22.夜会
いや……、すみません、今回誤字脱字多かったですね。
色々有ってですね二日でバカルディ一本空けながら書くのはアウトですね。
道子ら一行を乗せた黒いリムジンはヒラノインダストリー本社ビルからビジネス街を通り、繁華街の脇を抜けると少しずつ街路樹が増えてきたと思うと景色が変わり始めた。
今までビル街だったがそれらが民家に変わり始めたのだが、一軒一軒は敷地面積が大きく趣が有る建物ばかりだ。
比較的新しそうな洋館風の建物だと、背の高い柵越しからしっかりと手入れされた庭園が見え、古そうな日本家屋であれば重厚な塀に囲まれており、道子の道場を含めた自宅も建てられてからそれなりの月日は経っているがそれよりも歴史を感じる。
道は広く歩道もしっかりと整備されているが人通りは無く、たまにすれ違う車は見た事も無いような高級車ばかりだ。
「こんな所に、こんな場所が有るんですね」
物珍しく車窓から外を眺めながら道子はつぶやく。
「そうね、ここは昔からこのあたりの名士が住んでいるのよ、戦争でも空襲で焼けずに残った家が多いから古い建物も多いわ、これから行くところもそのうちの一軒よ」
「パーティー会場に出来るぐらいだからさぞかしすごい建物なんでしょうね」
「ついてからのお楽しみね」
「おい、もうすぐ到着するぜ、嬢ちゃん準備はOKかい?」
運転席との仕切り窓が開くと伊集院から声を掛けられ、前を向くと伊集院の肩越しからはこれから向かうであろう館の明かりが見える。
まず見えてきたのは両脇を立派な石柱で支えられた大きな門だった。
それは長年の風雨に晒され、彫られた紋様の角は丸くなってはいたが溝の一つ一つには汚れは無くきれいに手入れされている。
石柱から伸びる門扉は大きく開け放たれ、道子らが乗っているようなリムジンもしくは高級そうなスポーツカーが引っ切り無しに通過していく。
伊集院が運転するリムジンがガードマンの指示に従い門をくぐる。
門の先では道はまっすぐに伸び、その道沿いには壁のように刈り揃えられた木々が伸びている。
そしてその先には映画から抜け出したような立派な洋館がライトアップされて待ち構えるようにそびえ立っていた。
そのまま洋館の前まで進むと、直径が10mはあろうかと思える巨大な噴水が有り、そこを中心にロータリー状に道が続き洋館の入口に横付けできるようになっており先ほど門をくぐっていた車が数珠つなぎで停まっている。
入り口前に佇む燕尾服を着た執事風の男が停車した車から次々と降りる人たちを入口に案内している。
そうして道子らが乗るリムジンの番が来る。
ドアを開けられ由里を先頭に平野と道子が並んで降りる。
由里は手にしたバックから招待状を取り出し執事に渡すと、それを受け取った執事が少し眉を動かしたかと思うと胸元に手をやりインカム越しに何やら呟いたかと思うとこちらに向かって首を垂れる。
「ヒラノインダストリーの平野様ですね、申し訳ありませんが少々この場でお待ちください」
「あら、ここまで来て中に入るのを断られるのかしら」
頭を上げた執事の意外な言葉に笑みをたたえて答える由里。
「いえ、そうではございません、会長からは平野様が来られたらパーティー会場に行かれる前に奥の間に来てもらいたいとの事でもうしばらくしたら迎えの者が来るのでそれまでお待ちしていただきたいのですが、どうやら担当の者が来たようです」
そう言って視線を洋館の入り口側に相手がむけるのでそちらの方を見てみると背広姿の男と古風なメイド服を着た女がこちらに近づいてくる。
その二人の顔が認識できる距離まで近づいてきた瞬間、道子は頭が痛くなってきた。
なぜなら女の方は校舎の屋上で麗に絡まれた時に麗をいさめ、永江町では問答無用で蹴りを入れてきた志乃と呼ばれた人物で、男の方はその時志乃を止めた男であり、そこから導き出された答えとしてはその問題の麗が友武の関係者だという事だ。
「皆様、お待たせしました、奥の間までご案内させていただきます」
メイド服姿の志乃は三つ編みにしていた髪を後頭部でお団子状に纏めシニョンで包んだ頭を下げる。
