悩み相談
IMASUZUSII
「わかってるんだ、先生も。だからなにかと理由をつけて開門の儀を先延ばしにしてるんだよ」
「それは少し穿ち過ぎじゃない?」
「開門の儀は簡単なものではないけど、だからといって選ばれた人しかできないようなことじゃない」
たしかに、世の中にいる魔術師の数を考えれば極めて危険な儀式とは考えられない。ただしその際に魔術師としても、生き物としても再起不能になる者は少なからずいると言うので、彼女のために万全を期している可能性もあるのではないだろうか。
「あたしは小さな村の生まれでさ……」
一人語りモードになっている。夕餉の折に果実酒をあおっていたがそのせいだろうか。
「傭兵くずれの山賊共にほとんどの人が殺されたんだ、まあ今どき珍しくもない話だけどね」
「そう……かもね」
色々と情勢の落ち着かない地域からか、城下の市民たちからもこうした悲惨な過去は多く聞かれた。
「あたしも傷を負って村の外に逃げたものの虫の息で……」
「そこを魔術師に救われた?」
「……そういうとこムカつく」
話を奪われて拗ねている。今のイジケている彼女は少しだけ悪戯心がそそられる。普段の暴言への意趣返しの感もある。
「だからあたしも人のためにって頑張ってるんだけどさ」
「だけど?」
「……結局魔術も戦争の道具でしかないんだって、先生の横で見ててわかったんだ」
「人を癒やすものもあるけど」
「そういうのも含めて、本人がどう考えてようと周りはどう使えば戦争の役に立つか、それしか考えてないんだよ」
事実ではある、リュグレムシアが戦禍のただ中にあるというのもあるだろうが、こればかりは人の性と思うしか無い。
「わかった風に言いやがって……」
「冷めて見えるかな」
「それなのにお前は、人を守るため? どこから拾ったのかもわからねえ魔術のくせに」
「経緯なんて問題じゃないさ、使えるなら使う。ピーシースもそうしたら良いじゃないか」
ピーシースがこれまでと違う、嘲笑するような馬鹿を見るような目がこちらに向いている。
「この国で魔術師が好き勝手に研究できるわけ無いだろ」
「まあ、そうか ズニェールの御心のままに、ってか」
それに対するピーシースの反応はなかった、出来なかったと言う方が正確だろう。
この部分に関しては自分もあまり偉そうなことも言えない、研究のためではないが生活のためとはいえアーケリアの軍に所属しているのは同じだ。違うことと言えば鎖の重さをどう感じているか。
「まあ僕も説教したいわけじゃないし、君の役に立つとも思えないから。あとは君自身がどうにかするしかないよ」
「んなことわかってる!」
あたりに響く大声に思わず見回すが、幸いに近くに衛兵はいなさそうだ。とはいえそのうち巡回している者に見つかるかも知れない。後ろめたいことはしていないが、いらぬトラブルに繋がりかねないことは避けたい。
「ならお前は、どうやって人を守る? なにから、誰を?」
核心を突く質問、その眼差しから適当に誤魔化すのは難しそうだ。
「どこまでいっても、病を除けば人を一番殺めるのは人なんだ」
何度もどこでも、いつだって。不確かな記憶が頭を過るのを抑える。
「正直言ってそれをどうこうする気はない、それをするのはそれこそズニェール始めそれぞれの国の統治者にしか出来ない」
「じゃあなにから……」
「それ以外のすべて」
「!」
「――というのは流石に無理なのはわかってる」
ずっこけるピーシース。
「けど僕は自分で言うのもなんだけど、そこそこ腕が立つ。そこらの兵士や戦士相手に遅れを取らない自信がある。」
「それで?」
「僕が戦うのは人々を脅かす邪悪、単体として一番の脅威」
「そんなものがどこにいるんだよ、そんな化け物の話なんて聞いたことも……」
「いる、“あれ”は絶対にこの世界にいる」
日に日に増していく感覚、胸がざわつきおよそ自分のものとは思えないような怒りが奥底にあるのに気がつく。
「……なんのことかわからねえけど、したいことがあるなら結構なことで」
いつの間にか、どことなくピーシースがこちらを見る目が変わっているような気がする。
「なにさ、いつもの口調と違うけど」
「いや、なんかお前こうして話してると思ってたのと違うな……とか」
「どういうことさ」
「最初はいけすかねえやつ、次は気に入らねえやつ。ちょっと前までムカつくやつ」
「おお、ひどい」
「そりゃそうだろ、そんな話し方するやつなんかどこぞのお坊ちゃんぐらいだ」
アーケリアに居たころも何度か言われたことがある、丁寧な話し方を心がけると貴族の出身かなどと聞かれることもけっこうあった。
「貴族のボンボンが手下連れて魔術のお勉強」
「なるほど、嫌われそうな属性てんこ盛り」
「けど思ったより……思ってたのの半分の半分の半分くらいまともなやつ……かも知れない」
「厳しいねぇ」
評価が上がったのは喜ぶところだろうが、彼女の言い方では微々たるものではないだろうか。そこまで微細な変化ではなさそうでもあるが。
「お前ら明日にはこの国を離れるのか」
「その予定だね、それが?」
「…………もし、もしもまたこの国に来るようなことがあれば、そのときは面白い場所をいくつか、教えてやらなくも、ない」
歯切れの悪い言い方が面白く、また愛らしく感じる。彼女なりの謝罪の気持ちが込められているのがわかる。
「うん、楽しみにしてる」
「……お前誰にでもそんな態度なのか」
「そんな……、相手によってそこまで態度を変えてる自覚はないね」
「…………あっそ」
よくわからない返しだったが、とりあえず話すことはなくなった。彼女はまだ勉強を続けるようなので、自分だけまた戻ることとする。彼女の言葉を信じモナガンは問題ないということにした。
また書物に向き合っている彼女だが、離れるまで集中できずこちらを伺うような気配があった。
邪魔にならぬようそそくさと立ち去り、再び眠りにつくこととした。
……戻ると自分の寝場所がシレナに完全に塞がれていたので端で寝たのだが、翌朝なぜか文句を言われる羽目となった。




