魔術教室
他の建築物と同じくややくすんだ白色の石材を積み重ねて建てられているモナガンの住居は他の者達のものよりもやや大きく、彼がこの国において貴重な人材であるという証左だろう。しかしその中は足の踏み場がないほどにものが散乱していた。
「はは、お恥ずかしい」
言葉ではそう言いつつもさして悪びれる様子もないモナガン。アギアたちは気にしていない様子から、皆もこんなものなのかもしれない。丸められた羊皮紙が机を覆い、ガラス製と思われる容器、陶器の器などが床に転がっている。
「座る場所……は適当に作ってくれ」
「触っても大丈夫なんですか?」
二重の意味で問いかける。
「ああ、多分……、全部用済みのはずだから」
不安になるような返事をもらいながら、自分は上のものを避けて木の椅子に腰掛けた。
アギアとリィンは興味深げに散らばっている空き容器や、研究に使うのであろうなにかの骨や干してある皮などを見ている。
「なるほど、簡単に見せてもらえるわけだ」
「んー……、気づいちゃったか」
アギアの言葉にそう返すモナガン。あまり嬉しそうでないアギアの口調から察するに、やはりここは“予備”の研究場所ということだろうか。
「最近はめっきり別の場所に籠もりきりでね、君たちの興味を満足させられるようなものはないだろうね」
「だから……」
ぽつりと呟いたのはピーシースだ。
「もしかして君も初めてここに?」
「!」
なんとなくそんな気がして尋ねると顔をこわばらせ眉間にシワを寄せた。その後モナガンの手前ということを思い出してかすぐに表情を戻す。
「あははは、君がそんな顔もできるなんてね。今までどうして見せてくれなかったんだい?」
いたずらっぽく聞くモナガンにたじろぐピーシース。
「せ、先生に嫌われたら嫌なので……」
「魔術師にとってそんなもの関係ないとも。大事なのはなによりも才能だよ」
「才能……」
モナガンの言う才能とは魔力を感知できる能力のことだろうか。それを聞くとこくりとうなずいた。
「君の開門の儀もそろそろしてあげたいんだけどね」
「いえ、先生の研究のほうが大事ですから」
「そういうことだったんだ」
モナガンは開門の儀を行うことができないのだろうか。
「そうなんだ。僕には“そっち方面”の感覚が薄くてね」
「そっち……?」
特殊な技能なのは理解できるが、細かいことはまったくわからない。
「そうだ、魔術について聞きたいんだったね」
「そうです」
「なら簡単にだが教師の真似事でもしてあげよう」
「ひじょ~~に名誉なことだぞ」
耳元で脅すように囁いてくるピーシースに適当に返事しつつ、モナガンと向き合う。
「まずは最も基本的なこと、『魔力』と『魔術師』。その正体と関係について知っていることは?」
根源的な問いだが、魔術というものに向き合うにおいていちばん重要なことなのだろう。だがアギアの顔をちらりと見るに、かなり難しい質問のようである。
「魔力は……、この星の内に眠る大きな力……、そして魔術師はそれを特定の目的や方向に誘導する橋のような存在だと伺っています」
「通説だね。とくにアーケリアではそういう認識が主流のようだ」
「ここでは違うと?」
ゆっくりとうなずくモナガン。
「まず魔力が内側……、大地の下に眠っているというのは大部分においては正解だ。だけどもそれが全てではない。鉱石や土、流れる水にも魔力というのは宿っている。そして我々の肉体にも」
「魔石などがそうですか」
「魔石のことは知っているんだね。そうだ。これは太古には、少なくともこの国に残っている文献から推察すると年を経るごとにこうした傾向は強まっているようだ」
「大地から“染み出している”?」
「そこは不明だ。我々が徐々に変質しているとも言う者もいる。魔術の行使によるもの、食事などを通して蓄積しているなど様々だ」
そもそも魔力が地中にある、星の内側とはそういった物理的なことではないとも言われているという。
「では魔術師は?」
「魔力を感知できる、認識できるというのは間違いなく存在する性質だ。しかしなぜそれが出来るものと、出来ないものがいるのか。それを考えたことは?」
「あんたは“天命説”論者か?」
アギアが口を挟む。
「天命説とは」
「生まれ落ちるよりも前に、神様が魔術師とそうでないものを分けて作られたという説。アーケリアではこれを信じている人も多い」
リィンが説明してくれた。
「確かにそれも一つの意見だ。特に魔術師というものの特別性を補強する上でも重要な部分といえよう」
「ってことは違うんだな」
「それを答えるためにも、クロムくん君に問う」
真剣な眼差しでこちらを見るモナガン。先程までの師としての穏やかな顔と異なり、裁判官のような厳しい表情である。
「君は魔術を学んで“なにをしたい”?」
「それは――」




