどの生命力とのことだ。
流石にそのまま放置しておけばいずれ絶滅していくとのことだが、それよりも前に村から溢れ出した場合は数十キロ先の村まで襲いにかかる可能性もある。
ジョックに尋ねたところそれを否定しなかったことから、起こり得る事態だということは把握しているようだ。だのに彼らは飲んだくれその使命を果たそうとはしない、そこを聞いたが返事はなかった。
自分もそれらをすべて狩り尽くすことなどできるとは思っていないので、少しでも個体を減らし、その上で全容を把握することで応援を得られるかもしれない。
などと考えつつ目的の村が見えてきた。村には外壁も防御策もなく、普段は平和な場所だったのだと想像がつく。
外観からはジパの姿は見えないので村の中に入る必要があるが、一個体の強さも把握できていないなかで無理はできない。彼らの口ぶりからすると一体仕留めるのにも苦労するように聞こえたのでそれが数十、下手すれば百を越えるともなれば一人でどうになかるものではない。
ここから見える限り家屋は他の村々と同じく木製で、アーケリア市内の土壁の作りとは異なる。素材が故に火がつきやすく、空気が乾いているこの地域では火の取り扱いにはかなり慎重にならざるをえない。
人がいれば壁に塗料を塗り防火対策を行うのだが、廃村となって数ヶ月が経つあそこはそれもすでに意味をなしていないだろう。
つまり人もいなく、かつすでにもぬけの殻である村は「どうなろうと」問題ないということになる。であれば……。
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ジョックは火照った顔で地平線を眺め、そして騒がしい集団へと視線を移す。ジネットたちはあいも変わらず酒をあおり、くだを巻いては喧嘩を始めジネットがそれを諫める。これが彼らの日常であり、武器を手に野をかけるのはその合間にある軽い運動でしかない。
常に任務を言い渡され各地を転々とする彼らの士気は低く、ほとんどが家族や親族から見放され、あるいは死別した人間たちである。そうなれば守るものもなく、罪人であるがゆえに忠義心も薄い。
魔獣討伐は死と隣合わせの過酷な任務だが、アーケリアの都市は適切な人員配置によりその驚異から遠ざかって久しい。彼らが送るこまれるのはそれが及ばない、小さな村々の周辺ばかりである。
だからいくら魔獣を狩ろうとも称賛の声は小さく、普段の態度などから罵声を浴びることのほうが遥かに多い。これらの要素が合わさることにより、このような飲んだくれ集団は形成されるのだ。
見知らぬ少年が現れた時、彼らは内心で哀れんでいた。どうせそれもなにかの罪を犯したか、何者かに諭され、騙されこの地に送り込まれたのだろう。
そうである彼らからしたら同類が増えることは喜びもなく、慰め合う負け犬が増えただけにすぎない。
それだというのにその少年はやる気に溢れ、強い眼差しでこちらを見てくる。それが彼らにとっては苦痛だった。まるで昔の自分を見ているようで、それから侮蔑の目で見られているようで。
そのついでに少年はジネットが最も嫌う、彼を家名で呼んでしまった。団員のほとんどはその理由も知らないが、そのせいで半殺しにされた人間も大勢いる。だからそのことは絶対のタブーであり、彼も知らずとは言え虎の尾を踏んでしまっていた。
相手が子供だからジネットも手を出さなかったが、あの様子ではもう仲間に入ることは難しいだろう。一度気に入られれば気の良い、面倒見の良い兄貴分なのだが、こればかりはあれも運が悪かった。
自分たちの態度に怒りを覚えるのも無理はないが、結果少年はジパが巣食う村へと向かっていった。だがどうせすぐに引き返し、半べそをかいてここか元いた場所へ戻るだろう。夕刻になっても現れないということは後者を選んだようだ、それが賢明だろう。ここで腐りゆくのは未来多い若者のすることではない。せいぜい夢を描きながら、それが朽ちていくまで足掻けば良い。
空になった杯に酒を注ごうとジョックが立ち上がり、覚束ない足取りで酒樽に向かう。団員の一人が「どこからか」持ってきたそれの所以を誰も尋ねない、どうせ碌でもないことをわざわざ聞く気にもならない。こうした積み重ねが今の悪評の原因なのだが、どうせ落ちる一方なのだから止めることもない。
酒樽の前には先客がおり、それに続こうと思うのだがいくら待っても離れていかない。吐きそうなのであれば蹴飛ばしてでも退けなければならない、せっかくの酒にいらぬ「トッピング」をされても困る。
だがそいつは下を見ず、うつろな目で斜め上の方向をじっと見ている。飲み過ぎで幻覚でも見えているのだろうか、とにかく退いてもらおうと話しかける。
「おい、いつまでそこにいるんだ馬鹿野郎」
「……なあ、あれなんだぁ?」
呑気な声で話す男の目線の先をたどると、夕闇の中に揺らめくなにかがあった。
「煙……だな」
「だなぁ」
あの方角にはなにかがあった気がする、たしか村が……、ジパが出たとかいう……。
「そういえばあいつ、まだ戻ってこねえなぁ」
そう男が口にした瞬間、はっとジョックの脳裏にある考えがよぎった。そんな馬鹿な。
その時、後ろから走ってくる音と、叫び声がした。
「あのガキ、やりやがった! あの村に火をつけやがった!」
全員に衝撃が走る、まさかとんでもない。ジパの群れに火を放てば怒り狂ったやつらが飛び出すに決まっている。そうなれば一番近くにいる俺たちが危ない。
「全員、戦闘準備! 武器を持て!」
ジネットが号令をかける。ジョックも慌てて剣を掴み、酒のせいとも緊張がゆえともわからぬ震える手で兜をかぶる。勘弁してくれ、とんだ疫病神が現れたもんだ。
酔いで顔を青くしているものもいるなか、ジパを迎撃するために出撃することとなった。
やっちまった




