7.対面
すみません、ちょっと間が空いてしまいました。
12月ともなると仕事が忙しいうえに飲み会が・・・
「君は誰だ、娘にそっくりだが本人じゃないな」
部屋に入ってきた男はそう言うと道子を見た。
「社長・・・」
「平野」
「光ちゃん」
道子以外の3人がその男見つめる。
「光ちゃんは止してくれ、私はヒラノインダストリー社長の平野光だ、」
「あっ・・・、初めまして筒井道子です」
「うちの物が先走ってすまない事をした、追って今回のフォローはさせていただくのでこの件に関しては今日で終わりにして貰う」
突然の事に愕然とする道子を置きざる様に男はそのまま喋り始めた。
「しかし社長、このままでは・・・」
「この件は俺のプライベートの話だからお前たちが口出しすることではない」
「あなたの家庭内で終わらないから私たちは動いているのよ」
「平野、お前なぁ・・・」
喧喧囂囂と各自言い合っている。
「ああ、そうだ、君には迷惑をかけたな、どれだけの金額で契約したかはまだわからないがそれ以上の額を支払えばいいだろう」
平野は顔だけ道子に向けて話のついでとばかりに言い放ち香田らの方を向く。
「・・・ざけるな」
「なんだ?」
「ふざけるな!私を巻き込んでおいて!」
道子はふつふつと怒りが沸いていた。
ただ単に巻き込まれていただけならこうも思わなかった。
しかし、運命の天秤にかけられた大切な家族との思い出の場所を軽く扱われているようで許せなかった。
それは私のわがままだとは十分に理解している。
だが捨てて置けなかった。
自分の娘と同い年の少女に殺すとばかりの剣幕で睨まれ平野は少したじろいだ。
「じゃあ、君ならやれるとでも言うのか?!」
経営者としての矜持かたじろきながらもにらみ返す。
「当たり前です!」
「面白い、やってもらおうか、言い訳は聞かんからな!」
しばしの沈黙が続いた。
「こらこら、二人ともエキサイトしすぎだろ」
伊集院がやれやれと言った感で道子の肩に手を置いた。
「まあ、彼女もこう言ってんだししばらく様子を見るんじゃだめか平野」
「伊集院・・・お前がそう言うならしばらく様子を見てやる」
そう言うと平野は部屋を出て行った。
「すまないな、ああいう事言うやつじゃないんだが家庭の状況と会社の事とプライドとかで余裕が無くてな」
「いえ、私こそ衝動的になってしまってすみません」
「嬢ちゃん、固い固いって、まあどっちもどっちだ、嬢ちゃんのエキサイトする顔なんて見れてよかったぜ、それにあいつのあんな顔久々に見るしな」
道子は衝動的に声を荒げたことを思い出し顔を赤らめた。
「あの、昔からのお知り合いだったんですか?」
「そうなんだよ、俺ら3人学生時代からの付き合いなんだ、まあそれぞれ色々あってね」
ふと、道子が微笑んでいる由里が視界に入ったが目が笑っておらず無言で歳の事は聞くなと言っているようだった。
道子は祖父の事を思い出す。
それは死の何日か前、寝たきりとなり、起きてる時間より意識の無い時間の方が多くなってきた時の事だった。
「わしが死んだらお前はここから離れなさい、そうだな土地とか全部売り払って遠いところに行くのもいいだろう」
「そんなこと言わないで」
「ハハハそんな顔するな、両親のいないお前に教えられるのは武道だけだった、もっと女の子らしい事や経験させてやれなかった事が心残りでな」
「そんなことない!私はおじい様と過ごせてよかったよ」
「そう言って貰えると嬉しいがな、とにかく道子、お前はもっと色々と武術以外の事も経験した方がいい、あれはお前の枷になる、それにあの土地はわしの棺桶に入らないからな」
すべてを伝えきって満足したようにニカっと笑うと、眠るように目をつぶりそのまま起きる事は無かった。
平野と会ってから数日たち、道子は校舎の屋上でそんな事を思い出していた。
あの日はゴタゴタしてしまい要件とやらは済ませられずまた後日によろしくということになり今日の放課後にまた本社ビルに行くことになった。
あれから、祖父の言っていた事を思い出すようになっていた。
あの場所は自分のアイデンティティーの大事なところになっている。
それは思い出という域を飛びこして執着に近いものだということは十分解っていた。
だが理解したくなかった、手放してしまうと自分が無くなってしまいそうな恐怖が有った。
横に座っている舞が心配そうな顔で道子の顔をのぞいている。
「平野さん大丈夫ですか?随分険しい顔をしてましたけど・・・」
登校した日以来、昼食を屋上食べていると舞が隣に来るようになっていた。
受け答えを減らす為会話が少なめであるが最近はお互いは少し慣れてきたようで会話が続くようになった。
「大丈夫だよー」
道子はヘラヘラと笑うような顔で答える。
「そうですか、平野さん復学してから感じが変わった感じがしていて・・・」
「そうかなー」
日がたつにつれて演技に慣れていったが偽りの人格の言葉で話すのは慣れない。
騙している事に罪悪感を感じ思わず視線を逸らしてしまう。
「そういえば今日、参考書を買いに学校終わったら台巣町の方へ行こうと思っているんですけどもしよかったら・・・」
「ごめーん、今日はすぐに帰らなきゃいけなくて」
「そうですか・・・」
この子はなんで私に関わろうとしているのだろうか?
