自分の魔術
SOTO ATUINE
「吸う……、えっと……? なにを言っているのか」
「先生、こんなやつの話なんか真に受けなくていいですよ!」
ここぞとばかりに口を挟むピーシース。今まで蚊帳の外だったうっぷんを晴らしたいのではと邪推する。だが今はそれを気に留めてはあげない。
モナガンに右腕を掲げて見せる、そして相棒を動かし外骨格を形成する。モナガンは一瞬驚いたように反応したが、すぐに目を細めて分析するように観察しだす。話はともかく魔術的なものに関しては深い造詣をもつだけはある。
「それは?」
「僕の……魔術です」
「へぇ~~」
「……みんなの前で使うんだね」
アギアが物珍しそうに見てくる。リィンも、シレナやピーシースも同様に興味深げにこちらを見ている。
今まであまり公に見せてこなかったが、正直言って多少知られたところで戦術的に不利になるわけでもない。とはいえ見せびらかすようなものでもなしに、あるいは魔術師たちの興味の的になるのも面倒に思えるのだ。ここでは必要であると判断しただけである。
「おそらく、あなた達にとってもこれはかなり独特……、仕組みや性質も異なるものだと考えています」
「ふむ」
モナガンの反応からはその意を読み取ることは出来ないが、説明の続きを待っているようだ。
「これは僕の体質、身体の状態を変化させることで様々な効果を発揮します」
「肉体と同化、つまり君自身を触媒として魔術の対象としたと」
「ありえねえ、どこの誰がそんなイカれたこと出来るってんだ」
アギアは信じられないというふうに声を震わせている。
「これを手にした、会得した経緯については説明しかねますがその能力の一つとして、触れたものの特性を解析してその一部を吸収することが出来るんです」
「吸収してそれはどういった変化をもたらすのかね」
「対象の理解と、一部性質などを獲得できます」
「……なんと」
「なんだそりゃ! そんな馬鹿げた魔術があってたまるかよ」
アギアが声を荒らげてこちらに迫ってくる。
「魔術はあらゆる可能性を秘めている、それ以外の手段で叶えられねえことを成し遂げることも出来る。だがな、決して万能の力なんかじゃねえ。条件は何だ、代償もなしに他者や物に魔術で干渉できるわけがねえ」
「アギア落ち着きなって……」
リィンがなだめているが、アギアは鎮まる様子がない。以前リィンと話したときに、アギアがちょっとしたスランプに陥っていると聞いたがそれが故だろうか。
「代償か……、正直この力に関して僕自身すべてを知っているわけじゃないんだ」
「……は?」
「言ったことなかったっけ、僕少し記憶に問題……、思い出せないことがいくつかあるんだ。親のこととか、山で行き倒れるまでなにをしてたとか」
「その話した時アギアいなかったかも」
シレナは昔に話したことがある、リィンにも軽く言った記憶があるがたしかにアギアはその場にいなかった気もする。
「なんだよそれ……、じゃあお前が自力で手に入れたわけじぇねえのか?」
「それ含めてなんとも」
肩をすくめる。これについては自分としても困ることがあるので解決したいと思うこともあるが、同時にどうやっても思い出せないのではないか、それか“そんな記憶もともと存在しないか”そんな予感もする。だからといってどうということもないが。今生きている、それで十分である。
「……話が逸れましたが、とにかくその力を使って、半ば事故のような形ではありますが肉の繭に触れたときにそのエネルギーのようなものを吸収したようなのです」
「事故というのは、その力は完全に君の制御下に無いということか?」
「うーんと……、暴走といった危険性はありませんがこの力は独立した意識のようなものがありまして」
「魔術に意識ねぇ……」
胡散臭いものを見るようにこちらを伺うアギア。先程の話を含めると今の魔術界の常識からは逸脱したことになるが、これは事実なので仕方がない。
「それで肉の繭は?」
「枯れたように生気を失ったようでした、拍動も止まって機能を停止したのではと思っています」
元々“余り物”のようであったことも付け加えて説明する。
「……疑問は尽きないがあれが処理されたというのは嬉しい話だ。使用済みというのが気に食わないがね」
そこで少しの沈黙が生まれた、外を見れば先程まで燦々と照らしていた陽はもう隠れる直前だ。
「はは、随分話し込んでしまったようだ。だが有意義な会話ができたように思えるが、君たちはどうかね」
「同感です、多くのことを知ることが出来ました」
モナガンに礼を述べ頭を下げる。その点に関しては他の三人も同じで、自分に続いてそれぞれ感謝を告げた。
「とはいえもう日も暮れてしまう、なにもないところだが寝床として使うといい。食料もいくらかあったはずだが……」
「先生、食べ物は傷んでいたので処分済みです」
「なに――?」
ピーシースの発言に愕然とするモナガン、魔術師らしく……かはわからないが私生活に関してはかなり問題がある、周りがフォローしないと食事もままならない人種のようだ。そして今はピーシースがその役目を負っているらしい。
「すぐ近くに私の知人がいます。先生のためと説明すればいくらか融通してもらえると思うので、ひとっ走りしてきます!」
そう言うとさっそうと駆け出したピーシース。その忠誠心の高さは番犬のようでもある。
「あはは……、まあ彼女が戻ってくるまでゆっくり話の続きでもしようか」
「そうしましょうか」
一度意識してしまうとなかなかに難しいが、空腹を忘れようと魔術について、この国について再び会話をしながらピーシースの帰りを待つこととした。




