23.輪舞
「フー、弥生ちゃん、ちょっと目を離したらすぐ騒ぎの中心にいるのね、でもまあ、それ以上の騒ぎにならなくて良かったわ」
「すみ……、ゴメンネー」
「あっ、舞ちゃんお久しぶりね」
「由里さん、こんばんわ」
シャンパングラス片手に現れた由里、そんな姿に少し恨めしそうに見つめる道子。
「もう、そんな目で見ないでよ、まさかこんな短時間でトラブルが発生するなんて思わないわよ」
「そう……、ソダネー」
「ところで、龍二君からダンスの申し込みをされたそうね」
「えー、ヤなんだけど」
「質問する前に答えるのね、でもゴメンね、解ってたと思うけど踊ってあげないとね、トモタケコーポレーションとは何も無くても周り反応が怖いのよ」
「は…、ハーイ」
不承不承答える道子。
「素直でヨロシイ! あっ、これ美味しい、ヴーヴクリコかな? もう一杯貰ってくるわ」
シャンパングラスに注がれた黄金色の液体を一息で飲み干す由里は道子にそう言うと空のグラスを指に挟んでウエイターを追いかけて人ごみに消えていく。
「ハァー」
「どうしました弥生さん?やっぱり嫌ですか?」
「違うよー、なんて言うかー、そうだこっち来て」
キョロキョロと周りを見渡すと舞の手を取りパーティー会場とテラスを仕切るガラス戸を開けするりと外に飛び出した。
テラスはガラス戸の幅に対して横幅が広く、壁が死角を作りパーティー会場からは見え辛くなっている。
戸を閉めると周りを見渡し話し声が聞こえる範囲に人がいないのを確認すると道子は口を開いく。
「まあ、踊らなくていいならそれに越した事は無いのですがそれは無理なのは解っています、第一逃げたくないですしね」
「じゃあ何に不満なんです?」
「まあ、、何と言いますか……」
いつもの道子と打って変わって言うのをためらってい視線が泳ぐ。
「道子さん、何を言っても大丈夫ですよ」
「本当ですか?笑わないで下さいね」
「えっ……? 笑う? 何を言うか解りませんが笑いません、私を信じてください」
その言葉に意を決したように舞の目を見る。
「私、ダンスなんて踊れないんです」
「へっ……、プッ……、クスクス」
「舞ちゃんヒドイです、今笑わないって」
「クスクス、だってあんなに言うの溜めたらもっと変な事言うかと思ったら、アーハッハッハッ」
羞恥なのか怒りなのかそれとも両方か、とにかく耳まで顔を赤くする道子と目に涙をためながら笑う舞。
「あー、可笑しかった、久々にこんなに笑いましたよ道子さん」
涙をぬぐいながら舞は頬を赤らめ睨む道子に話しかける。
「そんなに笑わないで下さい」
「ゴメンナサイ、道子さんでもそんな顔するんですね、でもダンスなんて踊れる人の方がレアですよ」
「そうなんですか? てっきり一般常識かと」
「前の学校で社交ダンス踊れる人なんていました?」
顎に手をやり真剣な面持ちで考え込む道子。
「そうですね、考えてみますといませんでしたが、そもそも友人達は会話のペースが早くて込み入った話に発展しないのでダンスを踊れるかなんて言う質問をする機会が無いのでどちらとも言いかねます」
「もう!いいですか道子さん、社交ダンスを踊れる方が珍しいんです、レアなんです」
真面目な顔で素っ頓狂な事を言い出す道子に、人差し指で指さしながら教師のように諭す舞。
「だから恥ずかしがる事なんて無いんです、それにこういった場所で踊るダンスなんて基本を知っていればリズムと相手に合わせて体を左右に動かせばいいんです」
「でもその基本が解らないんですが」
「ここにそれを教えれる人がいますよ」
「誰ですか?」
その問いに胸を張る舞。
「私です、お父さんの仕事柄パーティーに出る様になって必要だろうと社交ダンスの教室に行くことになってそれなりに踊れますよ、まあいつも壁の花だったんですが」
「壁の花?」
「その事は置いておいて下さい、とりあえず私に任せて下さい」
トンと胸を叩き自慢げな顔をしたかと思うと道子の手を取る舞。