「弥生様に関しては先日、金白学院では大変ご迷惑をお掛けしました」
満面の笑みで頭を上げ、言葉を続けるのを見て、永江町での道子と弥生に扮した道子が同一人物だと言うことに気づいて無いことにホッとするも。
「ど・う・言・う・事・か・な?」
と、小声で平野がガスガスと道子の脇を肘打ちしながら誰にも聞こえないように問いただしてくる。
「金白学院でちょっと会っただけで特にお話しすることは有りませんでしたわ、お・父・様」
そう、何も無かった、とりあえずは意地を張ってそうは言ったものの、屋上で友武の関係者と思われる麗にぶたれた事や、永江町で麗の手を引き歩き回り、目の前の志乃に問答無用で蹴りを入れられた事は無かったと思いたかった。
だがしかし目の前を歩く志乃は紛れもない現実であり逃れようのない真実だと物語っている。
開け放たれた洋館の正面入り口、トラックでも苦も無く通れそうなサイズの扉をくぐり、エントランスに入るとその先はパーティー会場になっている大広間になっていた。
煌びやかな衣装に包まれた雑多な人々が思い思いに談笑している。
そのまま大広間に通されると道子は思っていた。
「平野様、こちらです」
志乃がこちらに振り向き案内するのは大広間の入口を迂回するように設置された吹き抜けエントランスホールの2階に続く階段であった。
階段は扉の両脇から湾曲するように中心に向かって一つになりそのまま真っ直ぐに吹き抜け2階の廊下に続いている。
階段を上がり廊下の先の扉を抜け長い廊下を黙って前を歩く志乃に続く道子ら一行、ふと気づくとその志乃は何やら機嫌が良さそうに鼻歌交じりでスキップを踏みながら進んでいる。
「そう言えば弥生様は龍二お坊ちゃまのハートを射止めたそうですね、わたくしは大変喜ばしく思っています」
「おい、志乃」
「つきましては、わたくしこと志乃は全力でそれを応援する次第であり、必要とあれば公私を問わずご助力したいと考えてます」
「志乃! しゃべるな!」
「そうすれば私と麗お嬢様との蜜月が……、いえお二方の幸せが有ると思うのです」
「もう黙ってろ志乃……、すみません平野様、普段はまともなんですが麗お嬢様が絡むと、どうもポンコツになりまして」
「いえいえ、お気になさらずに誰しも欠点の一つや二つ有るもんですよ、なあ、弥生」
畳みかけられる情報に沈痛な面持ちになる道子を見てニヤニヤしながら口を開く平野。
「あの、すみません志乃さん、それはどういう事です……、なのー」
余りの事に思わず素でしゃべりそうになる道子だが、そんな事はお構いなしに上機嫌で志乃は口を開く。
「何しろ友武の放蕩息子と言われた龍二坊ちゃまが弥生様にお会いした事で人が変わったように真面目になったと、ものすごい噂になってますわ」
「おい、龍二様に失礼だろ」
「え……、えー、わた……あたしー、何もしてないよー」
「してるしてないは関係ないです、大事なのは弥生様のおかげで龍二坊ちゃまが更生したことです、そしてお二人がお付き合いした暁には傷心の麗お嬢様を慰める私、そこから発生する信頼関係はいずれ恋心に発展し……、キャー! どうしましょう!」
「何、この子、脳内妄想ダダ漏れだわね」
「すみません、身内の恥を晒してしまい……」
頬を紅らめ恥ずかしさで片手をその頬に当て、もう一方の手で膨らんだ妄想を霧散させるかの如くパタパタと振る志乃、それを呆れかえって見ている由里に申し訳なさそうに大きな体をしぼめる付き添いの男、あまりのテンションに唖然とする平野を尻目に本当に頭痛がしだした道子。
(また、展開に流されてしまいそうですね、でもこれは私の人生ですからそうやすやすと手綱を握らすわけにはいきません)
痛む頭に耐えながらそう心に誓う道子、ふと気がつくと志乃は大きな扉の前に立ち止まり此方に振り向く。
凝った意匠の扉は重厚感にあふれ扉一枚だけでも道子の想像を超えるような値段だというのは考えなくても解る。
「応接室でございます、ここでしばらくお待ちいただけないでしょうか?」
扉を志乃が重々しく開き応接室に通される。
その部屋は柔道や剣道の試合で使うエリアぐらいのサイズの部屋で人が暮らす部屋としたらかなり広い。
