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白銀の戦士は世界を二度救えるか  作者: バルバロ
リュグレムシア遠征編
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起床

 リュグレムシアの地下にある魔術師たちの住処、工房。いつもは魔術師同士の論争や研究が日夜行われている場所である。ただしそれは熱を帯びてはいても、地下にあることと秘匿された空間ということもあり、ある程度の慎みが備わっている。

 しかし今は普段ならばあるはずのない、喧騒と混乱が満ちている。管理者でもあるジムナンや、それと親しいモナガンなどはせわしなく動き回っている。

 それというのも、最奥に存在している大魔術師、ドノゲス=モルが目覚めたのだ。

 いつも唐突に目覚める彼ではあるが、今回も同様でありそのたびにこうして彼を信奉する者たちが世話やその要求に応えるべく奔走するのだ。


 いつも……というには頻度が少ないのだが、彼らの中に伝わることだが、ドノゲスは目覚めるとまずは大量の食料と飲み物を欲する。

 眠っていた間に失われた肉を取り戻すためであるが、明らかに彼の体の大きさに不釣り合いなほどに多くの量を求めるのだ。常人であれば一週間は保つであろう量を一度で食べきってしまうのだ。

 しかも味にうるさく、その辺の食料では満足してくれないのだ。魔術師というのは研究にかかる多額の費用を捻出するため、軍に協力するなどして資産を得ることが多い。それを今、彼の食費のために費やしている。

 悲しげな表情で金貨を手渡すものもいるが、それでも彼という存在のためであれば惜しまない。それだけの価値が彼の智慧にはあるのだから。


 ドノゲスの世話には多くの費用がかかるというのは彼らの間に伝わってはいたが、それでも聞いていた以上のものに混乱が生まれている。

 貪るようにエネルギーを欲するさまは獣のようでもあり、一見して大魔術師とは思えぬほどである。

 隙を見て休憩の時間を取っているモナガンが、同じように施設に戻ってきたジムナンと顔を合わせた。


「御仁の様子は?」

「今は研究室におられるようです、ですので何人も近づかぬよう周知しております」

「そうか……ご苦労だった」


 疲労からくるものであろう、大きなため息をついたジムナンを見て、つい先程の自分を見るようで苦笑してしまう。


「しかしあの方にはほとほと驚かされる」

「そうですね、やはり長い時を越えるというのは相応に力を要するのでしょうか」

「そうかもな、私にも理解の外であるが……」


 ドノゲスの行った魔術、如何にして可能としているのか、数百年の時を生き抜く大魔術。そしてそれだけの年数をかけてなお完成しない彼の研究。

 なにもかもが常識外れでおり、その実力、知識共にここでも一目置かれているジムナンをしてまるで理解が及ばないというのは、改めてその凄まじさを知るようである。


「ですがその……あの方は思っていた以上に多くの“欲”をお持ちのようで……」

「……言いたいことはよく分かるが、あまり公に言わぬようにな」


 モナガンが思い描いていたドノゲスとは、超常の存在で、実社会とは遠く離れた超越者といったもので、自分を含め彼に及ばぬ矮小な者たちなど歯牙にも掛けぬものだと思っていた。

 しかし彼は意識を戻して以来、食料の他にも様々なものを求めた。ジムナンが戻ってくるまで、この場所の奥では長い間嬌声が響いていた。

 ドノゲスが欲する、肉欲を叶えるためである。とはいえそれは無理矢理に行うのではなく、彼の部屋に女性を連れて行くと、それらの方から好んでドノゲスに垂れかかり、そのまま行為を始めるのだ。

 最初は彼が対象に誘惑や洗脳の魔術をかけているのかと思っていたが、どうやらそうではなく彼の内側から出る魅力に当てられているようなのだ。事実、事を終えて部屋から出てきたものを見ても魔術をかけられた痕跡は見られなかった。


 見た目にも実際にも齢数百、外見だけでも老人にしか見えないドノゲスだが、その性質も常人を越えて人を魅了するようだ。

 一節に彼は多くの女性と関係を持ってきたと言われ、その数は生きてきた年数を越えるとも言われる。彼にまつわる伝説は真偽問わず数多くあり、モナガンはこれを荒唐無稽なものと判断していた。だがあの様子からは真実だったのかもしれない。

 だがそのせいで彼の子孫を自称するものも世界中におり、モナガンも何度となく出会ったことがある。しかしその中に魔術師そのものが少なく、いたとしても自分にすら及ばぬ未熟者しかいない。そもそも魔術師とは生まれによらず、生まれてからどれだけ研鑽を重ねたかにかかっている。魔力を感知する部分のみは才能によるが、それも血縁とは無関係と言われている。


 疲労も相まり取り留めのないことを考えていると、一人の魔術師が自分のいる大広間に現れた。ドノゲスの研究室の側で控えて、なにかあればすぐに駆け寄れるよう待機していた者だ。


「ドノゲス様が幾ばくか暇が開いたということで、話をしたいならば許可してくださるとのことだ」

「おお……」

「君もよく走り回ってくれている、その栄誉を送らせてもらうよ。これは皆が同意していることだ」

「そんな……、光栄ですが、良いのですか?」

「構わんとも、それどうにも今回はかなり長い間活動なさるとのことだ」


 ドノゲスは目覚めてから再び眠りにつくまで、どれだけ活動をするかはその時により、一日ということもあれば数ヶ月ということもあると言われている。それだけあれば多くのものが彼と魔術についての会話が行える。

 短い時間であれば魔術師同士で血を流すような争いにもなりかねないが、そうではないようでモナガンも大いに喜んだ。


「では僭越ながら……」

「わざわざ言うまでもないとは思うが、失礼のないようにな」

「承知しております」

「貴重な時を過ごせることを祈っているよ」


 ジムナンからもそう声をかけられ、大広間をあとにする。

 昔から語り継がれ、モナガン自身も憧れを持ち続けていた大魔術師と、魔術について語り合える。破裂しそうなほどに高まる胸を抑えながら、彼の研究室へと足を運ぶ。

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