首都アーケリア
アーケリア帝国の首都、レデニア市民は単に「首都」あるいは「アーケリア」と呼んでおり、まさしくこの国の中心ど真ん中に存在する城塞都市である。城壁に囲まれているが、遠くからでも果てしなく続いて見えるほど広大な敷地に作られており、その権威と経済力を示している。
高さ十メートルをゆうに超える城壁は補修痕もあるがすべて削られた石でできており、表面の風化具合から数百年にわたってこの場所にあり続けているのかもしれない。周りから少しだけ高い位置にあるこの都市に入る門は計八つで正八角形に作られている街の外周に一定間隔でそれぞれがあり平時はその半分が開放されている。
周囲の堀をまたぐように架けられた跳ね橋の先にはアーチ状の門があり、現在は木の扉が開いてあるが有事にはそれをもって外敵を跳ね返すのだろう。
近づくとその大きさに目を奪われ、さらにその城壁が二重になっていることにも気づく。内側には跳ね橋こそ無いが同じく門がつけられ、この街の重要度がわかる。
開かれた門からは大勢の人間が出入りしており、大きな荷車同士も余裕を持ってすれ違えるほど幅がある。検問もあって商人たちが衛兵に止められて積み荷の確認をされている。だが自分は子どもだということもあってか特に目をつけられるようなこともなく、平然を装っては人に紛れて無事に街の中に入ることができた。
外からもその大きさ、広さは伝わったが中も想像通り、それ以上に広々としている。大通りは幅広く、片側二車線ほどあり歩道もある。その代わり曲がり道も多く、中央に向かって坂になるように傾斜もあるため侵入者が容易に進軍できない工夫もされていた。
住居とみられる建物はみな石で作られており、木造の小屋しかなかった我が故郷とはその頼もしさも雲泥の差だ。しかし城壁と同じく建物も古さが感じられ、つまるところ地震や洪水といった自然災害からも被害を受けにくい環境にあるのだろう。
さてここで改めて、この場所がこの周辺において最も巨大な都市であり、またあらゆる文化、技術の生まれる場所でもあるというのが人々の話であり、それを確信させるような風格もある。すなわちここが「時代の最先端」だということになる。
先日見た馬車はここでも走っており、衛兵の格好も軽装兵が鎖かたびらの上に金属製の腕輪とすね当てを身に着け手には槍を構えていた、ちなみに靴は一般人含め皆サンダルのようなものを履いている。レデニアからの道も石造りで、盗賊と出会った道よりもさらに立派なものではあったが自動車両などの往来は見られなかった。
自分の知る限りではこうした、昔からある都市を形そのままに人々が暮らし続けていることは極めて珍しいようなことでもなく、環境や歴史的経緯によればままあることだ。
何が言いたいか、それは「古い」あまりにも。しかしかといって全くの予想外ではない。あの村もそうではあったし、あれがあらゆる国々から距離をおいた閉ざされたコミュニティである可能性(事実だと思われるが)もあったにはあったが、それ以外にもそう思わせる出来事や言葉も見聞きしてきた。
これは予想していたいくつかのことのうち下位にあった筈の「タイムスリップ」というものを想起させる。自身の記憶についての信用度は完全ではなく、これが妄想の類であることも否定はできない。
だが、だけれども我が心がはっきりと「こうではない」と大声で叫んでいる。
この場で声に出してこのもやもやをすっきりさせたい衝動に駆られるが、理性で押さえつける。そうして切り替え考え改める。不確定だったことが断定できたのだから、まずはそれを喜ぶべきだ。その上で問題点を思い浮かべる、無い。そう無いのだ。
今どうにかしたいのはこれからの短期的な生活の糧の調達であり、その後は気ままな旅をする予定なのだ。機械金属、電子機器の恩恵を得られないのは不便としか言えようがない、ではあるがそれがなければ生きていけないほど惰弱な人生を送ってきたわけではない(気がする)。
ならば良いではないか、古代の文化、けっこうではないか。それこそ未知のことも多くあろう、未だわからぬ「魔法」のこともある、それをじっくり調べるのには多くの時間を要するだろう。
そうこう考えていれば気力と、熱が湧いてくる。こういうことがしたかったのだ、我が人生にはこれが足りなかったのだなにせ――。
たびたび襲われるひどい頭痛、今回はその中でも特に痛みが強い。大事なことを忘れるな、お前には使命がある、失われている「なにか」が怒鳴りつけてくる。
戦え、闘え、戰え。お前の存在意義はそのためだけにある、その力と知識を持ってお前が成すべきことは――。
気づくと通りで頭を下げ膝に手をついている。脂汗が止まらない。とても嫌な夢を見た気がする、この一瞬で。けれどももう思い出せない。とても大事なようで、今の自分には必要のないような。そんなものがいつのまにか彼方へと消え、しばし呆然としていた。
いくらか人々の視線が気になりだした頃、その目が別の方向に一気に移った。通りの向こうから大声が聞こえる。
「クソガキ共、もう許さねえぞ!」
背の低い中年男性が顔を真っ赤に染め上げ誰かに怒鳴っている。そのさきには小さな人影がいくつかあり、それぞれに手に手に果物や器などを抱えていた。
見るからに子供らは窃盗犯であり、彼の言葉通りなら常習犯ということになる。
「もうって、昨日も聞いたぜクソジジイ」
一人の少女がそれをあざ笑う。年頃はこちらと同じぐらいだがその挑発的な表情は店主であろう男に効果的に機能する。みるみる赤みが強まりそのまま昏倒するのではと不安になるほどだ。
「衛兵! どうにかしてくれ!」
当然それを見た兵隊たちも追いかけてはいるが、軽々とそれを躱しながら彼らは路地に入っていった。
「こういうのはどこにでもあるよな」
呑気に言葉にしてしまうが、彼らに興味が湧いた。それにどれか一つでも取り返せばあの男性に恩を売れるかもしれない、そうすれば頼るあてもない現状に光明が指すかもしれない。下心を抱え、彼らを追いかけるため足を動かす。