壁には等間隔で様々な絵画が品よく飾られ、その絵画の隙間を埋める様に壺やら彫刻やらが飾られている。
ここに集められた一つ一つはこういった事に学が無い道子にも素晴らしさが理解でき、本当の一流とはそれが解らない人間にもそのすごさを理解させる力を持っていることを痛感させるという事を考えさせてしまう。
「あら、この絵って最近サザビーズで落札された奴じゃないかしら? 代理人が会場にいたから誰が落札させたか解らなかったけどそういう事ね」
由里は飾られた絵画を見ながら一人ブツブツと呟いている。
「そうだな、それじゃあ私は座って待たせてもらおうか、弥生も座りなさい」
「はーい」
平野はそう言うと応接室の中央に設置してあるソファーに道子を呼びながら座り、道子は息をつくように軽薄な返事をすると平野の横に座る。
それを見た由里は二人の後ろにそっと移動し静かに立っている。
志乃と付き添いの男の方はと言うと、入ってきた扉の真向かいに有るもう一つの両開き扉の前に移動し、誰かを待つように佇んでいる。
「で、我々はいつまで待ってればいいのだ」
平野がソファーにもたれかかり横柄に言い放つも本心は1mm待たされることに不満は持っていない、A県経済界の怪物とプライベートの付き合いなんて本心ではしたくないし出来ればこのまま来ないで帰ってしまいたいと思っているのだが、弱みをちらりとも見せたくない一心で虚勢を張る。
「すみません、何分来客が多すぎて手早く済まそうとしてはいるのですが……、もうしばらくすれば大旦那様が来られると思います」
志乃がこちらを見据えて淡々と答えていると隣に立つ付き添いの男がインカムのイヤホンに手を当て何か聞こうとしている。
「なんだ? そうか、解った……、志乃、もうじき来られるそうだ」
そう言うと二人は扉の両脇に左右それぞれに一人づつ立ち頭を下げた瞬間に扉が大きく開けられる。
「おお! 平野君よく来てくれた、待っておったよ」
そこに立つ紋付袴の老人、年の頃は70前後だろうか、背は平均的な身長だったが肉付きはよく、背筋は一本筋が入ったようにしっかり伸びており、足腰の強さを感じられる。
「君が弥生君か! わしが『友武 寿一』だ、孫が世話になったみたいだな!」
無邪気な笑顔で周囲の反応を無視してつかつかと道子の目の前まで来る寿一に、何故か弥生は事ある度に大声で笑っていた祖父の事を思い出す。
「なんだ? ボーっとしおって、寝てるのか?」
「いえ、そう言……、違うよー、ちょっとびっくりしちゃっただけー、おじいちゃん元気だね!」
「ガッッハッハッ! おじいちゃんときたか! まだ若いつもりだったんだがな!」
ボンヤリしてしまったせいで演じ損ねた道子であったが豪放磊落な感じで笑い飛ばす寿一は気にしてないようでホッとする。
「平野君、悪かったな! 孫が世話になったという君の娘さんに挨拶したくてな、なにしろパーティー会場に行ったら有象無象に囲まれて近づけるかも解らんからの!」
「いえ、お気になさらないでください、うちの娘がお孫さん迷惑をお掛けてないかどうか心配していましたよ」
満面の笑みで平野を見る寿一、その眼力に脇や背中や手のひらから壊れた蛇口のように汗がしたたり落ちてくるが、顔からは一滴も出ず笑顔で対応できている自分を褒めたくなる状況。
「いやー、良かったよ、孫をよろしく頼むよ弥生ちゃん」
「やだー、だから勘違い? だってばー」
そう言って右手を前に出し道子に握手を求める寿一。
昔から道場でいい組手ができた時によく握手を求められていたので、条件反射で握り返す道子だった。
手を合わせた瞬間、寿一の顔が一瞬真顔になるが、次の瞬間ニカッと笑う。
「わざわざ呼び立ててすまんかったな、それではパーティーを楽しんでくれ、旨いもんも、旨い酒もたくさん用意してあるからな! さあ、行った! 行った!」
歳とは思えない力でグイグイと押され部屋の外に出される道子ら。
「台風みたいな勢いでしたね……」
「俺がつかれる理由が解るだろ……」
平野らが出ていき、静かになった応接室で寿一は憮然とした顔でソファーに座り続ける。