「コンテストに出るわけじゃないんですから難しく考えないで下さい、とりあえず私が男役やりますから道子さんはリズムに合わせてくださいね」
お互いの右手と左手を合わせて肩の高さにあげる。
「それで道子さんの脇の下に左手を入れますので右手は私の肩の上に置くような感じで、肘はあげてくださいね」
向き合うと身長差が有り背が低い舞が男役と言うのも滑稽なのだが本人も感じている、それは仕方がないなと思う反面自分が女役で踊りたかったとふと思い何を考えているのだと我ながら困惑してしまう。
「右回りでリズムは3拍子なんですが『ブンチャッチャッ』と変則ですので注意してステップ踏んで下さい」
「想像以上に難しいですね」
「がんばってくださいね」
道子のらしからぬ弱音に貴重なものが見れたとほくそ笑む。
「最初の一歩目は右足が後ろで……、そうそう上手です、地祇はターンです基本的に女性が中心なので男の人に任せればいいです」
幾通りのパターンのステップを何回も繰り返す。
「やっぱり道子さん上達が早いですね、基本的に男の人に合わせればいいです、相手が上手ければ「解りやすく先導してもらえますから」
「後の先を取ればいいという事ですね?」
「後の……?」
「ええ、相手の動きを見て動きを予想し先手を取ることですよ」
「ふふ、道子さんらしい解釈ですね」
テラスの広いスペースをくるくると回る二人、赤い髪の色にに合わせた赤いドレスの道子と新緑のような深緑のドレスを着た二人、絡み合う二色が踊る様は風に揺られる一輪の花のように揺らいでいる。
「それじゃあ、最後に道子さんが男役やりますか?」
「そうですね、相手の事が解れば予想もつきやすいですね」
腕を組みかえ道子が先導する形で回り始める。
「これは難しいですね」
「リズムはいいですからゆっくり動いてくださいね、……キャッ!」
慣れない脚使いのせいか覚束ない道子の脚に舞の脚が絡んでしまいバランスを崩し壁際に倒れこむように躓く。
「御免なさい、舞ちゃん大丈夫?!」
壁際にたたきつけられそうな舞をかばい右手を壁につき、腕をは腰に回し自分の体に引き寄せる。
「大丈夫で……、じゃないです」
びっくりして抱き着いてしまった舞はぶら下がるように道子と密着してしまう。
「すみません、ビックリしてしまいまして……、落ち着くまでもう少しこのままで……、このままでいいですか?」
「はい、解りました、落ち着くまでこのままでいますね」
「あの……、ちょっと足元が覚束ないのでもう少し強く抱きしめてもらえますか?」
いったい自分は何を言っているのだろうと舞は自分自答する舞。
本当はすぐに立ち上がれる一方で、力強く抱きしめられた事でもう少しこのままでいたいと思う物理と精神のアンビバレントな思いに自分自身のことながら困惑している。
いつからだろうか道子の子と思うと少しだけ心拍数が上がる気し始めた。
この前貸してもらったハンカチもなぜか返しそびれている事を思い出す。
「舞ちゃん、大丈夫ですか?」
身長差からか壁ドンされ見下ろされるように見つめられるとそう言った様々な思いがどうでもいい様に感じ今はただ道子の黒い瞳を吸い込まれるように見つめる。
「あの……、道子さん」
「あっ、やっと見つけた、何してたのよ」
テラスのガラス戸が開かれパーティー会場をバックに由里が呆れた顔で二人を見ている。
「弥生さん、舞ちゃんにダンスを教わってましたがどうしました?」
「どうしましたじゃないわよ、弥生ちゃん」
テラスにひょっこりと顔を出した由里はあきれたように話を続けた。
「もう少ししたらダンスの時間よ準備してね」
「ハーイ、わかったよー、舞ちゃん離していーい?」
「あっ……、はい……」
舞をしっかり立たせて道子が手を離すと名残惜しそうに体に回した手を離す。
「舞ちゃん、もう行くけど一緒に行こー」
「先に行ってください、少し休んだら私も見に行きますね」
「そう……、わかったよー」
手を振って道子らを見送る舞は一人テラスに残り二人が人ごみに消えると手すりに手を置き外を眺めながらため息をつく。
「何考えてるんだろう私……」




