訪問
クロムたちがリュグレムシアに侵入を試みたあと、少しの間心配気に家の中をうろついていたアギアとシレナだが、やがて仕方なく眠りについた。
そうして翌朝、日の出に合わせるように目覚めたシレナは朝食を用意し、遅れて起きてきたアギアとともに食べ、二人の帰りを待っていた。
すぐに帰るとは言っていたものの明確に何日で戻るかとは話していなかったのだが、シレナはどうにも落ち着くことが出来ず、研究も手につかないので拠点の回りをうろうろと歩き回っていた。
アギアは自分の研究に取りかかっていたが、いつもより休憩が多く、彼も心配しているのだとシレナにはわかった。
薪を用意したり水をくんだり、必要な作業を行いながらも集中力を欠き小さな失敗を繰り返していた。
結局その日はクロムらは戻らず、シレナは再び眠れぬ夜を過ごした。
その次の日、また早朝から帰りを待っていたシレナの視線の先に人影が見えた。顔を輝かせよく見たところ、それは望んだ姿ではなかった。
それは二日前までは待ち望んでいたはずの、ピーシースであった。
間が悪いと思いつつもアギアと二人で出迎えたが、彼女の口から思わぬ言葉が出たのだった。
「少し待ってほしい……?」
アギアが彼女の言葉にそう返すと、ピーシースも気まずそうに頬をかいた。
「街のほうがちょっと……その、落ち着かない様子でさ、案内してる場合じゃないっていうか……先生も忙しいみたいで」
歯切れの悪い様子になにか隠しているのだと感じた二人だが、その原因が何なのか尋ねた。
「いや別に戦争が始まりそうとかそんな物騒なことじゃねえんだ、ただなんか先生たちが慌ただしいみたいで……、というかクロムともう一人はどうした?」
「ええっと……」
今度は二人が言いよどむ。適当な言い訳は考えてはいたのだが、急に尋ねられたことでとっさに出てこなかった。それに逆に怪しみの目を向けるピーシースだが、すぐに話を戻す。
「だからもうちょっと待って欲しいんだわ」
「それはどれくらいになるの?」
シレナの当然の質問に答えづらそうにするピーシース。
「正直言ってわからん、ただ先生は少し待ってくれとしか言っていないから約束は破らない。それは信じてくれ」
「とは言ってもよ……」
アギアが困ったようにするが、シレナも同じく頭を悩ませる。ここにいつまでもいられるわけじゃないのだから、多少は目安がなければ待つことが出来ない。それが待ちきれなかったからクロムは忍び込んだわけで、これ以上待たされるようであれば彼も諦めて他の街を目指すかもしれない。というかそういったことを少し前にほのめかしていた。
その事も含め返答したいが、あとの二人がいない状態で返事を考えるが、アギアを見てもはっきりと言い切れないふうだ。
ピーシース側も少しは申し訳なく思っているのか、答えをせっつくこともない。
そうして無言の時間が続いていたが、シレナがハッと顔を上げた。それに気づいたアギアがその方向を見ると、見慣れた影が二つ見えた。
シレナが両手をブンブン振って二人を歓迎した。ピーシースもそれを見たが、安心したような、悔しそうでもある複雑な表情を浮かべているのをアギアは見ていた。
「ただいま」
「おかえり!」
シレナが笑顔で迎え、クロムも答えた後にピーシースと向き合う。
「いらっしゃい、ここに来たってことは……」
「……ふん」
「あのね――」
クロムに対しては異様に当たりの強いピーシースをフォローするようにシレナが今しがた話していた内容を説明する。
「あーーーー……」
クロムがなにか妙な反応、納得したような顔を浮かべた。事情を知っているのかと聞くと慌てて否定する。
「いやいやいや、残念だなーって」
「ふぅん? お前今までどこにいたんだよ」
ピーシースがその様子に疑いの目を向けた。
「少し遠出してたんだよ、東の丘陵地帯を見たくって」
「随分軽装じゃん」
「丈夫だからね」
目線で火花が散るようにせめぎ合う二人をなだめるようにリィンが仲裁する。
「それで? どうする、ここで待つの?」
「……一週間だけ待つよ。それで駄目か、連絡がないならここを離れることにしよう」
それでいいかクロムが他に尋ねると、三人ともうなずいて同意した。
「ふぅん……。まあいいや、そういうことね。わかった、そう伝えとくよ」
「うん、よろしく」
話がまとまったので帰ろうとするピーシースが一息置いてクロムに声をかける。
「先生があんたによろしくってさ」
「……? なにを?」
「知るか! 直接聞け!」
そう吐き捨ててピーシースは去っていった。