パーティー会場から聞こえてくる音楽や談笑する声が何を言ってるかハッキリと聞こえる中重々しく寿一が口を開く。
「おい、加藤、お前の報告だと平野の娘は龍二と同じだと聞いていたがな」
「はい、調査の結果そう報告を受けています」
加藤と呼ばれた付き添いの男が頭を垂れたまま答える。
「会った感じじゃ能力隠して飄々と生きてるというより不器用な奴が一生懸命何かを演じている感じがするんだがな、それにあの手はなぁ……」
「とりあえず第一関門はクリアーってとこか、とりあえず一安心と思いたいな、まあ、なんにしてもこのパーティー会場にはA県のえらいさん方が集結してるから俺は今から挨拶に行ってくる、弥生は自由に過ごしてくれ、由里、『娘』の面倒は頼んだぞ」
「えっ?! 光ちゃんちょっと!」
パーティー会場に来た道子ら一行、平野は矢継ぎ早にそう言うと人間の海の中に飛び込むように突入していく。
「まあ、しょうがないか、道子ちゃんお腹がすいちゃったからってガッツいちゃ駄目よ、せっかくだからあたし軽くお酒取ってくるからこの辺にいてね、すぐ戻ってくるわ」
由里は由里でそう言うと、お盆に色取り取りのカクテルを乗せたウエイターの後を追いかけていく。
「確かにお腹は空いてましたけど、色々有りすぎて空腹も忘れてしまいましたね」
人心地にそうつぶやくと周りを見渡す。
スーツを着た男たちと華やかなドレスを着た女達。
それぞれ関係者通しで集まっているせいかパレットの絵の具のが軽く混ぜられたしているように人々が係わりあっている。
そんな様子を疲れからボーっと眺めていると背後から抱きしめられる。
「弥生さん、見っけ!」
「舞ちゃん……」
振り向いた道子を見て、鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をする舞。
「キレイ……、あっごめんなさい、ボーっとして、由里さん見かけて傍に赤い髪が見えたから弥生さんだと思ったんですけど随分感じが変わりましたね」
「ありがとー、舞ちゃん家もパーティー呼ばれたの?」
「そうなんですよ! 聞いてください! うちのレストランが今日のパーティーの料理を担当した関係でお父さんがパーティーに呼ばれたけどセレブが集まる所に一人で行くのは怖いから誰かついてきてくれって、そしたらお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも忙しくて行けないって言われて『舞、頼んだぞ!』ってあたしに丸投げするんですよ!」
リスがひまわりの種を頬張ったように頬を膨らましてまくし立てる舞。
「同い年の子なんていないからつまんないなぁって思ったら、道こ……弥生さんを見つけて嬉しくって……」
興奮してまくし立てる様にしゃべり続ける舞だが、そこまで言って自分が我を忘れて後ろから抱き着いた事を思い出し、見る見るうちに鬼灯のように顔を赤くする舞。
「舞ちゃんありがとー、舞ちゃんがいて安心ー?」
そう言うと道子は舞の体に手を回しやさしく抱きしめる。
「今日は会えてうれしいです、不慣れな場所で不安だったんですよ」
「ヒャイッ?!」
舞の耳元で優しく微笑み周りに聞こえないように囁く道子。
その気の緩みか、そのお腹から地獄からの地響きのような音が聞こえる。
〝グウ―――――″
「すみません、今のは聞かなかった事に……」
「フフッ、何かありました? 何も聞こえませんでしたよ、 あっ、料理食べに行きましょう、お父さんとこのコックが調理した料理、美味しいですよ」
クスクスと笑う舞の指刺す方向にはオードブルの置かれるテーブル、そちらに向かって手を引かれる。
平野の娘として人目のあるところではしたなく食べる事に忌避感は有る。
周りを見ても食事に手を出している人はおらず、手にしてもいるのはシャンパングラスかカクテルグラスぐらいで、その手を汚している人はおらず、気が引けたが空腹に負けて引かれるがままにテーブルに近づいていく。
「あれ、レバーペーストのカナッペなんですけどレバー特有の臭みが無くておいしいんですよ、その横の鴨のローストも柚子胡椒をつけると抜群ですよ」
