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成長

前話から時間が経ちました

 あれから二年、あっという間に時間というのは過ぎ去っていく。本当はもっと前に別の場所に行きたかったが、二年前に起こった洞窟内での出来事が懸念点となり慎重にならざるを得なかった。

 あの後、おっさんもとい「レ(代々こういう短い名前らしい)」にその時の話をしたが、半信半疑のうえ、真実だとしてもわかることなどないと言われた。


 もともと魔法や魔術など知らない(存在は否定されなかった)のに加え、森の中にも普段入らず人の生活や文化に全く疎いことで推測の一つも立たないという。

 それでも知りたければ人の国に行けばいいと話していた。そもそも大きな街などには行きたいと思っていたのでその気持ちは山々だったのだが、如何せん自分の能力に自信が持てなかったことが主な理由である。他にも近い国の文化や常識も気にはなったが、それは行ってしまえばどうとでもなることだ。とにかく洞窟の中に居た者たちの使う力やその敵対的な態度にただならぬものを覚えてしまった以上、万全の準備が必要だと判断した。


 二年という月日をかけ改めて自分が出来ること、出来なくなっていることを整理した。

 本来であれば(記憶の限り)、相棒を展開することにより皮膚の上に堅牢な鎧を纏うことが出来、身体能力の向上に加え五感の強化、気温や湿度への適応。さらには形状を変化させ鋭利な武器や洞窟のときにしたように弾丸の発射もできた。何度かの実験でそれが「可能」であることは確認した。だが一番のネックは起動時間が極めて短くなっていたことにある。


 これらのことはすべて戦闘状態や必要にかられたときに瞬時に使うことが出来、基本的に展開するだけでエネルギーを消費することなどなかったはずだ。それが今や全身を覆うことはおろか、腕などの一部分に限って展開しても莫大な体力を削られる始末。戦闘などになったときはタイミングを見極めなければ逆に窮地に陥ってしまう。

 このことは食事や睡眠で一定量の改善は見込めるが、総量については遅々として大きくならない。それが最も伸びた瞬間が例の洞窟内で見つけた奇妙な物体との接触の時だった。あれから吸収した「なにか」が自分の「枠」を広げたように感じた。


 ちなみにあれ以降一度だけ、あの洞窟を見に行ったことがある。中にいた者たちを除いても、森の奥なので大型の獣に遭遇する可能性もあったため近づくことをしなかったのだが、どうしても確認したくなったので丸一日かけて警戒に警戒を重ねてあそこに戻った。

 結果から言って中には「なにもなかった」人も、あの奇妙な肉塊さえも。地下まで埋まっていると思っていたのにその跡さえもなかった。だがよく観察するとわずかに埋め立てたような痕跡が見えた。記憶違いなどということはない以上、何者かが証拠を隠滅したということになる。そうなると可能性は低いがまたあそこに来ることもあり得る。なのでそれきり洞窟には近づかないようにした。

 あるいは肉塊が残っていれば「補充」に使えたかもしれないのだが、残念な気持ちと得体の知れない成分を接種したくない気持ちで複雑であった。


 それ以外にどうにかならないか思っていたところ、求めるものの一つがおっさんのいる洞窟にあった。おっさんが採取している鉱石のうち、本人は金にならないと言っていたものにわずかだがエネルギーを蓄えているものがあった。

 鉱石から補充したことなどなかったはずなのだが、それが特殊なものなのかそれとも実験が足らなかったかは記憶が曖昧な以上わからない。


 とにかくその石、特有の金属光沢をもつ自分の知識の限り初めて見るもので、部分部分に独特な揺らめくような淡い光が見て取れた。それを手に持つとじんわりと温かいような感覚とともに相棒がなにかを吸い取っていくのがわかる。いくつか、少なくとも十数個を吸収すれば洞窟内で放った程度の砲撃が出来るぐらいのエネルギーを接種できた。これを定期的に補充することで最初よりはかなりマシな栄養状態には戻すことが出来た。


 ちなみにそれはおっさんいわく「クズ石」であり、特に売り物にはならないとのこと。おっさんにはざっくり「そういう体質」とだけ説明し、おっさんもそれ以上聞いてくることもなかった。もう二年の仲だが、相変わらず他人には一切興味を示さない。それでも会話のバリエーションは少し増えたし、食事も自分の担当だが要望を言ってくることもある。その時に照れくさそうにしていたのが唯一、おっさんの感情が見た目からわかった瞬間である。顔に出なくとも感情が少しは読み取れるようになったが、表に出すようなことはほとんどない。おっさんは自分以外の「おぐ」に会ったことがないのでそれが普通なのかどうかはわからない。いつかおっさんの種族のいる集落にも行ってみたいものだ。


 おっさんはクズ石と言い、自分が好きに持っていっても構わないと言ってくれたが、そのときにかつて一人だけ、この石を欲しがった人間がいたと話した。それがシレナの父親だ。用途などは知らないうえ、貰いに来たのも数度だけであったらしいが、自分の栄養になるものを欲しがった理由は気になった。シレナに聞いてもわからなかった。


 そのシレナだが、洞窟から助けた以降さらに懐くようになった。助けた直後は記憶がおぼろげだったが、翌日には少し思い出したようで感謝を伝えられた。それからというものなにをするにもついてくるようになり、本人もただ見ているだけでは暇なのか、あるいは罪悪感があるのか。罠の設置やきのみ拾いを手伝ってくれる。聞いてくる分には教えるのも特に不愉快でもなく、むしろ話し相手になってくれるのだから喜々として手ほどきをした。


 彼女から向けられるものがただの尊敬や感謝だけではないことはわかっているが、ここに長居するつもりがないことやそういったことに興味がないので努めて気にしないようにしている。

 自分はどうにも他者、特に異性に向ける感情が薄いことに気づいた(思い出した)。己の身体的な状況などから推測するに、肉体が通常のそれと異なることが原因のように思えるので、彼女が好みでないとかそういったことでも無い気がしている(少女に恋慕する趣味がないのも確かだが)。

 そうして代わり映えはないが、わずかづつ力を増していく日々を送ってきたこの二年、身長もいくらか伸び、成長が停滞気味のシレナ(気にしているようだ)とも同程度の一六〇センチ弱まで育った、というより感覚的には復元。もう少し大きくなれるようにも感じているが、肉体の強度的にもそろそろ「頃合い」であろう。


 今日、ここを旅立つ決心をしたことをシレナとおっさんに伝えることとした。

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