仲裁
盗人の子供らとそれを追いかける街の兵士たち、そしてそれを見物がてらついていく自分。物見遊山であるが衛兵らに見つかれば同類とみなされるのは想像に難くない。慣れないどころか初めて来る街のさらに入り組んだ路地を見失わないように、かつ見つからないように走るのは少々骨が折れる。舗装された大通りとは違い砂利道の足場には建材の崩れてできた瓦礫などで、山の中とは違う走りにくさがある。
流石に相棒の手を借りるほどのことではないのでパルクールの要領で建物のへりなどを伝って視界を確保しながら進んでいく。
少年らは慣れたものでひょいひょいと障害物を縫うように動き、わざと衛兵を近づけさせた上で二手に別れて混乱させるなど悪知恵も働くようだ。本日の、本日「も」かどうかわからないが大量の戦利品を抱えながらであるのだから大したものだ。子供だけに見えるが実は指導者がいて指南しているのかもしれない。
特に気になるのは濃い茶髪の少女、店主を煽っていた子だが彼女が今は指示をしながら衛兵たちを煽り逃げやすくしているようだ。
このまま逃げおおせるのかと思っていたが、一人の少年が転んでしまった。一番背が低くおそらく年も若い少年だが、気丈に皆に逃げるよう促している。他はそれに従い逃げ続けるがあの少女だけは振り向いて立ち止まっている。
「なにしてんだジャネム、逃げよう!」
「あいつを捨て置けねえって!」
仲間同士で言い争っていると転んだ少年を衛兵が囲む。
「ぜえ……、さあ坊主盗んだものを返しな。悪いことは言わんあの店はしばらくやめとけ、ほんとに殺されちまうぞ」
「……いやだ」
少年はうつ伏せのまま盗んだ果物を抱え込む。衛兵らも少しだけ困り顔をしたがすぐにつまみ上げて起こせば手の中からぼとぼととこぼれ落ちていく。
「離せ!」
「痛ぇ! 噛むなおい!」
抵抗する少年が衛兵の腕に噛みついた。振り払うように手を動かしたところ少年は弾き飛ばされ、廃屋と思われる半壊した建物の外壁に頭をぶつけてしまった。そしてそのまま動かなくなる。衛兵たちもしまったという顔になり、そこにジャネムと呼ばれていたあの少女が現れる。
「――ケケ! おいお前たちなにしやがった!」
「このガキが暴れるからだ、しょうがないだろう!」
自分のように客観的に見ていたらその言い分も聞けるのだが、彼の仲間である少女には受け入れられない。
「ふざけんな! この穀潰しども!」
「なんだとぉ」
罵倒で眉間にシワが寄る衛兵たち。
「あんなクズの店主を庇いやがって、あいつは自分のとこの奴隷に「ワザと」腐った果物食わせるようなやつだぞ!」
「そんなのいちいち知るわけないだろ!」
「あいつのせいでケケの兄貴は目が見えなくなっちなったんだぞ!」
なかなかひどいエピソードではあるが、それとこれとは話が別だろう。
「それとこれは話が違う! いいから盗んだものをお前も返せ、そろそろ隊長もお前たちを看過できなくなってきているんだ。有名人だぞ、お前ら」
「それだけこの街には飢えた子どもが多いってことだろうよ、皇帝万歳」
「……お前も知ってるぞ、「獣人」のジャミア」
獣人とな。
その言葉を聞いた少女の目が怒りに染まるのが見えた。衛兵の言い分には理があるが、それはそれとして彼女の逆鱗に触れたらしい。「じゅうじん」とは獣の人という意味のあれだろうか、だが彼女の頭に獣耳などは見当たらない。
「もう一度言ってみろよ」
「お前こそ皇帝陛下を侮辱しては見過ごせなくなるぞ、獣人ザガールの物乞い娘」
「――殺す」
途端に剣呑とした空気が張り詰め、他の兵士も手に武器を持って少女を取り囲む。遠くでは仲間の子どもたちも逃げ出せずに心配そうに見つめているが、このままだとけが人が出かねない。
話が終わるまでは見守っている予定だったが見過ごせなくなったので介入することとする。
「そこまでー」
「誰だ!」
隠れ見ていた近くの小屋の屋根から声をかけ衛兵たちが見上げるより少しだけ早く、少女と彼らの間に着地する。
「それ以上はお互い引けなくなっちゃうから」
「お前もそいつらの仲間か」
衛兵からすればそう見えるだろう。否定する材料も特にないが、とりあえず何も盗っていないことをアピールするために両手を上げて見せる。
「通りがかったらいい争いが聞こえたからさ、つい」
「こんなとこわざわざ通りがかるのかよ」
後ろの少女からツッコミが入る。仲裁に来たのだから黙ってなさい。
「君も、仲間を守るためなんだからつっかからないの」
「こいつらが煽ったんだよ」
「この人らは仕事をしているだけ、それに先に挑発したのは君だろう?」
舌打ちをする少女。気にせず衛兵達を見る。
「この果物と、あとこの娘の持ってる分だけ返すから今日は見逃してくれないかな」
「おい何勝手に……」
「頼むよ」
顔の前に手を立て、衛兵に「それ」を見せる。
「……いいだろう、だがいい加減にしておけよ。お前も仲間じゃないというのならこいつらとは関わり合いにならないほうが身のためだぞ」
衛兵は果物を拾い、俺の手の中から銀貨をつまみ懐に入れた。ジャミアに振り返り、彼女にも返すよう促す。
「なんで……」
「……痛っ」
横を見ると声の主はケケと言われていた少年だった。息をしていたのはわかっていたので一旦放置していたが、意識を取り戻したようだ。
「ケケ! 大丈夫か?」
「え……、うん……?」
混乱している様子だが立ち上がり、無事な様子を見せる。
「ほら、こうなったらもう争う理由もなくなったろ?」
「――はぁ……」
大きな大きなため息を吐き、彼女はしぶしぶ盗品を衛兵たちに渡す。それをうなずきながら受け取る。
「私達もお前たちを嫌ってなどいないし、傷つけたくもない。ほどほどにしておけば牢屋に放り込まずに済むんだ、それはわかってくれよ」
「知ってるさ」
口をとがらせぶっきらぼうに言い放つ少女。やがて衛兵たちはいなくなり、少女の仲間たちが集まってきた。口々に心配の声を上げるところ、少女はかなり慕われているようだ。
それらを落ち着かせたあと、彼女がこちらを向きその敵意むき出しの表情を見せる。
「それで、あんたは何者か聞いてもいいか?」
これがこの街で初めてできた友人、ザガール人の少女「獣人」ジャミアとの出会いであった。
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