にこにこしながら話しかける舞、そんな道子の目に料理の置かれたテーブル越しに立つ、金髪の青年の姿が入った。
こちらから見て後ろを向いている為顔は見えないが立ち振る舞いには覚えが有る。
その青年の周りには、薔薇が咲いたようにあでやかな女性たちが大木に絡むツタのように群がっていた。
「綺麗な人が集まってますね弥生さん、どうしました?」
「いえ、どこかで見たような……」
その視線に気づいたのか青年が振り返り、道子と目が合うと満面の笑みをして囲んでいた女性らを置き去りにしてこちらに向かってくる。
「久しぶりだね、来てくれると思っていたよ」
「そだっけー?最近会ったばっかだよねー」
「いやー、出会った時の衝撃が強かったせいかな?」
「じゃあ、もうちょっと強くやっとけば良かったかなー?」
自分の顎を拳でコツコツ当てながらニコニコとうれしそうな顔で語りかける龍二に道子も笑顔で答える。
ただその目は笑っていなかった。
だがそんな事は気づいてないように笑顔を絶やさず龍二は歩を休めずに道子の目の前まで来て立ち止まる。
龍二の後ろでは先ほどまでの女性たちが道子の事を困惑と憎しみの目で睨みつけてくる。
よく見るとトモタケカンパニー会長の孫だというべきか女性たち以外の人たちも龍二の動きを注視している。
(目立ちたくは無いんですが、どうしたもんでしょうか)
そんな事を考えているとズイッと龍二が一歩前に出てお互いの呼気を感じられるところまで来る。
張り付いた笑顔を崩さないように注意しながら何時でも攻撃されてもいい様、エネルギーを体に循環させるように力を入れる。
この前の戦った時のようにトリッキーな動きで攻撃されると今の立場を考えると厄介だなと警戒している道子に向かって龍二は倒れこんできた。
思わず受け止めると、おもむろに龍二は道子の胴体を腕ごと抱きしめ周りに届けとばかりに大きい声を張り上げる。
「ここで会えるなんて運命だよね、ああ! 会いたかったよ!」
後の先を取ろうと受けに回っていた、まさか無防備な捨て身で体を投げ出すとは予想できなくて思わず受け止めてしまってこの口撃。
やられてしまった、今の道子にとって一番痛い攻撃で思わず真顔になってしまう。
「どういうつもりなんです?」
「そんな顔を見れるなんてね、動いた甲斐が有ったよ、人を貶めるつもりなら自分も同じ土俵に立たないと面白くないよね」
耳元に近づいた龍二の口から小声で道子に話しかけられる。
「今なら本当にとどめを刺せそうな気がします」
「おお、怖い怖い」
周りに気づかれないように語りかける道子に対しておどけるように体を震わせながら体を話す龍二。
「この後のダンスのパートナーをお願いできないでしょうか?」
おもむろに片膝を付き道子を見つめる龍二、その背後からは本当ならば私が選ばれているはずと射殺すような視線を向けられ辛いと感じる道子。
「ヤダなー、アタシじゃーふさわしくないよー」
「本当にそうよ! あなたはお兄様にふさわしくないわ!」
会場に響き渡る高いトーンの大声。
その声に十戒のモーゼが海を割ったように人垣が割れ、一人の少女が腰に手を当て道子を睨みつけてくる。
「お兄様! そいつはお兄様をたぶらかす泥棒猫ですわ!さあ、こちらにお帰りになさって!」
「おいおい、麗そんなに腕を引っ張るなよ、痛いって、あっ弥生ちゃん後でね!」
つかつかと近寄って道子を一瞥睨みつけたと思うと龍二の腕を掴み、奥に龍二を連れていく麗。
人目が無かったら頭を抱えてしまう状況だが何とかこらえて笑顔を絶やさない道子の袖がクイクイと引かれる。
「あの、弥生さんあの子ってこの前屋上で会った子ですよね、トモタケコーポレーション会長のお孫さんだったんですね、って言いますかいつの間に龍二さんとお知り合いになったんですか?」
「それは色々有ったんですが……、話すと長くなるので今はちょっと」
ざわざわと周りがトモタケコーポレーションの孫兄妹の動向に注視している。
二人が会場の奥に消えてしばらくすると何事も無かったようにざわめきを取り戻していた。