もしかして友人との交流が無いのを何とかしてくれようとしているのだろうか、もしそうなら優しい子なんだろうな。
仕方がないとはいえ、そんな子にこういう態度を取らなければいけない苦痛を道子は感じた。
学校が終わり制服のまま、車で本社ビルまで連れていかれると由里が待っていた。
「いらっしゃ~い♪」
「随分とご機嫌ですね、それにメイクを落とすなと言われているんですが、これからどうされるんですか?」
「決まってるわ、これから・お・買・い・物♪、道子ちゃん服持ってないから買い足しに行くのよ、それにあれから光ちゃんと話したんだけど『道子ちゃん』が『弥生ちゃん』としてインフォーマルな場なんかに行く可能性が有るからそれ用の服もね」
「・・・はい?」
「お金は会社から出るから安心して、あー人のお金で散在するなんて最高!」
「由里、経費から出てるんだから限度が有るんだ、ちゃんと考えて使えよ」
「香田さん、どういうことなんですか?」
「どういうことかと聞かれてもそういう訳です、弥生様が着るような年頃の娘らしい服を購入してもらいます」
「道子ちゃんだめよ、スカートは制服しかないなんて、アタシ許さないわ」
台巣町
本社ビルから南に数km離れた繁華街。
戦後は単なる商店街だったがオイルショック等の不景気の波にのまれてシャッター通りになっていた。
その開いた店舗や土地に当時急成長していた電気製品を取り扱う店が立ち並び始め、賑わいが戻ってくる。
パソコンなども取り扱うようになるとそれに付随するかのようにアニメやゲーム等のサブカルの店も増え始めた。
円高になると、そういったものを買いに来る外国人観光客も訪れるようになり、それに呼応するように飲食店も増え、当初は東西と南北が十字に交差する通りを中心に店が多かったが、台巣町全体に店が増えていった。
ここ数年ではファッション関係の店が急激に増えており、より客層が増えている。
「白もいいけど黒も捨てがたいわ、道・・・弥生ちゃんにはどっちがいいかしら?」
「リボンとか、フリルのついた服はちょっと・・・」
「ピンクもいいわね、やだ!うそ?!新作出てる!」
「ピンクなんて似合いません」
「大丈夫だってば!腕が鳴るわー、あたしはもうこういうの着れないけどテンション上がるわー」
フリルやリボンが華美に取り付けられたロリータファッションで埋め尽くされている。
そこには生き生きとした由里、目が死んでいる道子、そして店の外に荷物係としてゲッソリとした顔をして立ち尽くしている伊集院がいた。
「あら?じゃあ向かいのお店の方が良かったかしら」
そう言って顔を向けた先にある別の店にはホットパンツに胸元が見えるセクシーな服を着せられているマネキンが立っていた。
「もっと無理です!」
「まあ、冗談はさておき、9月といえどもまだ気温高いじゃない?その鍛えられた腕や足を隠せる服となるとこういったのしか選択肢が無いのよね、それにあの子の私服こういうのが多いから」
「確かに長袖でも不自然では無いですけど、今は由里さんの趣味入っていますよね?」
「バレたか?」
由里はペロッと舌を出す。
「あー、他人のお金で散財するのって楽しいわぁ」
「あんなに買って大丈夫だったのですか?」
「大丈夫よ!必要経費だって」
店で買い物を終えた二人は台巣町内のカフェに移動していた。
伊集院は大量に購入された服を車に置きに駐車場に向かっており、二人はテーブルを挟ん差し向かいで道子はカフェラテ、由里はコーヒーを飲んでいた。
服は道子の要望でフリルやリボンの少ない地味目なものを選んで購入した。
それでも随分自己主張の強いものだったので着る機会が無い様に神に祈りそうな思いだった。
「それにしても弥生さんはロリータファッションが好きだったんですね」
「ううん、あの子ああいった服嫌いよ、ただ光ちゃんもああいった服着る子が好きじゃなかったから嫌がらせの一環で着てたのよ」
「それは本当なのですか?」
「そうなのよね、どこかで歯車がずれちゃって・・・、お互い素直に感情を出していればこうもならなかったかもって思っちゃうけどね」
「そうですか」
道子は口には出さないが喧嘩ができる肉親がいるだけでも羨ましく感じる自分を感じていた。
ふと、視線を窓の方に向けると外では今日も会った見知った制服着た少女が早足で路地に入っていくのが見えた。
「あれは・・・」
次回は肝臓を壊さないよう気をつけて早めに投稿したいです。




