魔術工房
施設の中は地下水道と同じように、昔からこの地にある地下通路を利用しているらしく、ところどころむき出しの土壁があり、部分部分を木材や石材で補強してある。通りにはろうそくも立てられているが、今は火が消えているので視界を強化して歩いている。
通路は縦にも横にも狭く、一六〇センチそこそこしかない自分でも気をつけないと頭をぶつけそうになるところもある。アリの巣というほどではないが、その途中に何度か分かれ道もあるが、リィンの言うことを聞いて不用意に入らないようにしている。
今のところ変わったものは見られず、見たことのない壁飾り、宝石や骨を糸に下げたものなどがあるがさほど魔術的な意味合いはなく、それに関わる哲学などが表されているとのこと。
時間はもう深夜も深くなっているが、まだ人が残っている可能性もあるということで気をつける必要がある。研究施設とは言うが、ここで魔術の実験をしたりということではなく、瞑想や魔術師同士の討論などに使われることが多いという。
また秘密の会話をするにはもってこいの場所ということもあり、公には言えないようなことや、ここに集う魔術師のみの間でだけ共有される情報などもあるという。それはズニェールさえも知り得ない魔術の神秘や、政治とは距離を置く者たちではあっても無関係ではいられない以上、身の振り方などは考える必要がある。
あとは祭祀場としての機能もあり、時期ごとにそういった催しも行われるという。
とはいえ寝泊まりすることは出来るので、誰かいるかもしれないし、警備をしている者も数は少ないと言うがいるようだ。
魔術の研究をしているということで秘匿された場所であるのでそもそも侵入者はほぼおらず、また盗賊などが求めるようなものは殆どないので人間による厳重な守りは必要としていない。
その代わり魔術による罠などが仕掛けられており、不用意に立ち入れば最悪命の危険もあるとのこと。
とは言うが入った以上はこのまま帰るなんてことはありえないので、気をつけつつ探索を行うこととする。
「ちなみにどんな魔術が仕掛けられてるんだろ」
「色々だね、認識阻害とか精神に作用するものもあるし、護衛用の魔獣を飼ってる人もいるからそれが襲いかかってくることもあるらしいよ」
「うへぇ」
他はともかく魔獣と出くわしたら対処せざるをえないし、騒ぎになれば面倒になる。生き物の気配には細心の注意を払わねば。
「そういえば楽しみにしてって言ってたのはどこに」
「あーあれね。一番奥にあるけど、もう見る?」
「うん、時間に余裕はないし」
一番奥にあるということはそれだけ重要なもの、存在ということだろうか。魔術に使うものか、その研究成果か。詳しくないのでどういった形、種類があるかもわからない、想像を働かせるが百聞は一見にしかずと言う。
「けど入るには手間がかかる……、というか資格が無いと入れないようになってるはずなの」
「それはどういう……」
また探し出さねばならないのか、昔見たことがあるように入り口が隠されているのだろうか。
「奥にある“あれ”が入る対象を選んでいるって話で、実際実力のある魔術師しか入れないって聞いたの」
「じゃあリィンは」
「無いよ~」
となると自分はなおのこと不適格なのではないだろうか。それに選ぶとは誰かが中にいるのだろうか。
目的地に近づくに連れ道幅は広く、天井も高くなってきた。たどり着いた先には大の男が三人は横並びで通れるような大きな出入り口で、その脇には供え物と思われる果物や織物などもある。
「中には置けないからね」
「一体何が……」
どういった原理かは不明だが、中が真っ暗闇で見通せない。ただ暗いというわけではないようだ。
そう思い足を一歩前に進めた時、急に入り口が遠ざかるような感覚に襲われた。体が動く感覚はないので精神に訴えかけてくるのかもしれないが、気合や根性でどうにかなるものではなさそうだ。重圧に無理をして反抗したら精神に異常をきたしかねないほどのプレッシャーがある。
「こ、れは……なるほどきついね」
そう言ったのはリィンだ。彼女で駄目なのだからこちらは尚更であろう、諦めて引くべきか。
その時、“なにか”と目が合ったような気がした。目というよりは心の内を見られたような奇妙な感覚に襲われた。心臓が跳ねるように驚かされたが、それも一瞬のことで気がつけば先程までのプレッシャーがなくなり、何事もなかったかのように目の前に入り口が見える。
「どういう……?」
「許されたってことなのかな」
リィンが言う通り、これで入れるということだろうか。恐る恐る足を前に一歩、二歩。なにも起きない。入口をくぐり、中に入ると暗闇が晴れ、室内の様子がわかった。
「なに、これ……」
部屋の中にあったものは、豪奢なローブを纏ったミイラだった。
「これがこの国で最も重要とされる秘密、ズニェールさえも知らない、“ドノゲス=モル”当人だよ」
「……」
「そして彼はまだ“生きている”」




