夜更かし
アツクテ、シヌ
夜、話していた通りピーシースは友人たちから食料を恵んでもらったようで(後日礼をするのにモナガンの名前を使ったことを悔やんでいた)それを六人で分けることとなった。僅かではあるがモナガン宅にも食べれそうなものが残っていたのでそれと合わせて夕餉とした。
量としては十分とは言えなかったが今回に関してはわがままは言えないだろう。
ただピーシースが食料を振り分けた際、大きさや形の割り振りにいくらか恣意的なものを感じたが気の所為ではないだろう。
さほど広い家ではないので寝るときはギュウギュウ詰めなのだが、夜はそこまで暑くなくなく湿度も低いため寝苦しさはあまりない。
やや距離の近い気のするシレナをそれとなく引き剥がしながらござのような寝具の上で眠っていると、人の動く気配がした。
普段から意識していなくとも寝ている時から気を張っているため、人や獣の気配には敏感であるが、ここではいつも以上に気を使っていた。モナガンを疑っている訳では無いが念のためである。
とはいえ今感じたのは入ってくるものではなく、“出ていく気配”であった。
横の人間を起こさないように気をつけつつ、静かに体を起こすと“二つ”の姿がなくなっていた。今出ていったのはピーシースだが、それ以前にモナガンもいなくなっていた。寝たときは間違いなく一緒にいたのだが、どうやって気配もなく消えたのか。
こちらを貶める意図があるか不明だが、こうなると警戒せざるを得ない。見張りのついでに先程歩いていった姿を追いかけモナガン宅を後にした。
探していたものはすぐに見つかった。モナガンの家のすぐ近くの木陰で座り込みなにかを熱心に見つめるピーシースがそこにいた。
話しかけるか迷ったが、モナガンの行方も気になったため驚かさないようにゆっくり近づきつつ声をかける。
「! ……お前」
「集中してるところ悪いね」
彼女は手にパピルスを握りしめていた。リュグレムシアでは文字を読み書きするのに石版や陶片も用いられるが、近年は植物の繊維を用いた製紙技術が発達しつつあるとのこと。ただまだまだ貴重品であり、紙自体が石などと比べて劣化しやすいことや、インク類も貴重なことから忌避するものもいるらしい。
ということで彼女の持っているものは貴重かつ高級品であり、魔術師見習いどころか今のところただの小間使いに過ぎない者が持っているのは少々不自然である。
「先生には内緒のお勉強ってところか」
「――てめえ」
殺気混じりの視線を送ってくるピーシース。脅しなどではなくこちらの出方次第では本気で襲いかかってきそうだ。
まずは落ち着けるため、争いにならないように穏やかな口調を心がけつつ話し続ける。
「大丈夫、モナガンに言ったりしないよ」
「うるせえてめえのことなんか信じられるかよ、それに先生のことを馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ」
「信じるかは君次第だけれど、そもそも僕は君たちの関係や今後にさほど興味がないから。不必要に物事を荒げようとは思わないさ」
「……そうかよ」
ひどく不機嫌そうに言い放つが、殺気がいくらか収まったところを見るに多少は信じてくれたようだ。
「じゃあなんのためにここにいるんだよ」
「モナガン……さんも居ないようでね、少しだけ心配になって周りを見てるんだ」
「先生は忙しい身だ、それにどこでなにしてようとお前には関係ないだろ」
「ご尤も」
彼を警戒しているとは間違っても言えないが、ピーシースもおおよそ察してはいるだろう。それを誤魔化す意図も含めて違う話をすることにした。
「先生の書物を借りて独学で魔術の勉強を?」
「…………」
「先生が忙しいと修行もままならないとは、難儀だねえ」
「黙れ」
取り付く島がないとはこのことか、こちらからの言葉をすべて投げ捨てるように会話を成立させてくれない。
文字が読めるくらいには今日は月明かりが点っており、彼女の顔をよく見える。するとその頬を涙が伝っていることに気がついた。
こちらが気づいたことを彼女もわかったようで、慌てて拭うがすぐに収まるようではなさそうだった。
「ここにいるのは一時的とはいえ、僕も君とは仲良くしたいと思っているんだけど、どうして僕にだけそこまで敵意を見せるのかな」
最初はアギアなどにも同じような気を向けていたのだが、いつの間にか無くなっており和やかに談笑する様子も見られた。
「お前がどう思ってるかなんて知るかよ。 ……気に入らねえんだよ」
「どういうところが?」
「お前みたいなやつが、よそ者の分際で先生の手間を取らせてるのがどれだけ迷惑なことかわかってんのか」
強い口調で言ってくるが、そこには怒りと同じか、それ以上の感情も同居しているようだ。
「それなのに……! なんで先生はお前なんかにわざわざ時間を作ってまで、ご自宅に招くようなことを……」
「それは僕だけじゃなく、全員に――」
こちらの話を遮りピーシースが声を荒らげる。
「白々しいんだよ、先生はお前に会うためにあたしを遣わせたんだ」
おそらく嫉妬、焦り。そうしたものがないまぜとなってこちらに襲いかかってきているようだ。
「それはそうかもしれないけど……、どうせ明日には街を離れるしそのあとはまたアーケリアに帰るしそうなれば――」
「あたしもわかってるんだ、あたしに、あたしには……」
魔術師としての才能なんて無い。そう絞り出すようにピーシースは嗚咽混じりにこぼした。
シナナイケド




